第20話・ダンジョンのお勉強の話
「それで、ダンジョンってなんなの?」
久しぶりに、リアリスと二人きり。
傍から見ると僕が銀色の猫に話しかけていると言う、ほんわか空間が出来上がっていた。
ダンジョンには怖い思いもしたし、死んだと思った事も何度もある。そして、リアリスと出会った場所……
でも、ダンジョンについて大事な話を今までしそこねていた。
僕は体が女の子になるので頭がいっぱいだったし、色々なイベントが重なってあまり話せていなかった。
だからこの辺でしっかり聞いといたほうがいいのでは? と思ったんだ。
「んー、まずは……現地に行ってみようか。たぶん説明するより見せた方が速いから」
そういうことで、僕たちはオキナとフレットを護衛にして、現在のリアリスの拠点となっている世界一高い塔に向かうことになった。
「フレット様、オキナ老、塔の攻略でしょうか? お連れ様がおられるようですが……」
フレットたちはよくダンジョンに来るようで衛兵に顔を覚えられているらしい。
僕は、見る限り貴族令嬢……
服装ぐらい変えてくればよかった。
(あー、胸とかお尻の成長見るに、前の盗賊服入らないと思うよ)
リアリスが告げる事実が胸を刺す。
さらに見た目が女性になっちゃったってことだよね。
ただ昔ほどショックは少なかった。事実として受け止められる。
「低階層をウロウロするだけじゃ。儂らから見ればたいした危険はないのぉ」
オキナが余裕を見せ、フレットが少しばかりの賄賂を握らせた。
「アシュは今は貴族令嬢だ。テールみたいなお転婆はともかく普通の貴族令嬢はダンジョンには入らねぇからな」
フレットが優しく諭す。
一応僕も、Aランク冒険者なんだけど……
そう言って強引に入るより袖の下でトラブルなく入る方が賢い選択みたいだった。
ダンジョンは何故か長い一本道だった。
後ろに他の人が並んでた気がするけど、その人が来る気配もない。
鐘半分ぐらい歩くと、扉が現れる。
開けると、紅茶のいい匂い。
何故か一面に空の見える見晴らしの良い展望台に、お洒落なテーブルと椅子が並んで、まさに天空のお茶会って様相だった。
「アシュ、よくここまで来たね。本当に可愛くなっちゃって」
人型のリアリスを見るのも久しぶりだ。青い髪と青い瞳が印象的。
今は青いドレスを身に纏い、銀色の髪留めでお洒落に纏めている。
そして香る濃厚な花の匂いが、出会いの日を思い出す。
リアリスが僕に飛び込んでくる。
僕は少し複雑な表情で、リアリスと抱きしめ合った。
ドキドキする。顔が熱くなって、胸が高鳴る。男だったら骨抜きになっているだろう。
「よーしよし、可愛いぞー」
フレットが呆れ、オキナは無関心に見守る横で、使い魔っぽいうさぎが、ちょこちょこと紅茶を運んでいた。
「それじゃ、ダンジョンについてお話していこうか」
紅茶とお茶菓子を堪能し、外の景色を満喫した後、リアリスは本題に触れることにした。
「まず、アシュちゃんたちのダンジョンに対する認識はどんな感じ?」
「んーと、リアリスが操れる、怖い、モンスターが出てきて、トラップとかある?」
リアリスは僕が言った言葉を白い板に、黒いペンで箇条書きにして書いている。
「それ便利そうだな。冒険者ギルドとかに卸したら儲かるんじゃね?」
確かに。
フレットにしては商売的な話をしている。
「あはは、異世界の品で加工技術的に無理かな。ダンジョンの備品としてなら出せるけどね」
リアリスはやんわりと否定した。
異世界!? そんなのあるんだ……
とりあえず、不思議って文字を書いてもらった。
「まぁ、大体案は出尽くしたね」
並べてみるといっぱいあることがわかる。
ダンジョンって人それぞれ色んな考え方があるんだな。
感心しているけど、結局よくわからない。
「ダンジョンについて色々説明したいけど、たぶんアシュちゃんには難しいから今回は二つだけルールを説明するね」
二つなら覚えられそう。
「一つは質量保存、つまりダンジョンは持って来た素材以上のお宝を外に持ち出せない。ってルールがあります」
これはわかりやすかった。食べた物以上は出てこない。人間でもダンジョンでも同じなんだね。
「でも、ダンジョンさんって何食べるの?」
「何でも食べるよ。土や木、岩なんかも食べるし、迷い込んだ動物とか、生ごみや人間の排出物なんかも吸収するね」
「はぁ。これ、今までのダンジョンがメインに食べてた物は人間って話だよな?」
「あはは、だって餌撒けば勝手に寄ってくるんだよ? ちゃんとコントロールして美味しく頂きたくよ」
僕は少し胸の奥がざわついた。
人間が……餌?
リアリスはにこにこ笑っているけど、その笑顔の裏に、淡々と人間を「資源」として見ている部分がある気がして、少しぞわっとした。
小さくなった手が無意識にドレスの裾を握りしめ、女の子らしい柔らかい感触が自分の変化を思い出させる。
リアリスに人間は餌だなんて考えて欲しくなかった。けど……僕にはどうすることもできなかった。
「そ、それで二つ目は?」
怖い話から話題をそらしたくて、急いで次の話を促す。
「経験値ってルールね。モンスターを倒したり、倒されたり、または人間が行動すればするほどエネルギーが得られるんだ。このエネルギーでお宝とか家とかを作れるの。だから、ダンジョンの中に長くいて貰った方がお得なんだよ」
ダンジョンに住む人間がいれば経験値をたくさん得られるってことかな?
「あー、嫌なこと思い出した。僕がリアリスと会った部屋。出口が無かったよね? 死体の部屋って言ってたけど……」
「ああ、餓死するまでほっておくための部屋だよ。たまにモンスターが沸くから恐怖とか絶望とか色んな経験値が取れ……」
リアリスが口をつぐむけど、もう遅い。
僕は少し息を飲んだ。
胸の奥が冷たくなる。
やっぱりダンジョンって、優しい場所じゃないんだ……
リアリスはいつも優しいのに、こんな残酷なことも普通に話せるんだ。
「それで、このお約束、守らないと酷いことが起きます」
酷いこと? 今までの話も酷いけど何が起きるの?
「あー、噂には聞いたことがある。スタンピードって言われる物だな」
フレットが説明してくれた。
モンスターたちによる暴走。街をなぎ倒し多くの死者がでる災害なんだって。
「なんとか、ならないの?」
いっぱい死ぬなんてとても嫌な気持ちになる。それに、リアリスにそんなことさせたくなかった
リアリスはすまなさそうな落ち込んだ表情でこちらを見つめた。
「……スタンピードはダンジョンの最後の悲鳴なんだよ。痛い、苦しいって感情がスタンピードを引き起こすんだ。だから、ごめん止められないかな」
お約束を守らないと起こる災害、魔王ですらどうしょうもない事故なんだ。
どうやってそれを止めるか。それが今の僕の悩みだった。
「ふぅ。リアリスありがと、ダンジョンのこと少し分かった気がするよ」
「アシュちゃん成分を堪能できたし、楽しかったよ」
そうして、帰ろうとダンジョンを抜けたその時だった。
浮浪児と思われる二人が、ダンジョンの入り口で衛兵と揉めていた。
フレットは見られたくない状況を見られたなと、目をそらす。
……助けないと。僕が動き出したのはその瞬間だった。
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