第10話・言い寄られる話
僕たちは約1週間ほど歩いて、テールの家がある王都、ターキルにやってきた。
タキールは港街で、潮風が気持ちいい。
一番目立つのは、街の外からも見えた世界一高いといわれている塔だろう。
お城より高くて意味がわからない。
「あれダンジョンだよ」
リアリスが楽しそうにしっぽを振って答えた。
「あうー、つかれた……」
僕はぐでーとベッドに横になった。
貴族のお出迎え文化とやらの洗礼を受けたからだ。
お風呂というものを初めて体験し、メイドさんに身体中を洗われることになった。ベッドは少し硬かったけど、僕の安眠の妨げにはならなかった。
「アシュさん、起きてください。貴族令嬢としての教育が待っています。のんびりなどさせませんよ」
「ふぇ!? い、今何時なの?」
メイド姿のアルナスに起こされる。まだ眠いんだけど、自然とあくびが漏れる。
窓を開けるとオレンジ色の光が空を照らしていた。
「すでに日は出ました」
「なんで!? 冒険者でもこんな早く起きないよ!?」
「女性には準備が必要なのです。朝から入浴、化粧、ヘアアレンジ等、時間がいくらあっても足りません」
そういうアルナスはキチッとしたメイド服に身を包み、髪もメイクも完璧だ。
「アルナスは何時に起きているの?」
「鐘ひとつ分は前ですね」
僕にメイドはできそうにない……
その日はすぐに「貴族令嬢教育」が始まった。
お風呂から出た僕は、アルナスから指導を受けながらメイクをしてもらう。
「アシュさん、基礎メイクだけで十分可愛らしくて、下手に弄ると調和を乱してしまう。チークとアイライン程度で十分ね」
そんな中、ルリヤが部屋に乱入してきた。
「なるほどなるほど、へラード大丈夫かな? これに言い寄られて落ちない?」
そんな魔性の女みたいに言われると困る。
僕は教育を受けた事が無くて、それを怖い物だと思っていた。
取って食われるんじゃないかとヒヤヒヤしたんだ。
でも、実際やってみて、思った。
楽しい。
誰かに教わって導かれる事がこんなに楽しいなんて思わなかった。
わからないことを一つずつ教えてくれるのが嬉しくて、できた時に褒めてもらえるのが胸を温かくしてくれる。
「今日のレッスンはここまでですね。キチンと復習しているみたいで安心しました」
「それはアルナスが復習が大切って言ってたから……」
「大切ですが最初から出来る方は居ません。ですから、ちゃんとやってきた事が、とても良いと言うことです」
アルナスは、はなまると言ってくれる。
とても優しくて、まるで本当のお姉さんみたいに感じて、胸の奥がじんわりと温かくなった。
こんなに安心できる授業なんて、想像もしていなかったんだ。
次の日はテールの弟のヘラード君との面会の日だった。
「えっと、はじめましてへラード様、僕はアシュと言います」
「姉さんの連れてきた方ですね。へラードと申します。貴方との出会いに感謝を……」
へラード君は、予想よりも大きかった。たぶんポーター時代の僕ぐらいの体格だ。
もっと小さいのを予想していたから少し驚いた。
「ちょっと呪いについて詳しくて、君の呪いをどうにかできないかってやってきたんだ」
リアリスが設定をつけてくれた。
「そう……なんですね……はは」
そう答えるへラード君の目に、暗い影のような感情が見えた。
裏切られてきた不信感……きっとそういうものだと思う。呪いに侵される気持ちは、少しはわかる。
僕自身も、身体が少しずつ変わっていく中で「これは本当に僕なのか」と何度も不安になったから。
僕は恵まれていただけで、本来なら否定され、拒絶される痛み……
そういう気持ちが、僕なら理解できる気がして、胸がぎゅっと締め付けられた。
だから、どうにか笑顔を作りたくって、いっぱいお話した。
へラード君が少しずつ僕の言葉に耳を傾けて、笑顔を返してくれるのが嬉しくて、自然と僕も笑顔になる。
この子も、きっと寂しかったんだろうな……
「僕は君を好きになってしまったらしい。僕と付き合ってくれないか?」
あれ……?
突然の告白に、頭が真っ白になった。
心臓がどくんと大きく跳ねて、言葉が喉に詰まる。え……今、なんて……?
「あはは、へラードは基本女性耐性が低いのですわ」
一通り笑うとテールが事情を説明しだす。
「貴族の中では呪われているって有名ですの。だから、平民女性ですら呪いを怖がり近寄らない始末」
「そんな中、貴族以上の美しさで、呪いの事に怯えない女性。そんなのに言い寄られたらイチコロですわ」
「言い寄ってない!」
「アシュちゃんモテるね」
うわーん、なんでこうなるの!?
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