22.絶品ハンバーグ
「あら、私がお邪魔だったかしら。ピザ、食べていく?」
だから、邪魔だって……。
「あ、いえ……」
瑛里が、答えた。
「あら? 何か作っているの?」
「はい。ちょっと作りすぎちゃったので、よかったらハンバーグ、食べていきませんか?」
うわ、誘っちゃった。
社交辞令通じないよ、楓さんは……。
「いいの? ホントにお邪魔しちゃうわよ……」
やっぱり、こうなったら仕方ない。
「お邪魔って、俺と瑛里は、まだそんなんじゃないからいいよ」
「ちょ、瑛祐くん……『まだ』って……」
あれ?まだって、おかしかった?
あ、まだって事は、これから先があるってことか……。
「あら、そうなの? でも、いつの間にか名前で呼び合えるようになったのね」
「「……」」
二人して沈黙……。瑛里もちょっと赤くなってて、カワイイ。
じゃなくて、満更でもないのか?
「瑛里ちゃん、ごめんなさいね。こんな鈍感男に育てた覚えはないんだけど」
……ん? なぜ謝る?
「いえ、謝るなんておかしいです…。それなら、ウチの母も『瑛祐くんに謝らなきゃ!』ってぼやいてましたし。なんだか、ちょっと意味わかんないんですよね……」
なんだよ、それ……。
でも、瑛里のお母さんには、このもどかしさみたいなの、わかってくれてるのか……。
ちょっと嬉しいな。
「そうだよ。俺は……」
何か言いかけたんだが、楓さんは全てを悟ったような顔で肩をトントンと叩いてきた。
「なかなか大変だねぇ、君も……」
うるせえ。って思ってたら、楓さんは瑛里に声かけた。
「彼は初心者だから、お手柔らかにね」
だから、うるせえって、余計な事言うんじゃねえ。
⋯。
瑛里がハンバーグを焼き、同時に卵を焼き、鮮やかなブロッコリーを添えて。
やっぱり、手際が良い。見ていて、気持ちが良い。
「できました!」
と瑛里が俺たちを呼ぶ。待ってましたよ。
「じゃあ、食べよう」
三人で食卓を囲む。……もし瑛里と結婚したら、これが日常になるのか……。
うん。…いい。
「うまっ、すげー美味いよ! アツアツだと全然違うな。ね、楓さん。美味しいでしょ」
た、確かに、チーズがとろっとして、肉汁と混ざって、あの時食べた弁当のハンバーグとは別物だよ。
あの時、俺は美味いと思ったけど、これが本物なら、瑛里が、出来が悪いと落ち込んだのもわかるよ。
楓さん。瑛里の料理どう? 嫁として合格でしょ?
「うん。凄く、美味しい……」
ハンバーグを絶賛したあと、横の卵焼きを食べると、楓さんの箸が止まってしまった。
……やっぱ、わかるよな。
「……ごめんなさい。何か、お口に合いませんでしたか?」
瑛里が心配そうな顔になる。
楓さん。瑛里にそんな顔にさせないでくれよ。
大人なら、笑顔で褒めてあげて欲しいんだけど。
「あ、違うの。美味しいのは、本当よ」
楓さんは、じいちゃんの事、大好きなくせに……。
認めたくないものだな。とか言っている場合ではない。
「この卵焼きなんだけど……。じいちゃんの味に似ててさ」
戸惑う瑛里に俺がそう言うと、楓さんが語りだした。
「まあ、偶然だとは思うんだけど。食べたらパパのこと、思い出して。……前、聞こえちゃってたと思うけど、私、パパに対しては少し複雑な感情があるから……」
楓さんは、涙を流しながら、話を続けた。
「色々あったけど、私がデザイナーをしているのもパパの影響だし、尊敬してたし、大好きだった。瑛祐を育てるの助けてくれたし……でも、やっぱり、許せなくて……。ごめんなさいね、変なこと言って」
