第21話・浮浪児たちの話
浮浪児たちはこう言って騒いでいた。
「ダンジョンに入りたいです!」
「駄目だ。危険だと言っている」
「嘘つき、ダンジョンには温かいベッドも美味しい食べ物もあるって……」
衛兵も仕事だから暴力に訴えることはなかったけど、すっかり飽き飽きした様子だった。
だから、僕が駆けつけた時、いいことを思いついたのだろう。
「あー、あのおねえさんに頼んでみろ。それでいいって言ったら入れてやる」
適当なことを言って浮浪児を追いやろうとする衛兵に、少しだけ腹が立った。
僕は腰を低くして、子供たちと目線を合わせて尋ねる。
「まずは、自己紹介から、かな? 僕はアシュ」
まずは自分の名前を名乗る。
「……ツヴァイ、この子はモノ」
二人の浮浪児はボソボソと名乗りを上げた。
「えっと、二人は、なんでダンジョンに行きたいの?」
理由次第では、ダンジョンに入れるように手配できると思ったんだ。
「おじいちゃんが言ってたもん」「ダンジョンは天国なんだって」
その言葉は、ダンジョンの秘密を知らされたばかりの僕には、とても信じることができなかった。……天国?
あそこは、餓死するまで閉じ込められる部屋もある場所なのに。胸の奥が少しざわついた。
でも、子供たちの目が真剣で、僕にはそのまま放っておくことができなかった。
結局、僕は彼女たち二人を連れて屋敷に戻ることになった。
「最近、浮浪児がダンジョンに入り込もうとする事件が多いそうだぜ」
衛兵と話していたフレットが情報を持ってきてくれた。
その言葉に、心が少し痛んだ。
ダンジョンは安全な場所じゃない。子供がいってもすぐに危ない目に遭ってしまうだろう。
この二人は救えたけど、救えなかった子たちのことを思うと、胸がきゅっと締め付けられた。
「はぁ、アシュはいつかやるとは思っていましたが……」
浮浪児を二人も連れてきた僕は、テールに軽く睨まれた。
小さくなった身体で肩をすくめながら、僕は申し訳なさそうに頭を下げた。
女の子らしい仕草が自然に出てしまう自分が、少し恥ずかしくて、でももう慣れてきた。
「大丈夫。想定よりずいぶん少ない」
ルリヤがテールの肩を叩く。
既にやるって想定してた!?
二人はアルナスたちメイドに捕まり、体を冷水で洗われ、ぼろ切れでしっかり磨かれていた。
初めてお風呂に入る前に、僕も同じことをされたっけ。なんだか懐かしい。
「あらあら、この子たち鬼族ですか」
メイドの一人が声を上げた。
洗われた浮浪児たちには、小さな鬼の角が付いていたんだ。
いつもの会議室、紅茶の香りが漂う中でテールの家のメンバー、フレット、そして僕と、銀色のネコのリアリスが揃っている。
「一般的に鬼族とは、人類に危害を加える魔族に近い種族ですわ。そこ、一般的な話なので睨まないでくださいませ」
僕はつい目が細くなったことを恥じた。でもあの子たち可愛かったし、魔族に近いからって差別するなんて僕にはできそうにない。
んー、でも今まで僕も魔族は悪いやつと教えられてきたんだ……僕の考え方が普通より魔王に寄ってきているのかもしれない。
「あ、魔族っていうのは魔王に関する種族って意味はないよ」
リアリスがしっぽを立てながら、僕の膝で発言する。
魔王の家来で人類に悪いことをするから魔族は忌み嫌われてるんじゃないの?
