21.俺にはかえってエロいんです。
キッチンがある部屋に案内するが、こちらは築40年くらいだろうか。
昭和の時代からの建物で、古くてボロい。
「ゴメンね。アトリエは俺が生まれてから増設したらしいんだけど、こっちは昔のままで……。あまり綺麗じゃないかも」
「そんなことないよ。大丈夫、十分使えそう」
文句一つ言わないどころか、楽しそうにキッチン設備を物色する瑛里。俺の根本的な部分を受け入れてくれている気がした。
こういう所を好きになったんだよな。
一通り確認が終わった瑛里が、
「じゃあ、ちょっと買い物に行ってくるね。瑛祐くんはプラモの作業を続けててね」
と言ったので、
「あ、俺も行くよ。荷物持つし」
と即答した。当然、俺もついて行く。
何より、一緒にいたいからな。
⋯。
さっき、喜んでくれた瑛里が俺の手を握ってくれた。
柔らかくて、小さな手。俺の心は、とてもじゃないけれど冷静ではいられなかった。それこそ宇宙の彼方へ行ってしまうくらいに。
瑛里は気づいてすぐに手を離して照れていたけれど、案外、本人はあまり気にしていないのだろうか。
……恋人なら、手を繋ぐのは普通だよな。
瑛里と「友達以上」になりたいなら、手くらい繋いでも平気にならないと。
今日の瑛里は、いつもの制服とは違う私服姿だ。軽い素材のジーンズに半袖のTシャツ。お洒落とは言えないかもしれないし、色気も控えめかもしれない。
でも、夏だ。どうしても薄着になる。
今までは意識しないようにしていたし、制服姿だと正直、岸川さんや白川さんみたいに目立っていないけれど……。
今日の服装だと「形」が、わかる。
……ぼ、僕には、かえってエロいです。
いつか、そう遠くないいつの日か……自由にできる日が来たらいいなあ。
いやいや、手を触れるだけで精一杯の俺にはまだ早いか。とりあえず買い物について行って、まずはもう一度手を繋ぐチャンスを――。
そう思っていたのに。
いざとなると、自転車を「盾」にして歩いてしまうヘタレな俺を許してほしい。
駅前のスーパーまで、自転車を挟んで二人で歩く。
瑛里が何かをずっと考えている。きっとアニメのことだろうけれど。
「あの壺はいいものだ……」
「え? 壺なんてあった?」
「ごめん、なんでもないです!」
なんでもないってことはないだろうけれど……。公国軍参謀の名セリフっぽかったので、何か企んでいたのだろうか。
「えっと、合挽き肉と玉ねぎと卵……。パン粉に、あ、お出汁も買っておこ」
「うん」
俺がカゴを持って、瑛里が商品を物色する。自転車がなくなったというのに、また手が繋げない。ホッとしたような、なんだか少し残念なような。
いや、残念でしかない。
「あのチーズ入りハンバーグ、もう一回作ってもいい?」
マジか。あの完成形が食べられるのか。
「うん、ぜひ食べたい!」
と言うと、瑛里も嬉しそうに笑った。
「調味料はだいたい揃ってたから、あれ使ってもいいよね?」
「うん。大丈夫、どんどん使ってほしい」
じいちゃんの調味料たち。半年以上使っていなかったものもあるので、ダメになっているのもあるかもしれないが……。
二人での買い物は楽しかった。
いつもの一人でのティッシュと総菜、菓子パンだけの買い物じゃなくて……なんだか、あたたかかった。
じいちゃんとの買い物もこんなだったっけな。
家に帰って、料理が始まる。
「ゴメンね、古くて。フライパンとかも、じいちゃんが買い替えなかったから……」
鉄のフライパンに至っては、溶接して直した跡まである。じいちゃんの仕事だ。これは捨てられないよな……。
瑛里は、こんな道具を嫌がるだろうか。
「大丈夫。凄く使いやすいよ。瑛祐くんは座ってて。作業を続けててもいいし」
気にするどころか、大切に扱ってくれている。……惚れ直した。
一旦座って、料理をする彼女の後ろ姿を眺めていた。
……いい。
ひき肉をこねたり、玉ねぎを炒めたりして、ハンバーグのタネができたようだ。
パチン、パチン、とハンバーグを形作っている。それ、俺もやりたいな。
「俺も手伝うよ」
「あ、じゃあ、こうやってチーズを詰めて。最初は丸く作って……」
へぇ、こうやってチーズを詰めるのか。
プラモ作りも勉強も、俺が教えるばかりだったけれど、俺も瑛里に教えてもらいたいことがいっぱいあるよ。
キッチンで二人並んで、パンパンとリズミカルな音を響かせる。
……楽しい。瑛里もそう思ってくれていたら。と思って横を向くと、ちょうど瑛里もこっちを向いて、二人で笑ってしまった。
楽しいね。
「焼く前に、ちょっと冷蔵庫で寝かせようかな。まだ待てる?」
「うん。じゃあ、その間、作業を続けるよ」
「了解。もうちょっと待っててね」
『バーズアクス』の続きを作っていると、誰かが入ってきた。
「瑛祐! いる? あ、いた」
お母さんの楓さんだった。
「私、今日、午後から休みだから。お昼まだでしょ? ピザでもどう……って、瑛里ちゃん! 来てたんだ。いらっしゃい」
瑛里が奥からこっちを覗き込んでいた。
「はい、お邪魔しています」
邪魔なのは、瑛里じゃなくて、母さんだよ!
楓さん!そういう所だよ!
GQuuuuuuX作るのパーツが細かくて苦労しましたが、瑛祐にとっては、朝飯前と言ったところだろうなぁ⋯。




