第六十三話 暴かれた真実
それはそれは、美しく美しい、水晶の花だ。
なぜこの刑罰のことを水晶刑と呼ぶのか、ロバートにはよく理解ができた。
そして苦悶の声を上げながら、次から次へと浴びせられる質問に、正解し、時にはしくじって罪人たちは水晶の火花を浴びる。
時にはドレスの裾を切り裂いて太ももが露わになり、時にはレイナの胸元を深くえぐったそれが片方の乳房を見せはしたが、それすらも死を司る水晶の美しさには色あせて見えた。
「なぜ、どうして今になってこんなことが……誰にも知られないようにしたはずなのに……まさか!」
突然、女公爵はその理由に思い至ったかのように叫んだ。
「あの女、まさか、セナがまだ生きている? ちくしょう、あんなガキを学院になんてやったから――っ!」
その怨念はすさまじく、このままではエリンの持つ魔力が呪詛となって、セナを呪いそうだった。
「その女性の死が確認されたから、こうして捜査が始まったのだ。女公爵」
「なっ――……どういうこと……」
ロバートはその執念を無慈悲に打ち砕く。彼の言葉に憐れみはもう籠もっていなかった。
ディノッソはそれに応えるかのように、衛兵を見て肯いた。
衛兵は書類をいくつか隣のテーブルから取り上げると、苦しみにのたうち回る女公爵の背後にいる別の衛兵を見た。
彼はエリンの頭と喉をしっかりと締め付けると、うめき声を上げる野獣の様な彼女に一枚の写真を見せた。
「……誰よ?」
「セナ、だよ。おまえが殺したと思い込んでいた、その令嬢だ。王国に逃れ、しばらく生きていた」
「……っ。なんてこと」
そこに写っていたのは、王国のホテル・ギャザリックで客室係として働き始めた頃、ホテル内で保存する雇い入れ名簿に載せるために撮影した、十六歳のセナの写真だった。
銀色の髪は苦労の果てのせいかくすみ、灰色から黒ずんで見える。
瞳の色とその顔には見覚えがある。確かに、あの憎らしい娘だった。
公爵家の生き残り。
自分たちが財産と地位と権力を手にするためだけに、行方不明になって消えたはずの亡霊。
「彼女はたくましくも移民として、高等学院を追放されてから二年間、王国で生きた。昨日のことが偲ばれるというものだ。残念なことに、流行病にかかって死んでしまった」
ディノッソが解説するかのように語る。
二番目にエリンの前に掲げらえたのは、医師の死亡診断書だった。
病気にかかった時間は、ミアが病床に伏せていた時間と同じにしてある。
あの時ミアは折よく医者の定期的な往診を受けていた。
書類を偽造することは本来は犯罪だったが、より大きな犯罪を暴くためであれば、どこかに出さない限りそれはバレない。
犯罪というのは明らかになってこそ犯罪なのだ。
運転手とエリンの娘が恋仲だったという事実が、さっき発覚したように。
「死んだ……」と、それを見て女公爵は、これまで心の底にずっと支えていた何かがようやく溶けて消え去ったような、ほっとした安堵の顔を浮かべた。
「この世には恐ろしいほど偶然というものが存在する。六年前、そこにあるカーバンクル公爵家令嬢セナが死んだ夜、ほぼ同じ場所にいたのだからな。レイナ」
「同じ……どういうこと?」
「ここにいらっしゃるグリザイア王国皇太子ロバート殿は、あの夜、ワシの経営する王国のホテル・キャザリックで王太子妃候補を探すための、舞踏会を開かれていた」
その記憶を思い出したのだろう。レイナの顔が気色ばんだ。
あの夜は、社交界におけるニュースでも、トップに位置するような出来事が起きた夜だった。
今、レイナと婚約を破棄する流れになっているロバートが、見知らぬ美しい令嬢とダンスを踊っていた。
パーティが大好きで帝国や王国の社交界に出ては、ちょっとした顔として知られていたレイナはその令嬢にどことなく見覚えがあった。
しかし彼女は、ロバートと共に消えた。
翌日になってみれば、踊った当事者である王太子が捜していると、そんな噂すら聞こえて来た。
「まさか! あの夜のあの女……! 私の大事なものをこんな時になってまで、奪いに来るなんて! 許さない……」
「その女性は、君の従姉妹のミア・パルスティン公爵令嬢だ、レイナ」
「え……」
「招待状の名前も、入場する際にするサインも、彼女がにつけていた仮面も、ドレスや経歴、今何をしているかという話さえ、後から聞いて彼女だと判明した」
「それなら何故! どうしてあの子と結婚しなかったの!」
「恋人がいると断られた。だが、これは君には関係ない話だ。もはや婚約者ですらない俺と君には、何の関係もない話だ」
「ロバート!」
灼熱の痛みに耐えながら、レイナは懺悔するように叫んだ。




