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82 復縁

 ディジリーナが化粧室から出ると視界から外れる柱の影に連れ込まれた。ディジリーナはすぐに反応してバッグを捨て、相手の腕をとり、後ろ手をひねりあげると「痛い痛い!」と相手が悲痛な声をあげた。その相手を見て驚きの声をあげる。


「グレバンス・リドル! 貴方、何をしているの?」


「俺の腕を折って大事にするつもりか……」


 あまりの痛さに消え入りそうな声で、それでも反論する。


「自分から襲いに来ておいて何を言っているの。私のは正当防衛よ」


「過剰防衛だ……」


「そうね。貴方みたいなひ弱さではそうなってしまうかも」


 ディジリーナは床にグレバンスを投げつけた。グレバンスは2年くらい前に半年ほど婚約関係にいた侯爵家の次男だ。グレバンスが平民女と駆け落ちしてから会っていない。グレバンスは3か月で舞い戻り何度も何度も頭を下げにキンガース公爵家へ足を運んだが、門前払いでディジリーナに会うことができなかった。侯爵家へキンガース公爵から苦情が入り、侯爵家は自らグレバンスを謹慎させ、謹慎を解いた後もディジリーナが行きそうな集まりには行かせていなかった。

 だが、侯爵夫妻は、ディジリーナの婚約のニュースを知り、グレバンスも21歳になっていて将来が何も決まっていなかったので縁を求めてこのパーティに参加させたのだった。

 立ち上がりながらディジリーナを睨みつける。


「相変わらず乱暴な女だ。だから、あんなちんちくりんを婿にすることになるんだ。俺みたいな美しい男はお前に近寄らない」


 パンッと音が響いて、片頬を押さえたグレバンスがまたしても倒れていた。


「相変わらず、頭を使っていないのね。侯爵ご夫妻は立派な方たちだから、私の情報を正確に掴んでアンタに伝えているでしょうに」


「う、うるさいっ! とにかく、モテないお前と寄りを戻しに来てやったんだ! あんなちんちくりんよりマシだろう」


 先ほど、何に対して殴られたのか理解していないグレバンスはもう一度平手を食らった。ディジリーナが身を縮めてグレバンスのネクタイをグッと絞った。


「馬鹿は死んでも直らないのかどうか、試してみるのも悪くないわね」


「ヒッ! やめてくれ! 俺、俺は地方の未亡人に売られてしまうんだ……。助けてくれ。お前との結婚しか生き残れない」


「手段がそれしかないなら、是非、その未亡人さんに買ってもらいなさいよ。衣食住が保障されるなんてステキじゃない。これまで、勉強するチャンスも、努力するチャンスもたくさんあったでしょう。それを拒んできたのは誰? 勉強も努力もしたくないなら、未亡人さんの愛人は理にかなった仕事だわ」


「やるっ! なんでもやるから、だから俺を……」


「私の好みはモッサかプリティなの。貴方みたいな高慢ちきのキツネじゃないわ」


 いつの間にやらディジリーナによって手すりの鉄格子に両手首をネクタイで固定されていた。グレバンスのベルトを外し、手首をさらに固定して、ズボンを足首まで下ろした。プライドの高いグレバンスは助けを呼べない状態にされた。色恋に初心なディジリーナであるが、このような状況の時に男のベルトを外してズボンを下ろすことは、悪人捕縛の技術なので何も感じずに行動にできる。悪人捕縛の際はズボンを縛って走れなくするのだが、わざとだらしなく見えるようにしてある。


「貴方の決意、ご両親に報告してあげるわ。誰もここを通らないことを祈るのね。誰かに見られたら、地方の未亡人どころか、貴族でいられなくなるわよ」


 ディジリーナは颯爽と去っていく。誰にも見られたくないグレバンスは呼びとめることもできなかった。ディジリーナが、階段まで来るとノアニク騎士隊長が上がって来たところだった。


「あまりにも遅いのでお迎えにあがりました。アース様は公爵閣下とご一緒です」


 ディジリーナが簡単に説明するとノアニク騎士隊長は2階の踊り場へ向かい1階の来場者を見回した。目的の人物をみつけると素早く動いた。


「リドル侯爵がグレバンスをどうするのか、見ものね」


 ディジリーナは優雅に階段を降りていった。キンガース公爵の近くでアノスジェンは、エルマビン小公爵夫妻と話をしていたので、キンガース公爵に今の話をしてからディジリーナもアノスジェンたちに加わった。

 しばらくするとリドル侯爵が一人で足早にやってきたが、キンガース公爵はすでに怒りの形相をしている。キンガース公爵はリドル侯爵への情で婚約を決め、結婚後にグレバンスを叩き直すつもりだった。まさか結婚前にやらかすとまでは予測していなかったので、グレバンスとの婚約を受けたことをとても後悔していた。

 ディジリーナは三人を誘って場所を移した。アノスジェンに前婚約者の話はしてあるが、グレバンスのこれからのことを気にしてほしくなかったのだ。

 キンガース公爵の隣ではリドル侯爵がペコペコと何度も頭を下げている。階段の方を見るとリドル侯爵夫人がノアニク騎士隊長に案内されて上っていた。『あらあら、夫人が行くの? グレバンスを見て気絶しないといいけど』とディジリーナはあきれ半分の心配をした。

お付き合いいただきありがとうございます。

毎日夜6:40更新


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