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第7話・ダンジョン探索の話


 僕たちは5人で炭鉱のダンジョンに行くこととなった。

 奇しくも以前入った時と同じ、僕を中心としたパーティ編成だ。

 先導は斥候のルリヤ、前衛にアルナスとフレット、真ん中に僕、後衛にテール。


 フレットが荷物運びを申し出たけど、女性陣に遠慮され、結局各自で持つことになった。


 荷物すら持っていないのに中央にいる僕。

 これ、完全に「お姫さまポジション」だ。

 役に立たない僕を全力で援護する意味不明な布陣に、目がくらむような罪悪感が襲ってきた。


(アシュちゃんにも役割はあるよ。とりあえず皆にストップって号令かけようか)


「え、あ、皆止まって!!」


「!? 罠、気が付かなかった……」


 即座に反応する。僕とは違って、ルリヤは本当に優秀だと思う。


 ルリヤがナイフを投げて罠を無効化する間、僕は冷や汗を拭った。


(だってあのトラップ、今さっき生み出したんだもん。私はダンジョンにあるトラップや部屋なんかはコントロール出来るんだ)


 リアリスの声が頭の中で軽やかに響く。


 ……つまり、このダンジョンはリアリスの掌の上。

 いつでも僕たちを踏み潰せるってことじゃん。そんな場所に、僕が皆を誘い込んでしまった。


 冷や汗が背中を伝い、胸の奥がぎゅっと締め付けられるような恐怖が広がった。





(うーん、目的地は5階層だろ? ちょっと強敵配置するから、アシュも覚悟しておいてね)


 リアリスの軽い声が響いた瞬間、背中がぞくりと冷たくなった。

……八百長試合を面白くするための強敵配置。


 彼女にとっては遊びかもしれないけど、僕たちにとっては命が懸かっている。

 そのあまりにも軽い感覚に、吐き気すら覚えるような嫌な予感がした。




 5階層手前のボスの間の前の部屋。


「皆、ごめん。もう引き返そう」


 僕は、そう提案すると、皆の視線が一斉に振り向いた。

 今までの予知めいた発言で、皆は僕の言葉を信用してくれているみたいだ。


「ここから先は、皆死んじゃうかもしれないんだ……」


「……何か、感じたのですわね」


 テールが僕に近づく。リアリスとは違う柔らかい香りに、汗の混ざった戦う女性の匂いがした。


「必ず死ぬという運命のような物ですの?」


「違う、けど……」


 リアリスは僕たちを殺そうとしているわけじゃない。でもゲームの感覚で遊んでいる。

 肌でそう感じるんだ。


「なら、いつもと変わりませんわ。本来ダンジョンは命がけで潜る物、そのリスクは織り込み済みなのです」


 いつもと同じ……

 ダンジョンはいつも命がけで、それを忘れた者から死んでいく。

 そんな冒険者の常識を、リアリスと一緒にいるうちに、僕はすっかり忘れていた。


 僕は大きく息を吸い込んだ。

 確かにリアリスはダンジョンをコントロールしている。


 でもリアリスと出会う前から、ダンジョンは人の命を奪っていたんだ。


 それは、今更変わらない。僕は、勇気の意味を履き違えていた。


 リアリスがどんな敵をぶつけようと、この皆なら突破できると信じる。


 そして僕ができることをやる。それが前に進むって意味だったんだ。


「この先の敵はリッチって言うんだ。物理攻撃が効かない強敵。皆、いける?」


 リアリスが漏らした情報を皆に伝える。


「げ、リッチですの!? 私が攻撃と防御両方を担当しなければならない強敵ですわね……」


 そうは言うが、テールは落ち着いて扉に手をかける。


「アシュ、行きますわよ」


 この程度の試練どうとでもないと言うように。






 リッチは遠距離からの魔法を好む相手だった。

 物質による攻撃はほとんど効かず、魔法でしかダメージを与えられない。

 魔術師が生命線になる、厄介な敵だ。


 リッチがゆっくりと両手を合わせて祈るようなポーズを取る。

 それが魔法発動の合図だと、すでに皆が学習していた。


 次の瞬間、複数の火の玉が空中に現れ、僕たちに向かって殺到してきた。

 これ当たったら、ただの火傷じゃ済まないよね……?


「これは避けきれないですわね。リアクティブシールド!」


 テールが即座に魔法を展開する。小さな盾がいくつも現れ、炎の玉と相殺していく。


「テール、魔法後何回?」

ルリヤが冷静に問う。


「後3発ですわ……」

 今の攻撃を防げるのは後3回。リッチを倒すなら、防御魔法は後2回しか使えない計算だ。


(大丈夫大丈夫、最悪私がアシュちゃんだけ助けるし)

 リアリスの声が頭の中に響く。それは他の皆を見殺しにするってことじゃないか。

 それは絶対に駄目だ。


 なら、僕がリアリスの考えを、超えるしかない。


「……隙を作ってみる」


 覚悟を決めた。

 リアリスの共犯者だけど、命を賭せば起死回生の1手ぐらい作れるはずだ。


「何か策があるのですわね。信用、させていただきますわ」


 テールが僕を信じてくれた。皆を騙している僕を……

 その言葉が、胸に熱く刺さった。


 僕は走り出す。リッチに向かって、まっすぐに。


 リッチは僕を迎撃するため、再び祈りの姿勢を取った。


 これが僕の唯一のチャンス!

 リアリスがくれたアイテムを、今使う。


「ロック!」


 腕に刻まれていた魔法陣が解放され、リッチの両腕に絡みついた。


 賭けだった。ドアの鍵として使っていたマジックアイテムが、リッチに効くかどうか、わからないから。


 リッチが動揺する。腕を離そうとするが、魔法が絡みついて取れない。


 よし、効いた!


 その隙にテールが飛び出し、魔法を放つ。


「行きますわよ! テラバースト!!」



 エネルギー純度を高めた螺旋状の炎が、まっすぐリッチの中央を貫いた。リッチが蒼い炎に包まれる。


 倒した——そう思った瞬間、リッチは燃えながらも最後の力を振り絞った。


 台風を小さくしたかのような、暴力の塊が僕に向かって放たれた。


 時間が、走馬灯のようにゆっくりと流れる。

 ……もう終わりなんだな。


 リアリスを助けたこと、皆と少しでも一緒に戦えたこと。

 あの無力だった僕でも、ほんの少しは役に立てた気がする。


 それだけで、人生は捨てたものじゃなかったのかもしれない。


 でも、フレットに……ちゃんと「おかえり」って言えなかった。

 最後に笑顔を見せられなかった。

 それだけが、胸に残る小さな棘みたいに痛い。


 家族みたいに思っていた皆に、ちゃんと感謝を伝えられなかったこと。


 まだやりたかったことが、たくさんあったこと。


 そんな後悔と、ほんの少しの達成感が混ざり合って……

 静かに目を閉じた。







 突然、甘い香りが風に混じった。


「あはっ、悪いけど……アシュちゃんだけは、絶対に渡さない」


 目を開けると、リアリスの背中が大きく見える。


「ま、魔王様……何故……」


 テールの魔法で燃え尽きていく中、致命的な音を残してリッチは完全に退場した。




ご愛読いただきありがとうございます。

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