第12話・男同士の決闘の話
「ぎゅーって、そのぎゅーってするの辞めて。痛い、痛いよぉ」
僕は拷問を受けていた。お腹をぺちゃんこに潰されて、紐でお肉を無理やり形に詰め込む、恐ろしい拷問だ。
息が詰まって、胸が圧迫されて、ちょっと動くだけで肋骨が悲鳴を上げる。
「はいはい、コルセットはそういう物ですわ。しっかり締めましょうね」
うぎゅー
「ううう、せっかくいっぱい食べようと思ってたのに……こんな痛い思いするなんて」
お腹がぎゅうぎゅうに締め付けられて、涙目になりながら文句を言う。
こんなに苦しいのに、綺麗に見せるためだけに我慢しなきゃいけないなんて……本当に拷問だよ。
「そのうち慣れますわ。っと、これで魔獣のドレスの試着ができますわね」
貴族相手って聞いたし、見世物パンダみたいな物だよね。
広告塔になるには、体型も美しくなきゃ駄目だって、お肉は禁止されてしまった。
だけど……ヘラードにこっそりご飯に連れて行って貰ってる。
昨日も連れて行ってもらったんだけど、僕はすぐにメニューに夢中になった。
「わぁ、この肉、とっても柔らかそう……!」
フォークを握りしめて目を輝かせながら言うと、ヘラードは優しい声で囁く。
「アシュ、ご飯食べる時幸せそうな顔してるね」
なんだか嬉しそうに微笑んでいる。
一口頰張ると、じゅわっと肉汁が広がって、思わず頰が緩む。
「だって、ヘラードと食べるご飯、ほんとに美味しいんだもん」
素直に言うと、へラード君の顔が赤くなった。
目を逸らして少しもじもじしている。……へラード君、今日はなんだか照れ屋さんだな。
きっとお店の照明が熱いんだろう。
僕は次の料理に夢中になって、フォークを動かしながら幸せな気分で食べ続けた。
ああ、思い出したら……よだれが出ちゃう。
コルセットの中でお腹がきゅるきゅる鳴ってる気がした。
祝賀会は家の中庭で行われた。
内々と言ってたけど、かなりの規模で、中庭は人で溢れていた。
メイドの家族とか、家に出入りする業者の人を招待したから、この人数になったらしい。
僕はテールと一緒に色々な人に話しかけて挨拶するって役目を負わされた。
僕の紹介と魔獣のドレスのアピールも兼ねるらしい。
会う人皆に可愛い、綺麗って言われてちょっと嬉しかったけど、それより料理が気になった。
コルセットがあるからそんなに入らないとしても、珍しい料理もあって少しは食べたくなる。
でも、動くだけで肋骨が悲鳴をあげている現在、少しでも致命傷になりかねない。
結局食事する暇なんてなくて、忙しく会場を回っていると、そこにあった火種が燃え上がったんだ。
「何が起こったのです? あれは……ヘラードと、フレット様!?」
ヘラードがフレットに決闘を申し込んだらしかった……
フレットはこの街に来て早々、塔のダンジョンに潜っていたらしい。
Aランクの冒険者はダンジョンにフリーパスで入れる。
知らない間にリアリスに言われた物をダンジョンに運んで、代わりに魔獣のドレスの材料を持ち出す役目をしていた。
だから、僕やヘラードとはあまり会わなかったんだけど……
(ついに、一人の女性をかけた決闘に発展したね)
僕が二人に近づいた時、既に決闘は始まっていた。木刀がぶつかり合い、カーンと甲高い音が中庭に響いている。
ヘラードが鋭い突きで翻弄し、フレットがそれを木剣で受け止めながら、それでも攻めあぐねている。
……普段ならフレットが攻める印象があったんだけど。
胸がざわざわする。
二人が本気でぶつかっている姿を見ているだけで、息が苦しくなってきた。
へラードは必死の顔で、フレットはいつもの落ち着いた表情だけど、目が少し鋭い。
「フレット様の剣術は我流、なのでヘラードの騎士の剣とは相性が悪いのですわ」
テールが隣で静かに説明してくれる。
(騎士の剣術って、セオリーを徹底的に叩き込まれたスタイルなんだよね。
相手の動きを先読みして、最小の力で最大の効果を出せるように作られてる)
(でもフレットのは我流。力任せで直感的に戦うから、セオリー通りの動きをされると逆に読みづらくなるんだ)
リアリスの声が頭の中に響いた。僕は思わず拳をぎゅっと握っていた。
へラードが傷ついたらどうしよう……
フレットが本気で斬りかかったら……
二人が怪我をしたら、全部僕のせいなんじゃないかって、胸の奥が冷たくなる。
決闘の音が耳に刺さるたび、心臓がどくんと大きく鳴った。
決着は一瞬だった。
フレットの反撃に合わせ、ヘラードは木剣をぶつける。フレットの木剣はその一撃に耐えきれず砕けた。
そのままヘラードはフレットの首に剣を当てる。勝負ありだ。
両方とも傷付かずの決着に、僕はほっと大きく肩をなで下ろした。
胸の奥に溜まっていた冷たいものが、ゆっくりと溶けていくような感覚だった。
でも……ヘラードにそんなパワーある……?
(魔法使ったね、一瞬だけど犬耳が見えたよ。負けたー、でも楽しかった)
少し悔しそうなリアリスの声が頭の中に響いた。
「ふふふ、どうやら私の勝ちですわね。リアリスは王国のレベルを低く見積もりすぎなのですわ」
テールが勝ち誇ったように笑う。
どうやらテールとリアリスは、どちらが勝つか賭けをしていたらしい。
僕は呆然とそのやり取りを聞いていた。
二人がそんな賭けをしてたなんて……
ヘラードとフレットも共に握手をしている。
多分僕には分かんない、男同士の友情とかあるのかな……?
◆◆◆
アシュが疲れ深い眠りに落ちた頃、フレットはリアリスの下を訪れた。
「あはは、それでどうしたのかな? あ、ヘラード君に負けて悔しかった?」
リアリスはいつもどうり道化師のように気持ち悪い声をあげる。
「そんなんじゃねぇよ。まぁ悔しく無いわけじゃねぇが……」
「勝てるようにしてあげても良いよ。ヘラード君のも魔法の力だからね、君にも何か力を……」
「アシュの未来を考えてた。ヘラードと一緒になるのもありじゃねぇかとな」
「ほうほう」
リアリスの目が怪しく光る。
「だけど、お前言ってたよな。魔王の人生はなげぇって……なら、大切な人が亡くなるのを、アシュに耐えられるとは思えねぇ」
「あはは、よく考えてるじゃん」
「リアリス取引だ、俺は最強かつ不老不死を目指す。んで、アシュを守る。そのために何もかもくれてやるよ」
「デカく出たね。その道険しいよ?」
「望むところだ」
共通の利益の為、魔王と最強の剣士が手を組んだ瞬間だった。
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