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第18話・死神王子の話



「うー、緊張する……」


 今日は白を基調とした、魔獣のドレスでお披露目だ。


 ドレスはカラーバリエーションとして、黒、茶色、そしてレアな白の魔獣の皮がある。染色はリアリスのお手製だ。


 こういう時、男性は軍服に身を纏うのがしきたりらしい。きっちりとした軍服のへラードはいつもより大人に見えた。


「王様達の計らいで、僕達の入場は一番最後らしい、基本は偉い人が後に入場するんだけどね」


 さらに緊張が高まる。

 胸がどきどきして、手のひらが汗ばむ。

 失敗したらどうしよう……皆に迷惑をかけたらどうしよう……そんな不安が頭の中でぐるぐる回る。


「心配しすぎですわ。少し失敗するぐらいでちょうどいいのです。あなたに完璧など求めて無いですわよ」


 テールのフォローで少し気が楽になった。


 そうだよ、僕に注目なんて誰もしてないよね……


(いや、注目度はトップだと思うよ。逆にここまで注目度が高いなら、失敗すら演出に変えれる。だから好きなようにやれば良いのさ)


 僕そんなに注目されるの!?

 緊張で体が硬くなる。動きがぎこちなくなってる……




「ご、ご機嫌麗しく……」


 会場に入ると思った以上に視線が集中した。

 顔が熱くなる、恥ずかしくて逃げてしまいたい。でもそれをしたらまずいから何とか耐える。


 まず、猫背にならないように、注意して歩かないと、へラードのエスコートに付いていく感じで……


 やっと席につけた。これで一息つける。






 席は前の方だった。他の人の視線はまだ残ってるけど、だいぶマシになった。


 隣には優しそうなお兄さんと美人の女性達、数人の子供達がいる。

 子供達は自由にしていて、ちょっと安心した。


「あの子ちょっと席が皆と離れてるね。どうしたのかな?」


 気になる点はあったけど、王様の声に意識は遮られた。


「これより、フォーゲスト家の病の完治と婚約者決定を祝いの席を執り行なう。フォーゲスト家の歴史は古く、300年以上前の大戦時代からの血筋であり、我らが臣下として仕えてくれた家系だ」


「古くからの病により短命であった彼らがそれを克服した事、新たな伴侶を手にしたことは我が国の発展へ軌跡であろう。それでは皆、杯を持て」


「我が王国に栄光を!」 『我が王国に栄光を!!』


 王様が何を言ってるかよくわからなかったけど、最後の挨拶だけは合わせることが出来た。





「挨拶……すごく、疲れた」


 僕はテラスで休憩中だ。


 大量の挨拶に完全に翻弄されていたんだ。

 ドキドキする暇もないぐらいの人の奔流に、心が流されてしまっていた。


「ん、テラスにさっき孤立してた子供がいる。1人で何やってるんだろう?」


 僕は子供が好きだ。弟とか可愛いかったし。

 だから、癒しという下心を持ちながらその子に近づいた。


「元気ないね。どうしたのかな?」


「えっと、貴方は……へラードの婚約者?」


「ちょっと疲れちゃって抜け出して来たんだ。君はどうしたの?」


「怖がらないの? いや、情報を持ってないのか。僕に近寄らない方がいいよ」


 少年は僕を拒否してくるけど、それがなんか少し前の自分みたいな気がした。

 だからほっておけなかったんだ。


「何があるか知らないけど大丈夫。僕より厄介事を持ってる人間なんていないから」


 だって魔王の眷属なんだ。少し変わった子供を怖がる必要は無いよ。


「警告はしたから……」


 生意気に鼻を鳴らしてそっぽを向く少年。このぐらいの時期はそんなもんだよね。


(殺気だ。アシュ、すぐその場を離れて!)


「え、どういう事。君、一緒に逃げるよ!!」


 少年の袖を掴んで一緒に逃げる。

 テラスから廊下に入る瞬間に、飛んできた矢が肩に刺さった。


「痛っ!? 君は、逃げて」


 何者かわからないけど、狙われてる。少年だけは逃さないと……

 と思ってたら今度は少年が僕を引っ張って逃げようと廊下を走る。


 痛くて、足手まといになっているのが分かる。


「僕、遅いから、君も巻き込まれちゃう」


「……この部屋に入れば、弓での狙撃は無い。早く入れ」


 と、近くの部屋になだれ込んだ。


「痛いの得意?」


 少年は部屋に入るとこんな事を聞いてきた。

「得意なわけじゃないけど、これぐらい耐えれるよ」


 痩せ我慢だったけど、少年の前ではカッコつけたかった。


「なら、耐えて」


 少年が詠唱を始める。魔法だよね?


 たぶん、すると痛みがいきなり増える。  

 傷口を無理やり抉る様な痛み……


「うがぁ!!」

 痛い痛い痛い。


(冷静になって、傷は治ってる。その痛みは魔法の代償だよ。対象の痛みを対価にするのは珍しいけど、回復の効果はすこぶる早い)


 代償。魔法を使う時に支払わせるなにかだけど……

 治癒魔法の代償が痛みだなんて思わなかった。


 しばらく苦痛に耐えていると、痛みが引いて行く。


「ふぅ、ふぅ、あり、がとう」


 痛みが引いて、落ち着いてきて、お礼が言えた。


「僕の治療受けたのに、落ち着いてた。それに、ありがとうって、言われたこと無くて……」


「傷、直してくれたんだよね? じゃあお礼は言わないと」


「……うん」


 少年の頬が赤く染まる。僕にも覚えがあるぞ、年上の女の人に惚れた感じだ。

 ふふふ、僕が女の子かどうかはさておき、初恋は実らないものなんだよね。


「王子、シャナルマト王子。何処にいらっしゃるのですか?」


「あ、うちのメイドだ。たぶんもう安全かな」

 ん?  王子ってどういう事?


(たぶん第4王子のシャナルマト君だね。回復魔法の使い手らしいけど、死神王子とも呼ばれてるね)


 リアリスの声が頭の中で響いた。

 え、王子様!? 僕、失礼なことしちゃったじゃん!


「5年、待って欲しい。いや違う、5年後に奪いに行く。覚悟してて」


 シャナルマト王子はメイドと合流するなりそんな言葉を残して去っていった。


 どうしてか胸が高鳴る。


 告白、だよね……王子様に言い寄られちゃった!?


 いや、落ち着け、大丈夫。子供が5年も待てる訳ないし……


 きっと僕のことなんて忘れちゃうって。


(それをね、世の中ではフラグって言うんだよ)


 リアリスの笑い声が僕の頭の中に響いた。




ご愛読いただきありがとうございます。

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