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91 領地

 3日後、王城騎士団の剣術指導をしているところにコンラッド執務次官が呼びにきた。頃合いを見て国王陛下の執務室を訪れた。しっかりとノックをして入室許可の言葉を待ってから入った。

 国王が中央の椅子に座り、左右に王妃とゲイリック王太子が立っている。


「スペンディーノ・キンガースが国王陛下ならびに王妃殿下ならびにゲイリック王太子殿下にご挨拶申し上げます」


「うむ。剣術指南ご苦労様。みなの力はどうだったかな?」


「はい。十分に鍛錬をしているように見受けられました。素晴らしいと思います」


「指導係がキンガース公爵の一番弟子だからな。彼は君の顔を潰さぬよう日々目を光らせているようだ」


「指導力はすでに私を越えておりますので、彼に預ければ安心です」


「そうか。本題に入ろう。こたび、隣国から婿入りしたアノスジェンの労を労い爵位を授けることとした。アノスジェンはキンガース公爵家次女ディジリーナとすでに婚約関係であるゆえ、授与は義父となるスペンディーノ・キンガースに代理を許可する」


「ご配慮いただき誠にありがとうございます」


「では、アノスジェンにアーチプ伯爵位を授け、またアーチプ伯爵領を授ける」


 驚いたキンガース公爵は『あとで説明しろよなっ!』とゲイリック王太子を睨んだ。ゲイリック王太子は素知らぬ顔で作り微笑を崩さない。


「ありがたくいただきます。爵位に恥じぬよう、フオジスト王国、ならびに王家にこれからも忠誠を誓う所存です」


「うむ。頼んだぞ」


 キンガース公爵は最礼をして退室した。まっすぐにゲイリック王太子の執務室へ向かい、部屋の主がいないことはわかっているので、ノックもせずに入室してソファにドカリと腰を落とした。部屋に残っていた執務官は一瞬は驚いたものの『キンガース公爵だ』と確認すると目もくれずに仕事の続きを始めた。

 しばらくしてゲイリック王太子が戻ってきた。


「キンガース公爵。義息殿の爵位授与、おめでとう」


「うるせぇ。領地まで寄越すとはどういうことだ。うちに婿入りだから何もいらんと言っただろう」


 他貴族とのバランスもあり、キンガース公爵家があまりに力をつけることはキンガース公爵自身が警戒している。ゲイリック王太子は中央の指定席ソファに優雅に座る。


「こちらにも都合があるんだ。少しは譲歩してくださいよ。スペンディーノおじさん。

 アノスジェンに渡した領地はガドリグ元伯爵の領地だよ。あそこはキンガース公爵家のおかげで膿を出せたからキンガース公爵家に渡したいと考えていたんだけど、キンガース公爵家の活躍を表沙汰にしていないから思案していたところだったんだ。ちょうどいいからアノスジェンのものにしたってこと」


 膿とはガドリグ元伯爵だけではない。それを機にその場にいた貴族たちへ難癖をつけて別件まで捜索の手を伸ばし、ゲイリック王太子が目をつけていたいくつかの家が縮小の目にあい、そちらも王家領となっていた。


「エイブリックに任せればいいじゃないか。ゲイリックに子供ができれば、いつまでも役職が第二王子では体裁も悪いだろう。爵位を与えて家臣にするのが妥当だ」


「俺も進言したんだけど、本人が望まなかった。このまま王弟になるんだとさ。結婚も興味がないらしい」


 エイブリック第二王子は執務室にこもる仕事を嫌い、兄ゲイリック第一王子の目となり手となり足となり、国中をまわっているのだ。


「俺としても、信頼できるエイブリックに政務の外部仕事を任せられるのは助かるしね。政務も正確、情報も正確。本当に頼りになる。かといって、あそこを王家領にしておくには人員も予算も必要だから、手がまわらない。スペンディーノおじさん、助けてくださいよ」


 おどけた姿にいらだちが募るが、それこそ相手の作戦なので乗らない。


「国王陛下を通してしまってから、今更『助けてくださいよ』とは笑わせる。それで、俺にしてほしいことはなんだ……」


 厄介物を預けられたような口ぶりではあるが、元ガドリグ伯爵領はキンガース公爵領とは男爵領2つ挟んだところに位置し、ダゾル湖にもかかっている。なかなかに肥沃な領地であり、キンガース公爵領より西側な分、王都に近い。つまりは優良な領地を授けられたのだ。


「明日からマレガード王国へ視察外交へ行く。キンガース公爵家の手の者を数名借りたい。おじさんへの報告にも手間取らないし、万が一があればおじさんに相談しやすくなるからね」

 

「そんなんでいいのか?」


「『そんなんで』と言わせないくらいの結果を持ってくるさ。あとはあの絶縁書のお礼も兼ねて、ね」


「確かにあれは『紫玉の宝』だ」


「そういうことです」

 

「なら、ありがたく受け取っておこう。できるやつらを連れてきている。四人ほど連れていけ」


「ありがとうございます」


 キンガース公爵は立ち上がり、見下ろし気味にゲイリック王太子を見る。


「お前は踏まれても損は被らないタイプだな」


「そこまで褒められると照れますよ」


 キンガース公爵は、半目で見据えてから出ていった。

お付き合いいただきありがとうございます。

毎日夜6:40更新


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