閑話 カリーン先生との鍛錬の思ひ出
【R-15】ちょっとぐろいかも
死亡フラグと呪いに打ち勝つためにカリーン先生と協力して鍛錬を行うことになった5歳の私は、それはもう虐待と言ってもいい、いやそれ以上の仕打ちを受けていた。
初めは魔法もスキルも使わずに、そんでもって半分以下くらいの力で手加減してあげると言っていた。
しかし私の弱すぎる防御力と、カリーン先生の強すぎる素攻撃力の為か、最初の方なんてそりゃもう酷かった。
傷を負っては拙い光魔法で治す。
光魔法の練度が低く取り敢えず修復するようなもので、レベルが上がるまでは生傷が絶えず、人前に出ることも阻まれ、昔同様病弱で引きこもっている王女様に戻ってしまった。
破壊と再生を繰り返し、負った傷に対して効率よく、早く再生出来るように身体を作り変える。
カリーン先生の攻撃にも慣れ、目で追ったり回避できるようになりまあそこそこ打ち合えるようになったかなと思い始めた頃に爆弾が投下される。
「結構慣れてきたみたいですので、今日から魔法も使用しますね。頑張って避けるか、魔法で相殺若しくは防御してくださいね!」
「やってやろうじゃないの!いいわ、かかってきなさい!」
結構戦いもサマになって来たからか、根拠のない自信も芽生え始めた私は調子に乗っていた。
後ほど私はこの言葉をひどく後悔することになる。
カリーン先生はフッ、と楽しげな笑みを浮かべると水よと唱える。
急激に辺り一帯の気温が低下し、濃霧を作り出す。
周囲一帯は霧に包まれ、カリーン先生がどこに行ってしまったかなど完全に分からなくなってしまった。
私は神経を研ぎ澄まし、耳に頼る。音・・・小さな動作を行う音・・・布が擦れる際の音・・・詠唱の声・・・!
「そこだッ!!!」
濃霧から自分めがけて飛来するものは、水の魔弾。素早く地の魔弾で相殺する。
そこにいるであろうカリーン先生の次撃に備えようとした時、背後の空気が揺らぐ。
前から撃ってきた、だから前にいるだろうと思った故の油断。
背後の気配に対し、魔法を発動させる間など無く、攻撃を防ぐ為に背後に拳を叩き込もうとする。
それが間違いだった。攻撃に出るのでは無く、避けに転じるべきだったのだ。
「うぐッ・・・・・・・!」
皮膚を突き抜け肉を裂き骨を断ち切られる嫌な感触。
べしゃりと地面に何かが落ちる。
それは先程まで私の体にあったはずのモノ。とても小さくて綺麗な白い腕があったはずの場所から赤い糸を引き地面に力無く落ちている。
私は痛みを必死に堪え、絶え間なく地面に流れ落ちる血を見て切断された根元を抑え出血を防ぐ。急いで落ちている自分の手を拾いあげ無造作に断面をくっつけ、光よと唱え回復を試みる。
「馬鹿正直に、魔法を撃った場所から出てくるはずないじゃないですか。次は気をつけるようにしてくださいね」
そう言ってカリーン先生は今度は火の魔弾を撃ち込む。
必死に相殺していくが先程受けた痛みに集中力は途切れ、皮膚が焼け爛れていく。
必死に相殺、回復を繰り返す。肌や髪の焼ける嫌な臭い・・・え、髪・・・?
「いやああああああああ!!!ちょっと!ちょっと!カリーン先生ストップ!このままじゃ私ハゲちゃう!待って待ってえええ!!!」
「あ、言うの忘れてました!トルーデ様、魔防に関しては紙防御なので、対魔法スキルが無いとモロに身体に攻撃が入るから、髪なんて簡単に燃えてしまいマジでハゲるんでした!!!このままでは毛根が死滅してしまいます!」
「ちょっとなんでそんな大事なことをやってしまってから言うの!?ちょっと!もう部分的にハゲちゃったじゃないの!部分ハゲ王女なんてイヤァアアア!!!」
思わず膝を降り泣き崩れる。
あっ、そうだ!光魔法の回復で・・・!
