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彼女の怒号で今まで落ち込んでいた気持ちが一気に吹き飛ぶ。慌てて宥めようとしたが、彼女の勢いは止まらなかった。
「別に良いのよ? それであなたが満足するのならね。でもそうやって自分のしたことで自分で落ち込んで、まるでそうして自分を追い詰めるのが好きなのかどうかしらないけど、一人で勝手に右往左往してるの見るとね、こっちとしては腹立って仕方ないのよ! いい加減悲劇のヒロインポジションで浸るの辞めたらどうなの⁉」
ナタリーの言うことは正しい。
正しすぎて、なにも言い返せない。
だとしても、流石に言い過ぎじゃないかしらね……。
それに悲劇のヒロインって、私が一番気にしていることを!
「ちゃんと自分の役割り、理解しなさい。あ・な・た・は、悪役令嬢なの」
指を目の前に突き出し、言葉に合わせて指をツンツンと突く動作をする。
なんだろう。
言葉だけじゃなくて、この動作のおかげで更に彼女の言葉に攻撃性が増している。
言い終え、プイっとそっぽを向くと近くにあったベンチに腰掛けた。ドカンと音が聞こえそうなほど乱暴に座ると腕組みをしてそっぽを向いている。
恐る恐る近づくが彼女の様子から隣に座るのは気が引けて、結局彼女の前で棒立ちになるしかなかった。
「何してるの? 早く座りなさいよ。作戦会議するんだから」
そう言うと、彼女は自分の隣の開いているスペースを手でポンポンと叩きながら座るように促した。
ああ、座って良いんですね。
少しほっとして、ゆっくりと腰掛ける。
「あなたがしたことは無かったことにはできなさそうだし、過ぎたことは仕方ないとしても、このままじゃ駄目でしょ?市井見学会の計画がおじゃんになっちゃうわよ」
「ああ! そうだわ、すっかり忘れてた! どうしよう……」
「……私が思っていたよりも重症だったみたいね」
昨日の事のインパクトが強すぎて市井見学会の事が頭からすっぽり抜けてしまっていたわ。確かにこのままじゃヴェリタスが私たちと一緒に行動してくれないかも……。
「まぁ、このまま放っておくのも1つの作戦として有りかもしれないけどね」
「え? どうして?」
あの計画は私がヴァリタスを呼び出すことから始まるのに、険悪になった婚約者の呼び出しに彼が来てくれるとは思えない。すぐさま彼女の考えを聞く私に、スッと目を細めるとビシッとこちらを指さした。
「エスティ、そうやって私にすぐ聞くけど、少しは自分で考えてみたらどうなの?」
「ふえっ」
うう、今日はナタリーが厳しい。
だが確かに彼女の言う通り、私は彼女に頼りすぎている節がある。
しかし、私はこういう人間関係の駆け引きは前世から大の苦手、というか術を全く知らないのだ。特に恋愛関係なんてものはてんで駄目。
でも、苦手だからといって避けるのは良くないわよね。う~んと優に十分は軽く唸りながら考えた。
この間、ずっと私を待っていた彼女はやっぱりすごく優しい。
と言うか私に甘いのではないだろうか。
「わかったわ、ヴァリタスとメドビン嬢を呼び出す手紙を書いて、2人を鉢合わせる!」
これはなかなかいいんじゃないかしら。
しかし、彼女の顔はあまり変わらない。
あれ? 驚くか褒めるかはしてくれると思ったのに。
「確かに良い案だとは思うけど、果たしてヴァリタス殿下は来て下さるかしら」
「え?」
それってどういう。
「いくら最近仲良くなったとはいえ、市井見学会は2週間後よ。いくら上手くいったとしても2人の関係がこれ以上進展するとは思えない。いっても仲の良い友人止まりよ。セイラ様は別として、そんな仲の相手に呼び出されたとしても、ヴァリタス殿下が素直に来て下さる確立は低いわ。良くても半々といったところかしら」
何でもない様に告げる彼女だが、私には驚きしかない。
今日、昼食を一緒にしたときの2人は、少しぎこちないながらも結構仲良さそうに見えたのに。このまま仲良くなれば、2週間後の市井見学会で結構な仲になっているのではと思っていたけれど、どうやら考えが甘かったらしい。
確かに真面目な彼が規則を破るのはあまり想像できない。けれど、昨日私が誘った時は二つ返事で承諾してくれたのに、どうして……。
では、他の方法なのだろう、ともう一度思考を巡らせるものの、どう考えてもそれ以上に良い作戦が浮かばない。
「他の……、他の方法……? どうしよう、何も思いつかないわ」
どうすれば彼は来てくれる?
どうすればこの計画を成功させることができる?
困り果てた私が思わず溢した独り言に、ナタリーは優しく諭すように応えてくれた。
「いい、エスティ。あなたが思っているよりも、ヴァリタス殿下はあなたに御執心なの。私たちとは確実に扱いが違うわ。だからね、彼が誰かの誘いで必ず良い返事を返してくれるのは、エスティ、あなただけなのよ。それは今もきっと変わらないわ」
「私、だけ……?」
そんなことがあるだろうか。
一昨日までの彼ならまだしも、昨日酷く傷つけた相手にまだそんな好意的な感情を持ってくれていることなんてあるの?




