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第22話・助ける責任の話



 二人が来てから生活は変わった。


 表面上はいい子だけど、実際ツヴァイとモノはわりといたずら好きな、普通の子供だったからだ。


 割れる皿や装飾品、悪戯書きの芸術作品。そして、つまみ食いによる食害。

 僕のお小遣いはみるみる弁済に当てられすり減っていった。


「やばい、このままじゃお金がなくなっちゃう!」


「あはは、人族の子供ってやっぱり愉快だね」


 リアリスはこう言うが、二人を扇動した節もある。ネコの姿を追いかける二人を見かけた事があるからだ。


「お金、稼がないと……」


 このままじゃツヴァイとモノが追い出されちゃうかもしれない。

 それに、彼女たちが欲しい物ができた時買ってあげるぐらいのお金は持っていたい。


「別に使ってないお小遣いが減っただけじゃ?」


リアリスの声を無視して僕は考える。


 でも、どうやれば良いのか見当がつかなかった。

 えっと、娼館に行って体を売る?


 今なら見た目は可愛いと思うし……

 駄目だ。僕はまだ完全な女の子じゃないから……


 その事を口にしたら、リアリスが呆れたようにため息をついた。


「なんで、君はそう極端な方に考えるかな? そんな最終手段を取る前にやれる事はあるだろ?」


「や、やれる事ってなに?」


「仲間を信じて、事情を話すことだよ」


 リアリスの声はまるでお母さんが子供に諭す様な声色だった。


 ……仲間を信じる。


 それが一番怖かった。


 ヘラードに「金がない」と言うこと自体が、すごく情けなくて、惨めで、顔が上げられなくなりそうだった。


 でも、ツヴァイとモノの笑顔を思い浮かべると、逃げられない気がした。


 僕は深呼吸を何度も繰り返し、震える足でヘラードの部屋の前まで来た。


 ドアをノックする指先が、冷たくて、力が入らない。


「ヘラード……」


 声が上ずった。顔が熱い。耳まで真っ赤になっているのが自分でもわかる。


「アシュ、どうしたのかな?」


 ヘラードが優しくドアを開けてくれた瞬間、僕はもう後戻りできないと覚悟を決めた。


 喉がカラカラで、言葉がうまく出てこない。


「……お金、貸してください……」


 声が小さくて、情けなくて、自分で言ってて惨めだった。


 視線を床に落としたまま、指先をぎゅっと握りしめる。ドレスの裾を強く握りすぎて、指が白くなっているのが見えた。




 ヘラードは少し驚いた顔をした後、すぐに柔らかい笑顔になった。


「うん、今どういう状況なのか、僕に話をしてみて」 


その優しい声に、僕は少しだけ肩の力を抜いた。


 でも、心臓はまだばくばくと鳴り続けていて、顔の熱は一向に引かない。 


……本当に、こんなことでヘラードに迷惑をかけて良いのだろうか。


「……あのね、ツヴァイとモノのいたずらが酷くて……」


 僕は、彼女たちの日々の行動と、それに対して謝って回っていることを伝えた。


 僕の説明だから、上手く言えなくて長くなってしまったけど、ヘラードは最後まで何も言わずに聞いてくれた。


 胸の奥が熱くなる。


 不安が言葉に紛れて消えていく。全部話し終えた時、僕の気持ちはだいぶすっきりしていた。


「思い詰めた気持ち、少し楽になったかな。まずね、アシュが今やるべきは、ツヴァイとモノに注意する事じゃない?」


 注意、厳しく怒る事?

 あの二人を見てるとそんなことできないよ。


「子供ってね、悪いことは悪いって誰かが教えないといけない。叱られるって経験も必要なんだよ。そして君は二人を大人に育てる責任があるんだ」


 僕が、教える……

 アルナスに色々教えて貰ったように、彼女達も導いていかなきゃいけない……


 でも、どうやってやるんだ?


 心が重くなる。教える経験って今までなくて、上手くできるか不安が渦巻く。


「もちろん感情的に怒る必要はないんだよ。何故それをやったか聞いて、そしてその行為にどんなデメリットがあるか、それを教える。それが叱るって言う行為の本当の意味なんだ」


「うん、分かった。やってみる……」


 自信はないけど、二人を拾った責任は取らないといけない。

 僕はツヴァイとモノのいたずらの件について注意する、そう心に決めた。




「あ、それで、お金の件は……」


 少し意識が逸れた。

 まずはヘラードからお金を借りないと僕のお小遣いでは弁済のお金が保たないんだ。

 心配そうに、ヘラードに尋ねる僕。


 ヘラードは何も心配いらないよと笑顔で答えた。


「お小遣いはアシュの資産の全部じゃない。うちがリアリスと出会った縁は大きいんだ。その利益の何割かはアシュのお金にしてあるんだよ」


 ヘラードが僕の頭を撫でる。

 顔が少し熱くなる。最近、ヘラードに触れられると少しドキドキするんだよね。

 前はこんな事なかったのに……


「でも、いきなり大きな金額を渡してもアシュの金銭感覚が麻痺しちゃうだけだから、お小遣いとして少しづつ渡してたんだ」


 そうなのか。冒険者時代より十分多いからそういう物だと思ってたけど……

 そういえば、リアリスが全然心配してなかった理由が分かった。


 ほっと、一息つく。


 やることは分かった。

 僕はヘラードの部屋を出て、ツヴァイとモノを呼び出す。


 ヘラードの部屋を出る時、メイドさんに笑顔で見送られたけど、それどころじゃなかった。


「まず理由を聞く。それからデメリットを伝える。うん、僕にもできる……よね?」


 不安が頭をよぎる。浮浪児であった二人のトラウマを刺激してしまう気がして、それが怖かった。


(アシュちゃん頑張れー)


 リアリスの優しい応援が頭に響いた。

 その声色に少し落ち着く。


 そうこうしてるうちに二人がやって来たんだ。


「アシュおじょうさま、ご要件は何でしょうか?」


「お手伝いするー」


「今日は二人がいたずらの理由を聞いてデメリットを教えます」


 二人の頭にはてなが浮かぶ。


「いたずら? 何したっけ?」


「この前、庭に出たヘビにソーセージ丸呑みさせた後、鈍った所を潰した事?」


 ……余罪が多そうだ。




 結局、ツヴァイとモノのいたずらの成果を聞き続けた。そこで思ったんだ、僕ちゃんと、この子たちの声を聞いていたか?


 今まであんまり話を聞いていなかった。助けたからもう安心して、向き合ってなかった。


「ごめんね。僕は助けたつもりで、なんにもしてなかったんだ」


 思わず、涙がこぼれた。


 キョトンとする二人を尻目に、僕は助けることの大変さを知ったんだ。


 それから僕は毎晩、二人と一緒に寝ることにした。そして寝る前にお話して、一日の振り返りをする。

 アルナス流の復習を実践するんだ。


 今まで男だから女の子と一緒に寝るのは駄目だとか色々考えてたけど、親のいないこの二人には、そういう愛情が必要だと気付いたんだ。




 次の日


 何故か僕の寝室にメイドさんたちがごった返していた。


 三人の寝顔があまりにも尊すぎるとか言う理由だった。テールたちもバッチリ見に来たらしい。

 

 すごく恥ずかしい。


 僕は身を隠すために毛布に潜り混んだんだ。



ご愛読いただきありがとうございます。

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今後ともよろしくお願いします

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