「光よ・・・」
私の髪は生えてこなかった。
「も、毛根は再生してますよ!良かったですね。それにほっといてもまた生えてきますよ!あともっと光魔法を極めれば髪の毛なんて全部まとめて生やすこともできますよ多分」
「多分って何!元々はカリーン先生が言わなかったせい、いや、何も考えずに魔弾をボンボンボンボン撃ってきたからじゃないですか!!!」
「う・・・すみません・・・ま、まあ終わった事ですし時間が戻るわけでも無いのでくよくよしてても仕方ないですよ!」
必死に取り繕うカリーン先生。
「反省しなさい!!!」
その瞬間空気が震えカリーン先生はあわてて跪き最上級の礼を行う。
「申し訳ございません王女殿下!何卒、何卒お許しを!」
「・・・許します。カリーン先生の言う通りもう過ぎてしまったこと、どれだけ後悔しても責めても私が成長しない限り元に戻らないのは事実・・・はぁ、どうしよう。ヒルデにもこんな姿見せられないよ・・・」
がっくりと肩を落とし項垂れる。憂鬱だ・・・
これ、カツラかなんか創造するしか無いのかな・・・
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(まさか王族でも限られた者でないと使用できないとされる特権スキルの王者の風格・・・!?レベルもステータスもはるかに格上の私が何も出来ず許しを請うことしか出来なかったなんて。凄い、凄いですよトルーデ様!)
カリーンは心の中で歓喜する。
簡単に、それこそ風が吹いただけでも死んでしまいそうな弱い存在が師をも超えてしまうであろう素質を持っている事に。
厳しすぎるであろう鍛錬に必死で食らいつき諦めずに強さを求める心の強さに。
教育する者として、一から育て上げ成長していく姿を見ていくというものはこの上ない喜びである。
それが素質もあり、自分より強くなるであるだろう可能性を秘めているなら尚更だ。
(いつか、私と互角に渡り合える日も来るのでしょうか)
自然と笑みがこぼれる。
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「ちょっとなに気持ち悪い笑いしてるんですか!笑い事じゃないんですよ!」
「えっ、なんですか!?もしかして私が髪の毛くらいなら再生できる事に気がついちゃいました!?」
なんだって?
「なっ!?治せるの!?ちょっと治してくださいよ!!!」
「え、嫌ですよ。それじゃあトルーデ様の為にならないですし、それに死ぬわけではないでしょう?私が治すのは、本当に死にそうになった時だけと最初に申しました筈です」
「いやでも、そう!私の評判が死んでしまうわ!お願いお願いおねがーーーい」
「・・・ドロンでござる」
そう言って、カリーン先生は体の周りに煙を出現させ消え去った。逃げやがったあいつ。
というか、えっ?マジで消えたんだけど、どういう原理?
煙から何かが出ていく様子なんて無かったんだけど。
目で追えてないだけ!?それとも忍者だから!?えっ、ニンジャこわ・・・
いやとりあえずこの頭をなんとかしないと。どうやったら毛が生えるんだ?
「うーーーーん、あっ、なんか少し生えてる。もしかしてこれ私のレベルが低すぎて一度に少ししか再生できてない?そんなー!なんで臓器を回復するのより髪の毛再生させる方が難しいのよ!量なの!?量の違いなの!?」
このあと私は必死に回復させ無事に元のフサフサの状態へと戻ることができた。
対魔法スキルは今日魔法攻撃を食らっていたせいか身に付いていた。
今度からはこれを使って、そんでもって頭には、髪には絶対に当たらないようにしなければと強く誓った。
悪そうな感じだけど全然悪堕ちするとかそんな予定はないカリーン先生。
頂点に一人だけでいてもつまらないのですよ。




