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第14話・初めてのおつかいの話


 朝、日明けと同時に目を覚まし、アルナスを待つ。

 この前、アルナスより先に起きて部屋をウロウロしてたら怒られたからだ。


「お付より先に起きないでください。怪我をされたら困ります」


 貴族令嬢がうっかり怪我をした場合、お付の腕を切り落とすという刑罰があるんだって。


 怖くて、胸がきゅっと締め付けられた。

 僕のせいで、お付の人が痛い目に合うなんて、耐えられないよ。


 だから、ベッドで寝た振りをするようになったんだ。


 そして、そのままお風呂に入る。

 最近はテールも一緒に入ることが多くなった。


「薪代の節約ですの」と言ってたけど、僕のほっぺを触ったり、胸を揉んだりしてきて、一緒に入ってて気が気じゃない。


 女の子の体がどんどん敏感になってる気がして、触れられるたびに体がびくっと震えてしまう。


「やはり大々的に売るなら、お披露目が必須ですわね」


 そう言いながら僕の頭を撫でるテール。僕の広告塔デビューを考えてるのだろう。


 うーん、お城で舞踏会とかに出るのが定番かな?

 踊りは少し自信がある。ヘラードが毎回、「アシュは上手だね」って褒めてくれるからだ。


 踊りの先生からは生暖かい目で見られることが多いけど、褒めてくれる相手がいるのはすごく嬉しくて、練習を頑張っているんだ。


「まずは練習からですわ。いきなり本番で目立てと言うのも酷ですしね」


 テールとリアリスが僕の練習プランを考えていた。皆、心配性だよね。


(アシュちゃんの幼女化が止まらない)


 リアリスの酷い声が頭の中に響く。


 僕、幼女じゃないもん……!




「って事でアシュにはおつかいに行ってもらいますわ」


 知り合いの貴族家に手紙を持って行くミッションだった。初めてのおつかいである。


 すぐに行こうとする僕をアルナスが止める。


「アシュ、貴族の家を訪ねるのに先触れなしでは失礼に当たります」


 え……?


 僕はぴたりと足を止めた。

 おつかいって、ただ手紙を届けるだけだと思ってたのに……


 先触れ? 失礼?

 なんか急に難しそうな話になってきて、胸がどきどきしてきた。


 アルナスはいつものように丁寧に説明してくれる。


「貴族の家を訪ねる時は、事前に使いの者を送って訪問の意思を伝えるのが礼儀ですわ。

突然訪ねると、相手に迷惑がかかる可能性があります」


 ……そうなんだ。

 貴族の家って、そんなに気を使わなきゃいけないんだ。少し不安になって、アルナスの袖をそっと掴んだ。


「アルナス……僕、ちゃんとできるかな? 間違えたら、テール達に迷惑かけちゃうよね……」


 アルナスは優しく微笑んで、僕の頭を軽く撫でてくれた。


「大丈夫です。アシュは一生懸命ですから。私が付き添いますので、安心して行ってらっしゃい」


 あれ? 付き添い?

 誰かが付いて行って良いの?


「アシュ? 貴族令嬢としての練習ですわよ。貴族令嬢は一人では行動しませんわ」


 テールが呆れたように補足した。

 ううう、おつかいぐらい一人で行けると自信満々だったのに……


 でもアルナスが一緒にいてくれるなら、きっと大丈夫だよね。


 貴族の家に行くって、なんだか緊張するな……


 結局、ルリヤとアルナス、その他メイドさん2人の合計5人でおつかいに行くことになった。


 ルリヤの眼帯がなくなっていて、青い瞳と金色の瞳のオッドアイになっている。


 気になって見てみると、ルリヤが口を開いた。


「石化の魔眼は使えなくなったけど、石の魔法が使えるようになった」


 普段から抑揚のないルリヤだが、少し楽しそうだった。

 天気も良いしお散歩日和だからきっとご機嫌なんだろう。


「歩く時は、護衛どの距離に気を使ってください。離れすぎないようにお願いします」


 アルナスの注意が飛んだ。

 普通に歩くすら難しい。頭から湯気が出そうになる。

 それでも、僕が道を間違えそうになったぐらいで、スムーズに貴族の家にたどり着いたんだ。


 小さなお屋敷だった。村長さんの家よりは大きいけど、いつものお屋敷の大きさが伝わる。

 働いてる人も少なくて、優しそうな老夫婦がお出迎えしてくれた。


 この人が貴族の人なのかな?

 僕はテールやヘラードみたいな若い貴族しか見たことなかったから、こんな貴族もいるんだと感心した。


 手紙を渡す。老夫婦はゆっくりと手紙を見回すと、ポロリと涙を流した。


「お手紙、悲しくなる内容だったの?」


 泣いてる人を見ると僕も悲しくなってしまう。心がぎゅっとして、不安が襲ってくる。


「いいえ、うれし涙よ。あなたがアシュちゃんね。あの子達に幸福をもたらしてくれたみたいね。ありがとう」


 突然のお礼に、背中がむず痒くなって顔が熱くなった。

 まだ男だった頃は、こんな風に誰かに「ありがとう」と言われたことなんてほとんどなかった。


 小さくなった身体で、女の子の格好で、初めての人に感謝される……なんだか不思議で、でも少し誇らしい気持ちになった。



 後は、服を褒めて貰って、お菓子を貰った。

 お子さんは領地に居てなかなか孫の顔が見えないのが残念なんだそうだ。




「そう。パウワー辺境伯ご夫妻も元気そうで何よりですわ」


 家に帰って報告すると、テールがそう漏らした。


(辺境伯と言うと、テールの貴族家よりも上の地位だね)


 リアリスの声が頭に響く。

 あのお爺ちゃん達、そんな偉い人だったの!?


「あの二人は、私たちの母の家系の貴族なのですわ。と言っても、平民であった母の養子縁組先」


「母は、あの家で貴族のマナーを身に着けるため、少しの間滞在していたの。だから私たちにも良くしてくれたのですわ」


 だから、お爺ちゃん達は手紙を読んだ時、涙を流して喜んだんだ。


 僕は、その時少しだけ誰かのために役立てたことを誇りに思った。





ご愛読いただきありがとうございます。

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