第11話・代々続く呪いを上書きする話
呪いには2種類あるらしい。
魔王の呪いと、それ以外。
魔王の呪いとは、僕が女の子になっちゃった原因の、あの甘くてドロドロしたやつ。
そしてもう一つは、魔法の契約による呪い。
悪い魔法使いがわざとデメリットを多くして契約をさせるタイプだ。
僕が「貴族令嬢教育」を受けている裏で、リアリスとテールは呪いの分析を進めていた。
ただ告白事件を笑ってるだけじゃなかったらしい。
「でも、呪いってそう簡単に消せるの?」
わりと簡単なことのように言ってるけど、そんな物ならとっくに消してるんじゃないの……?
「大丈夫。アシュちゃんにもできるよ」
リアリスの簡単クッキングが始まった。材料は不死鳥の皮膜、竜の血、それと精製したアルコール。
竜の血をアルコールに溶かして、皮膜に魔法文字を書く……という工程らしい。
「全然簡単じゃありませんわー」
テールが即座に突っ込んだ。
特に材料が難しいらしい。
「それ、僕持ってる……」
他のよくわからないレアアイテムと一緒に、携帯用のカバンに入れてたはず。
ガサガサと探していると、テールがため息を漏らした。
「つまり、高価な素材で新しい魔法契約を結ぶことで、今までの呪いを上書きする作戦ですわね」
リアリスはコクリと頷く。
それが一番安全な方法らしい。
呪いを誰が解くかの問題があった。残念ながらリアリスはネコモードでは魔法契約はできないみたいだった。
テールは呪いへの耐性が問題になり、姉弟だと呪いが伝染るかもしれないと言われた。
なので僕が実行役に選ばれたんだ。
「アシュちゃん。魔法文字、簡単なのにしといたから、練習すれば書けるよ」「うん!やってみる……」
そう筆をとったけど、僕そういえば普通の文字もまともに書いたことなかった……
「これはしばらく練習が必要そうですこと。アシュ、まずはまっすぐ線を引くことから始めますわよ」
先は、長そうだった。
「それで、ヘラードとその後どうなのです?」
文字の練習の休憩中にテールにそう問われた。
その後かー。昨日はお外にご飯に連れて行ってもらったっけ。
へラード君が緊張した顔で「一緒に食事に行きませんか?」って誘ってくれたから、ただのお出かけだと思ってついて行った。
レストランは王都でも高そうなところで、照明が柔らかくて雰囲気がありすぎて少し落ち着かなかったけど、へラード君はすごく親切だった。
椅子を引いてくれたり、メニューを丁寧に説明してくれたり、僕が食べにくそうなものは小さく切ってくれたり……
「ブローチ、気に入ってもらえたかな……?」
帰り際に渡された少し高そうなブローチ、へラード君は照れくさそうに僕にくれた。
僕は素直に「ありがとう、綺麗だね」と言った。へラード君、なんだか嬉しそうだったな。
でも、最後に屋敷に戻る時、どこか寂しそうな背中を見送って、やっぱり呪いのことが気になっているんだろうと思った。
「へラード……少し不憫に感じてきましたわ」
「アシュちゃん、それ、デートってやつだからね」
「ふぇ? デ、デート!?」
いやいや、へラード君は呪いのせいで相手がいないって話だったし……
ただ一緒にご飯を食べに行っただけなのに……?
頭が少し混乱したけど、すぐに切り替えた。
呪いさえどうにかすれば、へラード君も自由になれる。
だから僕も頑張る必要があったんだ。
約2週間の練習の末、僕は簡単な文字列の真似ができるようになった。
その期間、僕はへラードと何回かお出かけをした。
最初はただのご飯やお散歩だと思っていたんだけど……
最近、なんだか「デート」って言葉が頭に浮かぶようになってしまった。
でも、特別なことは何もしてないし、ただ一緒にご飯を食べたり話をしたりしただけだよね……?
それなのに、考えるだけで顔が熱くなって胸の鼓動が少し早くなる。
……このまま「デート」だと意識し続けると、変な気持ちになってしまいそうだった。
だから、普通の友達とお出かけしただけだと考えるようにしたら、心が少し軽くなって、素の自分を出せるようになっていった。
そして、呪いを解く当日。
「本当に、アシュが呪いを解くんだね……」
失礼なことを言うへラード。
「今まで僕を何だと思ってたのさ!」
「いや、てっきり姉さんが農家で何も知らない女の子を拾ってきたんだと……」
呪いの専門家として頼られてるんだと思ってたから、農家の娘に思われてたってわかって少しショックだった。
(へラード君の分析、正確だよね……)
農家だけど、女の子じゃないもん!
やっぱり本番は緊張する。
手のひらに汗が滲み、指先が少し熱い。心臓の音が自分でもはっきり聞こえるほどだった。
でも、2週間練習した成果を今見せる時だ。
僕は慎重に文字を刻んでいく。
すると、へラードが突然苦しみ出した。失敗かと思って身体が硬直した。
嫌な汗が吹き出し、胸の奥が冷たくなる。
どうしよう、僕のせいでへラードが死んじゃったら……
(大丈夫、魔法契約の上書きは痛みが伴うんだ。正常だよ)
リアリスの優しい声が頭に響いて少し安心した。
でも、不安は棘みたいに胸に刺さったままだった。へラードは苦しんだまま、時間だけが進んでいく。
すぐに終わると思ってたから、この時間が永遠に続くように感じた。
そんな時間が、突然終わりを迎えた。
「やっと、楽になってきた……。ん?アシュ、どうしたんだい?」
犬……耳……!?
僕はパニックになっていた。
呪いを解くはずが、失敗して魔族に変わる呪いが発動した?
どうしよう、へラードが死んじゃう……恐怖で血の気が引いていく。
「アシュ! 成功ですわ」
テールの声に、急に現実に戻された。
「魔法名:ウォーウルフ、獣人化することで身体能力を強化する魔法ですわ」
堂々と宣言した。すごそう!
「あ、この耳戻せるんだね」
へラードの犬耳が消えたり出たりしている。
……なんか可愛い、もふもふしたくなってきた。
思わず手を伸ばして、犬耳に触れようとする。
「これで、我が家の呪いは打ち破られましたわ! ……って、何してますの?」
テールが嬉しそうに声を張り上げた。
「ああ、今犬耳触れそうだったのに……」
「ごめん、姉さん。アシュが、可愛くてつい……」
え、触れそうで触れなかったの、わざとだった!?
その後、へラードに屈んでもらって、もふもふを堪能できたんだ。
テールは内々で祝賀会を提案した。
僕も出ていいんだって。村の年越しのお祭りは美味しいものがでてすごく楽しい気分になる。
だからすごく楽しみだったんだ。
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