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第4話・英雄の作り方の話


「まあ、契約とか野暮な事はしないよ。魔法で契約させるのは有効そうに見えるけど、より強い魔法には無力なんだ」


「えっと、魔王より強い魔法なんてあるの?」


「それがあるんだよ、勇者の証って奴。勇者になった時点で全部のデバフを無効化する。魔法の契約なんて勇者には無意味なんだよ」


 勇者になると魔法は解けるのか……あれ、それじゃ僕も元に戻れるんじゃない?


「アシュちゃんは勇者向きじゃないから無理かな?」


 何、それ!?

 フレットはそれに深く頷いた。


「俺なら可能性があるって事か。そして、勇者になって反逆されるのが怖いから魔法で縛る事もしない、って話だな。」


「そうそう、フレット君は勇者向きなんだ。音が真っすぐなタイプが勇者に選ばれやすい。資質は十分だね」


「魔王と談合する奴が勇者に選ばれるかよ。んで、どう動けば良いんだ?」


「まずは資金を貯めよう。経済を制するものが世界を制する、だよ」


 リアリスはあっさり言うけど、銀貨なんて命の次に軽いものだ。

 日々の冒険で消えていく物をどうやって集めるっていうのか。僕にはまるで想像がつかなかった。


 朝食の薄い麦粥を飲み込みながら、僕たちはリアリスに問いかけた。


「資金を稼ぐって言ったが、具体的にどうすんだ?」


「まずは君たちの知名度を上げる。色々なダンジョンに入れるようになれば、金策もしやすくなるからね」


 リアリスが仕切り直すように声を張った。


「確かに、今の俺じゃこっそり未発見のダンジョンに潜るぐらいしかできないからな」


「私はまだこの国のダンジョン探索に必要な条件をよく知らないんだ。フレットは詳しそうだけど?」


「おう、だいたいわかるぜ」


 フレットが説明を始めたのを聞きながら、僕は少し感心していた。

 リアリスにも知らないことがあるんだ……そして、それを当然のように知っているフレットに、なんだか尊敬の念を抱いてしまった。


 説明を聞いたあと、僕は恐る恐る口を開いた。


「えっと、レアアイテムってのは……」


「よく思い出したね。アシュちゃん偉いぞ」


 リアリスが頭を撫でてくる。黒猫の前足がふわふわして、なんだかこそばゆい。


「ちょっと見せてくれないか?」


 フレットが真剣な目でこちらを見たので、僕はローブの中からいくつかアイテムを取り出した。


 フレットはそれらを一つずつ確認し、やがて匙を投げた。

「わかんねー。これ本当にレアアイテムなのか?」


「物の価値を知らないな。ダンジョンでレアって言ったらこういう物だよ?」


 リアリスは自信満々に並べ始めた。


「不死鳥の被覆、竜の魔眼、魂の結晶に、どんな傷も治せるスペシャルなポーション!」


(本当はまだまだあるんだけど、アシュちゃんが持てる範囲だとこんな物だったよ)


 僕はイマイチピンと来なかった。リアリスが言うレアアイテムで昇進するってプランを盲信していたのもある。


「待てよ。そんなヤバいもんアシュに持たせてたのかよ!」


「えっと、どうヤバいの?」


「たぶん実在がバレたら、国が軍隊送り込んででも奪い取るレベルじゃね?」


 えー、ど、どうしようっ!?

 僕が青ざめていると、リアリスはあははと楽しそうに笑った。


「もう少しまともなもんは……あ、これでいいんじゃね?」


 フレットが取り上げたのは、僕が着ていたローブだった。

「ただの着心地がいいローブ、じゃないの?」


「いや、これたぶん魔獣の毛で出来てんだよ。リアリス、説明」


「うん、これは5階層によく出るクマのボス由来のちょいレア品だね」


「ダンジョン産の装備って結構貴重なんだ。これを提出すりゃたぶん大丈夫だ」


 フレットは結構自信があるみたいだった。僕は内心で冷や汗をかいていた。


 さっきまで普通に着ていたローブが、そんなにすごいものだったなんて……。






 久しぶりの冒険者ギルドは、僕が縮んだ分だけ余計に大きく感じられた。


「よう、フレット。最近見なかったが金が無くなったのか?」ゴツい冒険者たちがフレットに絡んでくる。


「お嬢ちゃん、こんな所に用事かい? それかお小遣い欲しいのかな? おじさんが買ってあげようか?」


「下品な声掛けてんじゃねぇ!」

 フレットが一喝したあと、僕の肩をぐっと抱き寄せ、ギルド中に響くような大声で宣言した。


「こいつは俺の女だ。手出したら俺の剣の錆にするからな。」


 ……え? 顔が一瞬で熱くなった。

 恥ずかしい。すごく恥ずかしい。

 でも、フレットに守られているような気がして、胸の奥が少しだけ温かくなった。


「フレットさん、彼女、冒険者にするんですか?」

 受付嬢が驚いた顔で聞いてくる。


「ああ、俺のパーティの専属で登録したい」


 僕は隣のフレットを見た。

 彼は黙って小さく頷いてくれた。それだけで、少し勇気が出た。


「えっと……アシュです」


 偽名も考えたけど、慣れ親しんだ名前が良かった。

 無名の冒険者なんて、誰も覚えていないだろうし。ギルド登録はあっけなく終わった。



「それで、階級を上げたい。物品として、ダンジョン産の装備を献上する。これだ」


 僕が脱いだローブが台の上に置かれると、受付嬢の手がわずかに震えた。


「こ、これは……! 少しお待ちください。ギルド長を呼んで来ます」

 周りの冒険者たちがざわつき始めた。「あのローブって、確か……」

「王城で話題になった伝説の……」


 そんなに騒ぐものだったの……?


(んー、年に数着は産出されてるから、騒ぐほどのレアじゃないよ)


 リアリスも僕と同じような感想のようだ。


 結論から言うと、魔王の感覚を信じた僕が馬鹿だった。


 世界中にたくさんあるダンジョンの中で、年に数着しか出ないアイテムは、十分レアアイテムと呼べるらしい。


 例の「不死鳥の被覆」などは、封印するべき代物だったのかもしれない。


 ギルド長はローブの前で顔を青くしていた。

「本物、です……まさか魔獣のローブを見られるとは……」


 結局、そのローブのおかげで僕たちは一気にAランクまで駆け上がった。全てのダンジョンにフリーパスで入れる、最上級の階級だ。


 フレットは満足そうだったが、僕はなんだか複雑な気持ちだった。


 女の子の姿で、しかもフレットの「女」として登録されていた。

 これからどうなるんだろう……






 その夜、アシュが酔いと疲れで寝静まった頃。

 フレットは銀色の猫と静かに対峙していた。


「アシュがお前の眷属って話、嘘じゃねぇのか?」


「うーん、まあね。眷属には違いないと思うけど……」


「お前は嘘もつかねぇが、本当のことも言わねぇタイプだよな」


「あはは、当たり。簡単に言うとアシュちゃんは私の後継者。つまり次期魔王って事。だから勇者にはなれない」


「……はっ、酔いが覚めたぞ」


「アシュちゃんには内緒ね。まだ知らせない方がいいから」


「んでアシュは、どんな魔王になるんだ?」


「さあ、それはわからないかな?

私としては、能力に振り回されないように、ちゃんと教育していきたいけどね」





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