それだけ言って、ハンバーグと卵焼き、ブロッコリーにパンを完食して。
「あ、でも、本当に美味しかった! また食べさせてね」
いつものシャキッとした楓さんに戻ると、「家で少し仕事をする」と言い残して去っていった。
「……俺は、良かったと思っているよ」
難しい顔をしている瑛里に声をかけた。
「ん?」
と言っての上目遣い。それ最強だからほかの人にしないでね。
「母さん、じいちゃんが死んでから、一度も泣かないようにしてたからさ」
「そうなんだ」
「じいちゃんの事。大好きなくせして……」
意地っ張りなんだよ。父娘して。
楓さんが家に帰った後、2人でプラモ作って、夕方になったら、瑛里は帰っていった。
駅まで送っていったけど、やっぱり自転車を出してしまった……。
アトリエのある平屋から、今俺と楓さんが住んでいるマンションは、歩いて1分もかからない。
マンションに戻ると、楓さんが部屋から出てきた。
「ただいま」
「おかえり、瑛祐」
「これ、瑛里が、食材余ったもので作ってくれた」
タッパー取り出す。楓さんの目が輝くのが分かる。
「私のもあるの?」
「うん。2人で食べてって。ひき肉で野菜炒め作ったらしい。温めるね」
「うわ~。楽しみ」
「本当に、美味しいわね。それに……」
「まぁ、偶然だとは思うけど、じいちゃんの味付けに似てて、めっちゃ美味いよな」
「美味しい味付けって、似るのかしらね」
「ヘヘ。毎日この料理食べれるの羨ましいだろ」
「お世話になってばかりじゃダメだからね」
「わかってるって。でも、俺が勉強教えたら、成績上がったって言ってたよ」
「あ、真理さんからもお礼あったわ……。それなら良かった」
「ぶっ。真理さんって誰だよ。瑛里のお母さん?」
「ふふっ。内緒よ」
ってかバレバレだよ。
でも、母さんとこんな話するの久しぶり過ぎる。
ありがとな、瑛里。
「瑛祐。本当にあんな良い子は、あんたの人生に現われないだろうから、絶対に離しちゃだめだからね」
「俺の人生って。まだ何十年もあるんだから……。でも、そうかもな」
「私も、瑛祐のお父さんと会ってから、もうそんな人に会えてないもの」
それから、楓さんは、俺のお父さんの話をしてくれた。
理系の研究者だったこと。今でも大学で研究続けているらしい。その世界では、第一人者だと、たまに雑誌や新聞で見かけるくらいに。
結婚の約束してたけど、デザイナーになりたい楓さんと家庭に入って欲しい婚約者との間で、溝が埋まらず別れたらしい。
「だから、瑛祐も。瑛里ちゃんの料理がいくら食べたいからって、瑛里ちゃんの夢を応援してあげないと駄目よ」
って、そんなの言われなくてもわかってるよ。
結局、結婚できなくて別れたけど、別れた後に俺がいることわかって、どうしようか凄く迷ったらしい。
「パパがね。俺が育てるって言ってくれたの」
……。じいちゃんがいなかったら、オレいなかったんだ……。
じいちゃん。ありがとう。
「瑛祐は、将来どうするつもり? パパみたいにモデラーになるの?」
……。最近と言うか。ずっと考えてたことがある。
「いや。模型作りは、やっぱり趣味だよ。俺は、ロボットそのものを作りたいんだ」
それを聞いて、楓さんはしばらく黙っていたけど……。
意を決したように部屋に行き、とある名刺を持ってきた。
「ずっと悩んでいたけど。今のあなたなら大丈夫。会ってきなさい」
「なにこれ?」
「会ったこともないくせに、やっぱり瑛祐はあの人の子どもなのね⋯」
『国立大学法人 科学技術大学 工学研究科 教授 工学博士 佐藤 真佑』
名刺には、そう書いてあった。




