第6話・女友達との出会いの話
「まずこういう場面は自己紹介からじゃねぇか?」
フレットが腕を組んで言った。
「俺はフレット、Aランクの冒険者だ。名前も分からない相手に住まいは貸せねぇ」
「ルリヤ、よろしくフレット」
眼帯をつけた小柄な少女が、ぶっきらぼうに短く答える。
「アルナスと申します。テール様の護衛と身の回りのお世話をさせていただいていますわ。ルリヤは盗賊を、私はガーディアンをしていますわ」
スカートを優雅に持ち上げて挨拶するアルナス。話し方が丁寧で好感が持てる。
「テールラナ・フォーゲスト・アイリッシュと申しますわ。長いのでテールと呼ばれておりますの。魔術師ですわ。
実は、5階層のアイテムを探しておりますの。ですが詳しいことは……まだお話ししかねますわ」
最後に、気位の高そうなツインテールの少女が、優雅に微笑みながら自己紹介した。
「それで、山小屋の所有者という事でしたが、私達の買った情報では、このような建物はありませんでした」
アルナスが代表として質問してくる。
「情報が古かったんだな。んで、どういう要求だ?」
フレットは自然に会話を進めているけど、僕は木陰からただ見守ることしかできなかった。
一番怖いのはここで戦いが始まること。そして、リアリスが本気で牙を剥いたら……彼女たちを容赦なく潰す可能性があることだ。
「3人でか、普通もっと人数増やさねぇか?ポーターとかマッパーとか色々必要だろ」
「失礼ですが、フレット様は1人でAランクなんですよね?」
「いや、2人だ。アシュ、もう良いぞ」
フレットに呼ばれて、僕は木陰からゆっくりと出て行った。
「は、はは……えっと、ごめんなさい」
とりあえず謝ってしまう。
3人とも立派で、堂々としていて、ここに混ざれる自信なんて全くなかった。
「アシュだ。俺の専属パーティで盗賊やってくれてる」
「……あなた、本当に盗賊?」
ルリヤがじっと僕を見てくる。
その視線が痛くて、思わず目を逸らした。
なんちゃって盗賊なんて、本職から見たら違和感だらけなんだろうな……
「ルリヤ、そこまでにしておきなさい。男性冒険者が女性を連れ歩くなんてよくあることです」
アルナスがやんわりと注意する。でもその言葉が、胸に少し刺さった。
「女性を連れ歩く」……つまり、僕はそういう風に見えているんだ。
(あはは、アシュちゃん娼婦と誤解されてるじゃん)
リアリスの声が頭の中で軽やかに響く。見た目はこんなんだけど、僕、男だし……
フレットとそういう関係なんて考えたこともないのに。
それに、男同士で……いや、僕が女の子になったら?……良くないよ!
ただこの流れで「僕は男です」と説明するのは難しすぎる。
リアリスのことまで話さなければならなくなってしまうから、誤解を解く術はなかった。
「それで、お前らの事情が知りたい。まあ、納得できる話なら手を貸してもいい」
フレットが僕の方を一瞬見て、そう提案した。僕は彼女たちを見捨てるなんて考えられなかった。
テールは少し考え込んでから、静かに答えた。
「立ち話もなんですし、そこにいい建物がありますわね。ご招待願えませんか?」
「えっと……」
(入れちゃって良いよ。アシュ、君が扉を開けるんだ。魔法のロックはそれで解除出来るようになってる)
そんなこと言われても、いきなり魔法の鍵を開けるなんて、胃が痛い……
「じゃあ、開けるね……」
もう、どうにでもなれ!
ドアノブに手をかけると、派手に魔法陣が広がり、僕の腕に輪っかみたいに巻き付いた。
それはカラフルな入れ墨のように手に刻まれていた。
「魔法……いや、マジックアイテム? それダンジョン産なの?」
ルリヤが興味津々で聞いてくる。
「と、扉の鍵として使ってるだけだよ……あはは」僕は笑いながら誤魔化すのに必死だった。
山小屋の中に入ると、みんなが息を飲んだ。
内装は綺麗すぎて、安宿に慣れていた僕たちでも驚くレベルだった。
大部屋に小部屋が二つ、ふわふわの絨毯に新品のソファーやベッド……
「えぇー、なんなんですの!? これは」
テールが素直に驚きの声を上げる。
「これがAランク冒険者の世界……私の実家より良い家具を使ってませんこと!?」
「ま、まあ、家探しは後にしてくれねぇか?」
フレットが苦笑いしながらソファーに座るよう促した。
「それで事情ってのは?」
「はい、5階層に出現するという、あるレアアイテムを入手したいのですわ」
魔獣のローブを欲しがっている?
少しホッとした。解決できそうだと思っていた僕は、テールの次の言葉に耳を傾けた。
「魔獣のローブには対となるアイテムがありますの。その名は魔獣の牙。魔獣のローブが出現したなら牙も現れるはずなのです」
「……我が家に伝わる呪いの解除に必要なのですわ。私の弟の為に」
「魔王の呪いと言われ魔族となってしまう呪い。父も発症しこの世を去りました」
どうにか、してあげられないかな?
……僕にも弟がいた。
小さくて、いつも僕の後ろをついてきて、生意気だったけど可愛かったんだ。テールの弟さんが、今の僕と重なる気がして、胸がざわつく。
違う物に変えられて変わってしまう恐怖は、理解できてしまうから……
僕はもうどうしようもないけれど、彼は救えるなら救いたい。
(魔王の呪いって言ってるけど、私の呪いじゃないよ? というか呪いってのは……わ、私じゃないってば! アシュ、無視しないで〜)
リアリスが頭の中で必死に言い訳を並べている。
胡散臭い声が響いて、なんだか少し笑えてしまった。
「フレット、あのね……」
「手伝いたいって話だろ? 本当、お人好しだな。分かった。この家は自由に使ってもらって構わねぇ」
「あ、ありがとうございますわ」
「代わりにダンジョンには俺等も同行する。3人じゃ不安だからな」
「フレットはいいけど、この子いる?」
ルリヤが指で僕のほっぺをぷにぷに突く。
柔らかい感触に、顔が一瞬で熱くなった。
……やっぱり実力不足だよね。
女の子として見られて、しかもこんな風にからかわれるなんて悔しい
なのに、どこかで「この扱いが普通」みたいに思ってしまう自分が、すごく情けなかった。
「アシュも連れて行く。5層を目指すってことはお前らは自衛ぐらいできるんだろ? こいつはこいつで、色々できるんだ」
僕に色々なんてできない……でも置いていかれるのも嫌だった。
(大丈夫、私がサポートするよ)
リアリスの声が優しく響く。
勇気を出して踏み出そう。
そう思ったんだ。
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