20.さぁ、夏休み
テストが無事に終わり、夏本番である。
クラスメイトが薄着になり、開放的になる季節……。瑛里も俺に対してだけ開放的になればいいのに。
テストの点は良かったようで、俺も光栄に思う。
打ち上げのカラオケにも付いて行った。
流行りの歌は歌えないので、この前観た『バーズアクス』の主題歌を歌ってみると、意外と好評でホッとした。
瑛里は、やはりというかマニアックなアニソンを歌いまくっていて、周りは引き気味だったけれど、可愛いから許そう。
あとで調べたら40年くらい前の歌だった。本当に生粋のロボットアニメオタクなんだな。
もう一度言う。可愛いから許そう。
帰宅した後、重大なことに気づいてしまった。
明日から学校がない……。
あの笑顔に会えないし、瑛里のお弁当も食べられないじゃないか。
あまりのショックに涙が出てきそうになる。
テスト期間中もずっとお弁当を作ってくれて、終われば二人で食べて勉強して……。テスト期間がこんなに楽しいなんて、人生で初めてだった。
どうしようかと悩んでいると、メッセージが届いた。
『明日なんだけど、プラモ作りに行ってもいい?』
心が小躍りする。まだ開けていないプラモの箱が目に付く。
『おう。いいよ。グク開けよう』
『やった。楽しみ。何時くらいから行っていいかな?』
『明日は俺も作業してるから、朝からいるよ。9時くらいなら大丈夫!』
朝から……というか今すぐ会いたい気分だが、そこは抑えて。
『あ、邪魔だったら悪いし……』
瑛里が邪魔だったら、この世の全てのものが邪魔になってしまう。
『邪魔なんかじゃないよ。来てくれたら嬉しい』
明日が楽しみで仕方ない。
朝、朝食のパンを食べて時間を確認する。まだ8時か。
迎えに行きたいけれど、流石に早すぎるよな。
ホビーショップの店長から頼まれていた、展示用プラモの製作を進めることにした。
『バーズアクス』の箱を開ける。パーツが意外と細かくて作り応えがありそうだ。
説明書を読み、パーツを切り出す。やっぱり俺はプラモ作りが好きなんだな。
時間を忘れて没頭していると、いつの間にか瑛里が入ってきていた。
「ふふっ、きちゃった」
はにかむ笑顔。朝からなんて破壊力だ。俺、夜までもつのだろうか。
さっそく、店長からもらった限定HGグクの箱を渡す。
「お、お〜……!」
感動してくれている。こいつも大概好きだよな。
「まさに、青い巨星ですな?」
可愛い声でおっさん口調。……まあ、可愛いから許すが。
「なんだよ、その口調」
「ザフとは違うのだよ、ザフとは!」
誰か、このオタク女子を止めてくれ。
可愛いから許すしかないが⋯。
「……。こいつ……違うぞ。ザフとは。……だったっけ?」
俺だって最近は勉強しているのだよ、瑛里軍曹。合っているか自信はないが。
「そこは照れちゃダメだよ〜!」
二人で顔を見合わせて笑い合う。……楽しい。
「今回は時間がかかるかもだけど、切り出したらランナー跡も丁寧に消していこうか」
彼女はここにプラモ作りを習いに来ているんだ。教えないとだな。
「はい。師匠、よろしくお願いします」
今度は最初から時間をかけて作る。いつまでも、ここに来てほしいから。
「なんかパーツが細いけど……何を作ってるの?」
俺も『バーズアクス』の制作に戻る。
「テレビ放送が始まったから、ショップに展示用を依頼されたんだ」
「すごい。それって瑛祐くんの腕が認められたってことだよね」
尊敬の眼差しが心地よい。
「まあ、じいちゃんのコネだよ。それに俺を『A君』呼ばわりしてくる例の店長だしな……」
「あぁ、あの楽しげな店長さん。そうだ、君は『A君』だったね!」
「『A君』言うなし。……そうだ、これを一週間で仕上げる代わりに、チケットをもらうことになってるんだ」
期間限定の遊園地、ガムダンアトラクションの入手困難なペアチケット。
『彼女と行っといで』という殺し文句に釣られたわけだ。
広告を見せると、やはりと言うか、すごい食いつき。
「へぇ〜、面白そう。……楽しんでおいでよ!」
えっ? この流れで俺、一人で行くの?
「『楽しんでおいでよ』って……これ、ペアチケットなんだけど」
「えー、いいなぁ! 誰と行くの?」
まだ言っている。
「あのさ。この状況で、瑛里以外と行くなんてありえないだろ」
「えっ、私も行っていいの!?」
俺の手を取って、めちゃくちゃ嬉しそうにする瑛里。
「……うん。喜んでくれて、嬉しい」
とびっきりの笑顔で手を握られて、流石に照れる。
ハッと気づいたように彼女が手を離した。
「ご、ゴメン……! ちょっと嬉しすぎた」
「あ、いや、いいけど。……俺も嬉しいし」
少し気まずい、けれど甘い沈黙。
そして、お昼時であることに瑛里が気がついた。
「あ、お昼ご飯、どうするの?」
「なんか適当に買ってこようと思ってた」
「良かったら、私が作ろうか?」
「えっ、いいの? じゃあ……奥の部屋にキッチンがあるから」
瑛里のできたてアツアツの手料理が食べられる。
俺の心は、嬉しすぎて、はるか宇宙の彼方まで飛んでいったに違いない。




