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94 交渉

 9月も中頃になるが、マレガード王国の国王には危機感が皆無だ。今日もまた法務大臣がご機嫌を取りながらどうにか執務へ行かせようとしても、国王は頭をむしりながら癇癪を起こして拒否を貫く。

 ノックの音がして入室したのは侯爵であるピアソン外務大臣だ。


「陛下。もうすぐフオジスト王国の使者様との交渉のお時間となります」


 ピアソン外務大臣に呼ばれる仕事は抜けられないことを知っている国王は渋い顔をするが仕方なしと立ち上がり着替えをした。

 廊下を歩く間、ピアソン外務大臣は国王に呟く。


「陛下は我々の言葉に賛同してくだされば結構です。とにかく、あちらの物資を貰い受けるとう話を進めます」


「わかった、わかった。ピアソンの思うようにしてくれ」


 応接室に用意された長テーブルにはすでにフオジスト王国の使者たちは着席しており、真ん中に座る男は一人だけ笑みをたたえ、いかにも格式高い服にいくつもの勲章を付けている。ピアソン外務大臣は笑顔を見せた。


『なんだ。王太子……若造じゃないか。それに顔見知りのレスター執務官だ。これは引き出させるのは簡単そうだ』


「おまたせいたしました。国王陛下であらせられます」


 フオジスト王国の面々が立ち上がり胸に手を当て敬意をはらった。

 国王が反対側の真ん中に座る。


「フオジスト王国王太子ゲイリックです」


「王太子殿。遠くまでご苦労であった。座ってくだされ。みなも座りなさい」


 みなが着席すると国王とゲイリック王太子とで二、三雑談を交わした。そして本題へと移る。ここからはピアソン外務大臣とそのピアソン外務大臣とこの契約を結んだフオジスト王国のミラン・レスター執務官の出番である。レスター執務官はゲイリック王太子の隣の席である。


「今回はどのような視察をお考えですか?」


「視察ではないのです。率直に申し上げまして、損害賠償請求にまいりました」


 食料支援の話だとばかり考えていたピアソン外務大臣は固まった。レスター執務官は眉一つ動かさない。


「それはどういったことでしょうか?」


「我が国では、水魔法の大家の貴族の輿入れまたは婿入りを条件に、多額の結納金をマレガード王国王家にお支払いいたしました」


「ええ。わかっております」


「ですが、待てど暮らせど、一向にいらっしゃる気配がありません。約定からすでに半年以上。お守りいただけないようですので、こちらがお渡しした10倍の違約金の支払いを早急にお願いいたします」


「そんなはずはございません! ただちに調べてまいりますので、しばらくお待ちくださいませ」


 マレガード王国側が一斉に立ち上がり、国王も外務大臣に急かされて立ち上がり、部屋を後にした。ゲイリック王太子は王城メイドもお茶のワゴンを置き下がらせた。コンラッド執務次官がおかわりのお茶を淹れる。


「なんだか、ピアソン外務大臣はまともそうでしたね」


 コンラッド執務次官の言葉にレスター執務官がピクリとした。『そう……まともだと思ったんだ……』レスター執務官が目をぎゅっとつぶった。


「思考はまともでも、交渉だけして他に丸投げ確認無しでは仕事ができるとはいわない」


 ゲイリック王太子の言葉にレスター執務官の心がチクリと痛む。


 しばらく待っていると国王は同席せず二人の男が加わった。総務大臣と騎士団長だと名乗った。ピアソン外務大臣と総務大臣は肩で息をしている。


『走ってくるくらいの誠意はあるのか……。たが、ここで王家を外すって無能って言っているようなものだ。この国……終わってるな』


 ゲイリック王太子は全力な強気でいくことにした。レスター執務官に視線を投げて促す。


「それで、この件とお二人はどのような関係がおありなのですか? 私が交渉したのはピアソン外務大臣、貴方だったはずですが?」


「経緯の説明を彼らに……」


「交渉をした貴方が経緯を知らないのですか? 私はこの件について交渉した責任者としてここにおります。もちろん、我が国での経緯について、全て話すことができます」


「も……申し訳ありません……」


「わかりました。そのあたりの責任については後ほどお話いただくとして。まずは経緯の説明をお願いします」


「では、総務大臣。お願いします」


「そ、その我々はですね……」


 気圧された総務大臣がでっぷりとした顎の汗をハンカチで拭いながらおずおずとしゃべる。そもそも王城内の動きを円滑にするために、威張りちらして上から言うことが常日頃の仕事である。オープニングから相手にカツを入れられればしどろもどろになってしまう。


『これで総務大臣か? 反面教師を絵に描いたようなクソ上司なことが見え見えだ。この件、こいつは1枚噛んでるな……。

 こっちは……さすがに武人か。肝は据わっている。どこに関わっているのか楽しみだ』


 交渉を執務官に任せたゲイリック王太子は人物観察を楽しんでいた。

お付き合いいただきありがとうございます。

毎日夜6:40更新


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