「人間と同じ、魔族にも良いやつ悪いやつがいて、魔王についた魔族もいればそうじゃなかった魔族もいる。人類と変わんない」
「えっと、なにか? 人間にも魔王についたやつがいるって話か?」
フレットが疑問を形にした。
「昔から人間は数が多かった。だから魔王についた人間も、魔族より多かったんだよ」
リアリスの回答は僕たちの常識とはかけ離れていた。
魔王側から語られる真実に、僕は少し目がくらんだ。
「話がズレましてよ。鬼族移民の増加は王国でも問題になっておりますの」
「帝国が鬼族の住んでいた地を開放、つまり占領したという情報があります。だからその難民が王国にもなだれ込んでいるのです」
アルナスが現在の世界政治を語る。
帝国は人間こそ最高で他は奴隷という極端な考えを持つ国だ。
「王国も人間主体だけど、それは他種族が少ないからで、どちらにも振れ幅があるんだ」
へラードが王国について教えてくれた。
「僕たちになにかできないかな?」
僕は皆仲良く暮らしたいと思っている。だから、他種族は奴隷とか魔族は敵とかしたくなかった。
それが偽善ってやつなのは最近勉強してわかっているつもりだけど……
「はぁ、わかった。テールたちも報酬は出すから手伝ってくれない?」
リアリスが諦めたように唸る。
そしてテールたちを巻き込む気満々なようだった。
「拾ったなら責任を取るべきですわ」
テールの一言で、二人は僕の部下となった。
と言ってもメイド見習いとして僕の周りをウロウロするだけだ。
姉の方は角が二つあってツヴァイ、妹は角一つでモノと言うらしい。
二人ともお揃いの子供用メイド服に身を包んできちんと挨拶する。えらいぞー。
「アシュおじょうさま。お仕事はなんでしょうか」
「おしごとしたら、甘いのくれるって。ここは天国ですか」
「えーっと、お仕事……」
ここで僕は気が付く。この部屋、物がない。つまり仕事が用意できない。
そういえばメイドさんたちもそんなに頻繁に来ないし、来た時から増えてないや。
ベッドメイキング(という名のベッドで二人が飛び跳ねる行為)をしてもらったけど、すぐ与える仕事なくなっちゃった。
ちなみに、ベッドで飛び跳ねた件は、後で三人仲良くメイドさんに叱られた。
「ってことでお買い物に行きます」
メンバーはアルナスとへラード、ツヴァイとモノの姉妹メイドの4人だ。
「今日はお外でお仕事です?」
ツヴァイが外に対して不安そうに震えるので、手をつなぐことにした。
小さくて、ちょっと冷たいけど、でも握りしめてくる力は強い。生きている。それだけで嬉しくなる。
もう片方は、もちろんモノと手をつなぐ。
「あらあら、埋まっちゃいましたね」
アルナスがへラードをからかう声が聞こえた。
蚤の市とは、独自の商線がなくても物を売れる青空市場の事で、主にアンティークや雑貨などが取り扱われる。
食べ物は売ってないけど、僕の部屋を少しにぎやかにするには、もってこいの場所だ。
「うわぁー、いっぱいあるね!!」
僕が騒ぐと、モノとツヴァイが腕を引く。
「私たち来たことある。あんないできる」
お、そうなんだ。案内してもらおうかな。
「あれは娼館の客引き、あそこはカモが多いからお得」
カモってスリの話だよね!?
胸の鼓動が高鳴る。
ツヴァイとモノが平然と犯罪できることもそうだけど、そういう環境しか生きていけない現実に胸が、冷たくなったんだ。
とりあえず、スリはしないように言っておかないと……
「あー、アシュ、僕が案内するよ」
結局、へラードに案内を任せることになった。
「これ、結構良いものだよ。昔の時代の陶器の人形のアンティークだね」
ヘラードの目利きはとても参考になった。僕は物を知らないから、ぼったくられそうなのを止めてくれたり、品の価値について色々解説してくれた。
ヘラードは貴族の家の長男だから真偽眼を父親からしっかり教わったらしい。
それに、こっそりお屋敷を抜け出して商人の次男と名乗って買い物に来ていたそうだ。
ツヴァイとモノもヘラードの話を感心して聞いていた。二人とも勉強家だね。感心しちゃう。
そしてついつい二人におねだりされて、色々買っていることに気づく。
うーん、お部屋が倉庫みたいになったらどうしよう……
「あはは、アシュ転がされてたね。娼館とか行ったら丸裸にされてる奴じゃん?」
ヘラードがわりと失礼な事を言ってくる。
「むー、今までお小遣い使ったことなかったし、むしろ使い道ができてよかったんだよ……」
娼館、そういえば行ったことないな。
冒険者時代の同僚は通ってたみたいだけど、僕はお金がなかったからね。
今度どんな感じかフレットに聞いてみよう。
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