第5話・ダンジョンに戻る話
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「宿が安すぎるのも考えもんだな」
明け方、フレットに優しく肩を揺すられて目を覚ました。
「外が騒がしい……こんな時間に?」
「確かに、ややこしくなるから私は消えておくね」
リアリスは淡い光を帯びてペンダントに戻る。事態を把握出来ない僕は啞然とするしかなかった。
次の瞬間、ガンガンと激しい音が響き、部屋の扉が壊されて武装した男たちが乱入してきた。
「アシュ、後ろに下がってろ。三人か、舐められたもんだぜ」
急いでフレットの後方に身を隠す。冒険者として教えられた、戦闘時の退避方法は覚えていた。
先頭の男の剣先がフレットを掠める。危ないと感じた瞬間、僕はフレットを見失った。
彼は体を屈めて、相手の鳩尾に容赦の無い一撃。苦悶の表情を浮かべ倒れる男の姿を見て、胸がバクバクと鳴る。
残る二人が硬直した。
その隙に強引に近づき、足を払って転ばせ、頭を蹴り飛ばして昏倒させる。
最期の一人がフレットの後ろで斧を振り上げた瞬間、僕はつい叫びそうになる。
でもフレットはその腕をスッと掴み上げ、投げた。
圧勝だった。フレットは剣すら抜いて
なかった。
……カッコいい。
でも、同時に胸の奥がざわめいた。
僕は本当に無力で、ただ隠れて守られてただけ。
このままじゃ本当に役立たずだ……僕にも何かできることを探さないと。
「こいつらはギルドでたむろってた連中だな。例のローブの話で金の臭いを嗅ぎつけてここを襲ってきたんだろう」
男達を紐で縛り付けながら、フレットは冷静だ。
(ここでの長話は安全じゃ無いね。すぐに離脱したほうが良さそう。ダンジョンの中なら安全は保証出来るから)
リアリスの声が頭の中に響く。
「結局しばらくダンジョン暮らしにゃなりそうだな」
フレットは諦めたようにつぶやいた。
その日、僕とフレットの2人は資材を買い込んで、街を出た。
目指すはここから徒歩で3日かかる山奥のダンジョン。僕がこんな事になった運命の場所。
道中、荷を運ぶ力もなくなってしまった僕はただフレットに付き従うだけだ。
「えっと、薪拾い、行って来るよ!」
雑務ぐらいならできると思ったのに、フレットは首を横に振った。
「今はお前だけで森に入らせるわけにはいかねぇな。薪は買ってきたから大丈夫だ」
すると、ペンダントからリアリスの声が軽やかに響いた。
「ほら、アシュちゃんはここで座ってるんだよ〜」
うう……落ち着かない。
料理もできないし、野営の基礎も覚束ない。全部フレット任せだ。
次の瞬間、ペンダントが淡く光り、銀色の猫の姿が現れた。
「アシュちゃん、お姫さまだね」
リアリスは銀色の尻尾をゆらゆらと振りながら、僕の膝の上に軽やかに飛び乗ってきた。
……お姫さま、か。
胸の奥が、じわっと熱くなった。
自分で薪一つ拾えない自分が、急に惨めで仕方ない。
男だった頃は荷物持ちとして毎日歩き回っていたのに、今はただ座って待っているだけ。
フレットに守られるのはありがたいけど、こんなにも無力な自分が、すごく苛立たしくて情けなかった。
僕は唇を軽く噛んで、膝の上の猫を睨みつけた。
そんな行程で山奥のダンジョンまでたどり着いた。
「あれ?山小屋……あんな目立つ建物無かったよね?」
僕がそう告げると、フレットも警戒する。
「あ、2人が住む場所として作っておいた。そのぐらいの自由は利くんだ」
「……自由すぎ!」
リアリスの非常識な説明が目に付くけど、詳しく説明されても頭が混乱しちゃう。とりあえず納得するしかない。
「あ、アシュちゃん。山小屋の近くに生態反応がある、人間だと思う。人数は3人」
と言ってペンダントに戻るリアリス。
「ど、どうしよう?」
「たぶん同業者だろう。警戒は怠るなよ」
「相手から見えない所から観察するぞ」
……敵じゃなければ良いな。
でも、この前の強盗未遂が冒険者に対して警戒心を抱かせていた。
山小屋の隅に隠れ様子を覗う僕たち。
その冒険者たちは少女だった。
(あら、可愛い子たちだね。あのパーティに混ざったらアシュちゃんもそんなに違和感無さそう)
リアリスが気楽に心の中でつぶやく。
……女の子たちとお似合い、か
もう僕は女の子に見えるんだ。
リアリスが告げた事実に、胸の奥がチクリと痛む。
まだ男でいるつもりなのに、身体は確実に女の子になっていて……そのギャップが悔しくて複雑だった。
気位が高そうなツインテールの少女が中心人物で、彼女たちは高級そうな冒険者用の防具を身にまとっている。
黒い長い髪が特徴的な女性が説明し、眼帯の髪の短い少女は周囲を警戒しているようだ。
眼帯の少女がブツブツつぶやくが、リアリスはそれを聞き逃さない。
(『テール様、たぶん見られてる。それが山小屋の主なら、危険』だって)
「しゃあない。出ていくぞ、向こうも盗賊系の感がいい奴がいるみてぇだ」
フレットは両手を軽く上げながら、堂々と3人の前に姿を現した。
「すまん、敵意は無い。俺たちの作った山小屋でな。見られていたから観察させて貰った」
なら僕も、と足を踏み出そうとした時リアリスが制止する。
(アシュちゃんは少し待機しよう。女の子連れの冒険者って珍しいから、まだソロの方が警戒されない)
女連れ……
分かっているつもりだったのに、心のどこかにチクッとしたものが残った。




