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そしてとうとう待ちに待った市井見学会当日。
この日はいつもとは異なり学院に登校するのではなく、市井にある中央公園に現地集合することになっている。そのため、馬車が走っていくルートも途中から違う道に入っていくため、登校の時からイベントが始まっているような感覚がした。
なんだかそれが妙にワクワクして堪らない。はしゃぎそうになる心を抑えていようとするものの、どうしても窓の外の景色が気になって見つめてしまう。
それが街に入ってきてしまえば釘付けになるわけで。
何度か城下町にお忍びで来ているはずなのに、今日はなんだかその時以上に楽しんでいる自分がいる。
皆と街を周れるからこんなに興奮しているのかしら。確かにいつもはベリエル殿下と話をするという憂鬱な用事だし、それが終わればすぐさま帰ってしまうしからきちんと街を周ったことなんて無かったけれど。
それにしたって、私ってこんなに子供っぽかったかしら。
しかし、今日は1つだけ残念なことがある。それは今日はメイドの同伴を許されていないということ。なんでもなるべく人に頼らないように庶民の事を学ぶという目的のためらしい。そのため、今日はミリア抜きでの見学会なのだ。
でも、せっかくだしお土産でも買ってきてあげよう。まぁ、きっと彼女にとってはいつも行っている馴染みの深い場所だろうから、普通の物では満足してくれないだろうけど。
う~ん、よし! ここはちょっと高めの物を奮発して買ってきてあげようじゃないの。なんだかんだ、ミリアには大変お世話になっているしね。
とかなんとか考えているうちに、あっという間に中央公園に到着してしまった。
いつもより忙しない感じで馬車が止まると、私が降りてすぐに馬車は行ってしまった。どうしてそんなに急いでいるのかしら……、この後何か急ぎの用事でもあるのかな? なんて思っていたら。なるほど、この公園馬車を止めるスペースがそんなに無いのだわ。
そもそも長時間置けるような駐車スペース自体なく、送り迎え用のターミナルスペースがちょこっとあるだけ。それも馬車が止まれるのはギリギリ5台が止められるだけの小さなスペースしかない。そりゃ急いで出ていくわけだ。
しかし、こんな登校の条件に悪い場所を集合場所にするなんてどういうつもりなんだろう。まぁ学院側の意図なんてどうてもいいか。
入口を抜け、公園内に入り、とりあえず辺りを見渡す。どこかに学院生がいるはずだと思っていたら、一角に固まっている集団を発見した。着ている制服から学院の生徒で間違いない。
それにしても、皆いつものように制服を着ているのに場所が違うだけでなんだか浮いているように見える。
「あっ! エスティ様!」
「あら、エスティ様。ごきげんよう」
集団に近づくと既に来ていたセイラとナタリーが声を掛けてくれた。嬉しそうにパタパタと駆け寄ってくるセイラはなんと可愛らしいことか。その後ろからセイラとは反対に落ち着き払ったナタリーがゆっくりと近づいてきた。
なんか2人一緒にいると姉妹みたいね。
見た目全然似ていないけど。
「ごきげんよう。セイラ様、ナタリー様」
いつものように挨拶をして軽く会釈する。ルーティンのはずなのに、挨拶の言葉を言い忘れていたセイラは少し恥ずかし気に頭をペコリと下げた。
ううん、何しても可愛い。
それにしても先ほどの駆け寄りと言い、挨拶のし忘れといい、もしかして彼女も浮かれてたりする?
「セイラ様、なんだか今日はいつも以上に楽しそうですわね」
「はいっ! 恥ずかしいですけど、なんだか浮かれてしまって……」
えへへ、と照れたように笑う姿はなんだか癒されてしまうほど、ほんわかとしている。
私以外にも浮かれている人がいてちょっと安心したわ。
「セイラ様は幼い頃は貴族じゃなかったのでしょう? こちらに来たこととかあったの?」
ふと疑問に思ったようで、ナタリーが問いかける。
ねぇそれ、なんか失礼な言い方してない?
これ大丈夫?
「はい、庶民だったころは良く! ですからなんだか懐かしくて」
ああ、なんか本人気にしてないみたい。ナタリーの問いに元気よく答えると、セイラは周りを見渡しながら目を細めた。それはまるで幼い頃の記憶を思い出しているような表情で。
懐かしいなんて記憶、私にはあまり馴染みのないものだから少し羨ましい。
彼女の表情からきっと楽しい思い出だったのだろう。
友達もできなかったと言っていたから、きっと家族との、暖かな……。
ズキリと胸に締め付けられるような痛みが走る。
私だって8歳になるまでは彼女のように家族と一緒に出掛けたりした思い出があったはず。
でも、もう今は思い出せない。10になるときには、もうぼんやりとして思い出せなくなっていたけれど、13歳のあの夏で思い出さないように閉じ込めてしまったから。今ではあったことすら危ういものとなってしまった。
あの優しい両親ならば、どこかに連れて行ってくれていたと思うのだけど。
ぼんやりと思いを馳せても、もう影すら見えない。
そんな対照的な2人の様子をナタリーは複雑な瞳で見つめていた。




