95 手配
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マレガード王国の総務大臣は手を震えさせながら懸命に冊子をめくる。
「2月中旬に、外務大臣より嫁入りまたは婿入りする人選の打診がありまして、選考いたしました。そして、2月下旬、王城前にて出向式を行い、国王陛下が直々にお見送りになりました」
総務大臣は一旦話を切り上目遣いで相手の反応を見るが、ほとんどが腕を前で組み、目をつぶっている。レスター執務官だけがジッと見て視線を外そうともしない。左右の端に座る書記官と思われる男二人のペンが忙しく動いている音がする。
『これは、一言一句間違えるわけにはいかない……』
「こちらで選考いたしました人物はアノスジェン・セレアン伯爵令息です。セレアン伯爵家は神殿の司祭を輩出するほどの水魔法の大家であり、その血筋に間違いはございません」
総務大臣は『本来はルートン・セレアンに向けた縁談だったが、父親のクィント・セレアン伯爵が次男を押し付けた……なんて言えないぞ』と、ごくりと喉を鳴らし、背に冷や汗が流れるのを感じていた。
「それで、騎士団長殿はどのような要件でここに?」
レスター執務官が発すると騎士団長が目を細めて目力を強めたが、レスター執務官はじめ他の執務官も微動だにしない。キンガース公爵の乱入やゲイリック王太子の鋭さに耐性ができあがっている。
『うん! 俺の部下、できるねぇ』
ゲイリック王太子がピアソン外務大臣にわざとニヤケて見せた。ピアソン外務大臣はテーブルの下で拳を握る。
「わたくしは部下からの報告書を受け取り動向を上へ報告しておりました」
「部下の配置などの説明をお願いします」
「はい。馬車1台。騎士3名を用意し、護衛しフオジスト王国へ送り届ける任務にあたらせました」
「は? 隣国への婿入りだぞっ!」
ピアソン外務大臣が驚いて声をあげた。目を細めて怒りを表しているゲイリック王太子だが、心の中ではほくそ笑んでいる。
「はい。こちらが指示書であります」
ピアソン外務大臣が横からひったくって目を通す。そこには総務大臣だけでなく、国王の印もしっかりと押されていた。本物だと確信してしまったピアソン外務大臣の顔色が変わる。
『急な呼び出しにも関わらず書類まで用意するとは騎士団長はできる男だな。騎士団を守る長としての能力も胆力もある』
レスター執務官がピアソン外務大臣に向かってひらひらと手を動かす。震える手でその書類を渡した。レスター執務官はそれに目を通すとゲイリック王太子に手渡す。
「国王陛下の印もあるようですねぇ」
ゲイリック王太子の小馬鹿にした笑いが含まれた言い方にピアソン外務大臣の胃はキリキリとする。
「何度か総務大臣へ問い合わせをいたしましたが、間違いないとの返答でしたので、このように手配いたしました」
「申し訳ございませんが、もう一度事実確認をいたしますので、この会談は明日以降ということでよろしいでしょうか……」
ピアソン外務大臣が震える声で提案した。ゲイリック王太子が今度はせせら笑いを隠しもせずに低いトーンで凄む。
「無理に決まっているでしょう。ピアソン外務大臣殿。バカにしているのか……。
どうして我々がこの件について問い合わせをせず、わざわざ2週間もかけてこちらへ直接出向いたと思っているんだ? そちらに証拠改ざんや口裏合わせをさせないためだ。それなのにこれから裏でコソコソするのを許すと思うのか?」
敬語も使わない迫力にぐうの音も出ない。
『若造だと舐めていた。せめて陛下を同席させていればここまで強気ではなかったか……。だが、このような書類に国王の印がある以上、陛下が同席していたら、いらぬことまでしゃべって墓穴を掘るのは目に見えている。今は事実を聞いていくしかない』
ピアソン外務大臣は腹を決めた。
「話を進めてもよろしいですか」
無表情の……いや冷めた表情のレスター執務官が口を開くとピアソン外務大臣は「はい」とか細い声で答えた。
「馬車1台と騎士3名。こちらが把握している事実と合致しております。騎士団長殿はあと何を把握していらっしゃるのですか?」
「帯同している部下からは、国境隣接の街へ到着した旨と、フオジスト王国王城へ入城した旨の報告書を受け取っております。その報告書に合わせて金銭を部下に送金いたしました。こちらが予算です」
騎士団長はピアソン外務大臣も確認したいだろうと先に見せる。ゲイリック王太子も「お先にどうぞ」と手で勧めた。
「これは我が国で把握している金銭の流れです」
執務官がピアソン外務大臣へ手渡した書類と見比べるとほぼ一致していた。それは2ヶ月ほどの旅程を余裕でこなせるだけの費用だった。
……ただし、『屈強で野営も問わず馬車も質を問わない騎士たちが、五人移動するならば』である。
「こちらは財務大臣からいただいた予算です」
もう1枚の書類を渡す。
「なんなんだ! この金額はっ!」
「わたくしは上司としてこのような低予算で部下を隣国へ送ることはできませんでしたので、騎士団の予算より補填いたしました」
レスター執務官が立ち上がりピアソン外務大臣から書類を奪い、ゲイリック王太子とともに確認する。
「財務大臣を呼べっ!」
ピアソン外務大臣は後ろに控える事務官へ命令した。
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