2-14
まるで縋るように、祈るように、その切実な願いは真っ直ぐ私だけに向かっていた。
どうすることもできず、体が硬直する。しかし、彼はそこまで言うとすぅすぃと寝息を立てていた。
言いたいことだけ言って、眠ってしまった彼に少しだけ安心したような呆れたような。自然とため息が漏れる。眠っていてもなお手をきつく握られ、どこにも行けなくなってしまった。
まるで彼に囚われたみたいだ。たったこれだけのことで、私は彼から逃げられなくなるのか。
でもこれは、少し心地良い。
ずっとこうして捕まえていてくれたなら、私の事を疑ったりしなかったでしょう。
ずっとそばにいてくれたなら、私の淋しさも切なさもあなたは理解してくれたのではないの?
どうして私を離したりしたの?
あなたは私の騎士なのに。
遠い昔に捨てた感情が、先ほどの彼の様子に感化され少しだけ蘇ってしまった。
大きな窓からガラス越しの月明りが私たちを照らしている。今日は満月らしく、その強い光は何を照らしても幻想的な美しさを生んでくれる。こんなすれ違うだけの私たちでさえもそれは例外ではないようだ。
まだ、神様が私たちを愛してくれているみたいだった。
「陛下……。陛下、どうして……」
眠ったはずの彼からうわごとが聞こえ耳を傾けた。苦しそうな声にどうにかしてあげたくなる。
きっと今は少しだけ、私はリヴェリオになっているのかもしれない。
(陛下? 国王陛下をお呼びなのかしら)
こういう時は母親を呼ぶものなのに、やはりこの人は不思議な人だ。しかし今は彼の願いを叶えるのが先決だろう。国王陛下を呼んで来ようと立ち上がりかけ、まだ彼がうわごとを言っていることに気づく。
(まだ、なにかあるのかしら?)
そっと近づき、彼の言葉を聞き漏らさないように努める。
「へい、か。なぜ、どうして……。リーヴェ、さま」
一粒の涙が彼の目じりから零れた。
心臓が跳ねた。
その呼び名は、私の愛称だ。
リヴェリオの愛称。
「リーヴェ、さま……。私は、どうして……なんで」
ぽろぽろととめどなく、閉じた彼の瞳から涙が零れる。
月明りに照らされたそれを美しいなどと思うことは、私の中になかった。
どうして?
どうして、君がそんな苦しそうな声で私を呼ぶの?
どうして、恨むように縋るように私を呼ぶ?
ただただ、彼の言葉が憎くて苦しくて悔しくて。
そして、寂しかった。
「どうして貴方がそんな苦しそうに余を……私を呼ぶのだ」
自然と零れるその言葉は、私ではなく、間違いなくリヴェリオの言葉だった。
まるで鉛のようなそれは、いままで溜まっていた、そして隠していた昔年の悲しみと恨み。
「貴方が、私を裏切ったのではないか……」
一滴の涙が私の頬を伝う。
いつか、君が私をわかってくれる日が来ると思っていた。
ずっと信じてくれる日がくると信じていた。
でもそんな日は来なかった。
ただ、寄り添ってくれていればよかったの。
分かりあえなくても誰か1人でもそばにいてくれたなら、私は幸せだったのに。
貴方にはそれがわからないのでしょう。
顔を歪め、それでも彼を見つめる私は傍からみたらどんな風に見えているのだろうか。
彼の思いに釣られて、つい前世に引っ張られてしまった。
その私の言動を、誰かに見られていたなんて露ほども知らずに。




