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第8話・友達と一緒にいるための交渉の話


 突然のリアリスの登場、そして、リッチから発せられる魔王という言葉。


 バレた、完全に……


 僕はその場でへたり込み涙が止まらなくなった。


「……ごめん、なさい……ごめんなさい……」


 涙目で謝る僕を、リアリスは優しく撫でてくれた。


「私達は、嵌められた。という事でしょうか?」


 テールが呆然と発した言葉に、胸が引き裂かれるような痛みが走った。

 誰が見たって、この状況は僕が彼女たちを嵌めたようにしか見えない。


 少しの間でも仲間だと思ってくれていた相手からの否定の言葉は、想像以上に胸を抉った。


「とりあえず、座ろうか。嵌めたってのは失礼だね。君たちにそこまでの価値はないよ」


 リアリスは、少し怒声を混ぜてテールを否定する。

 その声は、僕に見せていた優しいものとは明らかに違っていた。


 レイスのおどろおどろしい部屋は、いつの間にか、質素な会議室のような部屋に変わっていた。


 僕はリアリスの隣、フレットも僕の隣に座る。女性陣は反対側の椅子に座った。


 ここから見ても、僕たちが魔王側なのは一目瞭然だろう。

 泣いている僕を尻目に、双方の間にピリピリとした気配が満ちて、さらに悲しくなった。


 特に騙されたと感じている、テールの視線が怖い。


「テール様、落ち着いてください。まだ我々は殺されていない。必要だから殺してない、のであれば交渉の余地は残っています」


 アルナスは交渉が可能だと考えているようだった。


 リアリスは笑顔だ。

 だけどそれは、普段僕に見せていた自然な笑顔とは明らかに違う——冷たく、計算高い笑顔だった。


 アルナスは命を賭けて交渉を行うつもりなのだろう。

 どうなったら成功する?


 今は泣いてるだけじゃダメだ。

 僕はテールたちがどうやったら助かるか必死に考えなくちゃいけない。


 涙を拭い、顔を上げた。


 リアリスは何でもできる様な気がする。

 簡単にはいかないんじゃないか。でも、仲間が、友達が殺されちゃうなんて、僕は嫌だった。

 そんな不安な気持ちを察してか、リアリスが頭を撫でてきた。


 なんか僕、ぬいぐるみ扱いされてない?


 ルリヤはそんな僕たちを見て、静かに告げる。


「……魔王は私達なんて見ていない」


 リアリスの目が鋭くなる。


「魔王は、多分アシュしか見てない。私達が死んでないのは、単純にアシュが私達の死を見たくないと思ってるから」


 ルリヤが言い切ると、リアリスは小さく拍手を送った。


「あはは、ちゃんとわかってくれる子がいて良かった。意味のない交渉されても困っちゃうしね」


 リアリスがテールたちを殺さない理由が、僕だったなんて……


 知らないうちに、皆の命を背負っていたんだ。

 僕はあまりの衝撃に、呆然としてしまった。




「じゃあ、ここからが交渉だよ」


 リアリスが軽快に告げたが、場の雰囲気は重く淀んでいた。


「私は別に人類をどうのこうのしたいわけじゃないんだ。まあ、目的はのんびり生き残る事。スローライフって感じかな」


「基本魔王って人生長いから、テールちゃんの一族が征服戦争とかしないなら、それを見守っても良いよ」


 リアリスはのんびりと、テール達に利益を提示する。仲間になれとか一切言わなかった。


 仲間じゃないなら殺すだけだから、必要がないことは言わない。具体的な利益で人類を裏切らせる。それがリアリスのやり方らしい。


「……忠誠を誓わせて、何を望むのでしょう? あなたに利益があるのですか?」


 アルナスがきっちりと理由を問う。

 僕からすると、助けるのに理由なんてないんだけど……


「あー、ちょっと勘違いしてるね。忠誠なんて要らないんだよ。相互利益、それこそが私達が目指す妥協点なんだ」


 つまり?


「私はダンジョンに、街を作ろうと思ってるんだ」


「ダンジョンに街を?」


 ダンジョンはダンジョンだよね? なんで街になるの? 頭の中で疑問がぐるぐる回る。


 リアリスは淡々と説明を続ける。

「ダンジョンに必要な物を人間に持ってきてもらい、代わりにダンジョンのお宝を供給する。そんな平和な仕組みを考えていたんだ」


 ダンジョンに街を作るってことは、モンスターと戦わなくても安全に暮らせる場所ができるってことだよね?


 人間が普通に生活できる、平和な街……。農民だった僕には、それがすごく魅力的に聞こえた。

 毎日畑を耕して、税を納めて、飢えないように生きるだけの人生から、ちょっとだけ夢みたいな話に聞こえてしまう。


 言葉だけ聞くと本当に綺麗で、胸の奥が少し温かくなった。

 でも、横目でテールやフレットを見ると、彼女たちは明らかに怪訝な顔をしていた。


 僕は無意識に唇を軽く噛んだ。

 みんなと反応が違うことに、なんだか少し寂しいような、申し訳ないような気持ちになった。


「……魔王は街を支配していた事はあるのでしょうか?」


「あはは、ないよー。魔王になる前に貴族って事も無いしね」





 テールは長い間黙って考え込んだ後、意を決して問いかけた。


「何故私の家に呪いをかけたのですか?  それも計画のうち、だったのでしょうか」


 魔族になってしまう呪い。

 これの解決がテールの心の最後の鍵のだった。



 僕自身も、リアリスがそんなことを知らなかったことに驚きながら、同時に安堵と罪悪感が混ざり合って、言葉が出てこなかった。




「うーん、その呪いの詳細がわかんないんだけど、それ私のじゃないんだよね」


 リアリスは初めて困惑の表情を浮かべた。


「何とか、ならない?」

 僕は何度目か分からないけど、リアリスに頼んでみる。

 呪いさえどうにかなれば、みんなが楽しく過ごせる街ができる。

 それはとても幸せなことだと思ったから。


「ほんと、アシュはお人好しだよね」


 リアリスは小さくため息をつき、前置きした。


「貴族の敵は貴族、だと思わない?」


「え……」


 胸の奥がざわつく。

 テールがこれまで信じてきたものが、一瞬で崩れていくのが痛いほど伝わってきた。


「そんなわけないです。王国の貴族がそんな呪い作れるわけがない……」


 アルナスは悲痛な叫びを上げる。

 貴族の間に謀略こそあれど、代々続く呪い自体が他の貴族の陰謀だとは、あまりに常識からかけ離れていた。


「じ、じゃあ、私の父は、誰に殺されたんですか!?」


「一番怪しいのは、お抱えの魔法使いとかかな、貴族なら居るでしょ?」


「ま、まさか師匠が……」


「第一容疑者ではある、もしかしてその人が魔獣の牙欲しがってた?」


「……そうです」


「あれに呪いを解く効果は無いんだよ、マジックアイテムの触媒の1つなんだ。あれを使えば魔物化の呪いぐらいは作れそうかな?」


 まさか、求めたアイテムすら呪いを作るための物だったなんて……


 僕はただあまりに酷い内訳に空いた口が塞がらなかった。


 



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