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81 入場

 入場が始まったと連絡が入り、それぞれの待機場所へと移動した。騎士爵を持つノアニク・リガード騎士隊長も合流した。


「アース。あまり一人になるな。ノアニクを側におくのだぞ」


「はい、お義父さん(おとうさん)」


「いい子だ」


 キンガース公爵は『愛おしいな。守ってやりたい』と頭を撫でた。


「スペンディーノ・キンガース様、ディジリーナ・キンガース様、アノスジェン・セレアン様、ノアニク・リガード様、ご入場でございます」

 

 すでにほとんどの貴族たちが入場済みの中、名前をコールされると大注目され、開け放たれている大扉から先頭にキンガース公爵、続いてアノスジェンとディジリーナが腕を組み、最後尾にノアニク騎士隊長が続いた。モッサなイケオジに挟まれ二人は可憐さを増している。

 今日の二人の衣装はアノスジェンたっての希望で婚約式の服を着ている。余談であるが、アノスジェンの倹約家ぶりにディジリーナはヤキモキしているが、アノスジェンの新しい洋服を作る枚数などで自分を納得させていた。


 アノスジェンたちが2歩3歩入場すると会場のあちこちからどよめきが起こった。婚約式に招待されずアノスジェンの姿を初めて見た者たちからの反応だった。

 キンガース公爵はそのまま歩を進めたが、二人は立ち止まった。前が広がり二人の姿がよく見えるようになる。

 ディジリーナが何かに気がついたフリでアノスジェンの前にまわり、屈み込んでアノスジェンの首元のラバリエールの形を整えた。その手首にはラバリエールと同じ素材で作られたリボンがブレスレットに装飾されていた。「きゃあ」と羨望の黄色い声が響く。

「さあ、できたわ」とディジリーナが上を向き目があった二人の笑顔は眩しいほどで、仲良しを見せつけた。さらにアノスジェンがディジリーナのブレスレットのリボンをチョイチョイと直す仕草をする。これまた嬉しそうにディジリーナが笑うと、さらに黄色い声が沸き起こる。 

 腕を組む二人の仲睦まじい姿に歓喜と羨望のまなざしがそそがれ、その中を時々目を合わせて笑顔を見せながら進んでいった。

 後日、カップルが男性の首元の装飾と女性のブレスレットのリボン飾りを同素材同色または互いの色にして仲の良さをアピールすることが、流行するのだが、そんな影響力は本人たちは気がついていない。


 ところで、この立ち止まりは作戦である。アノスジェンを知らない者からの批判と軽侮と疑念を込めた視線があることはわかっていた。それを払拭させるほどの仲の良さを見せつけることにしたのだ。


『どうせ策を練らずとも、自然に見せつけることにはなるだろうがな……我が家では通常運転だ』


 キンガース公爵にとっては当たり前の姿すぎて気にする様子もなく、普通の歩みで友人たちの輪に入っていった。まさか、それらを見た友人たちに自分がからかわれたのは誤算だった。


 王家の入場までしばらくは歓談の時間である。婚約式で個々と交流ができなかったので、改めて二人で挨拶に回っている。立ち止まるとそれ以外の者たちに囲まれ動けなくなってしまうので、とにかくゆっくりでも歩いていく。

 一段落したのでキンガース公爵と合流した。キンガース公爵は領地の離れている別の公爵、ラドルフ・オルストン公爵、オリバー・スイプ公爵たちと一緒にいるので、恐れ多くて誰も近寄ってこない。『擦り寄られるのは面倒くさい』と思っている三人はこうして互いに防衛壁にしているのだ。


 「今のうちに化粧直ししてくるわ」


 ディジリーナが場を離れるのを手を振って見送った。アノスジェンはキンガース公爵たちの近くで軽食をつまんでいて、ノアニクが睨みを効かせて護衛している。

 公爵家の息子夫婦が親しみやすさと好感の持てる笑顔でアノスジェンに声をかけてきた。


「僕はエルマビン・オルストン。オルストン公爵家の長男だ。彼女は妻のブリジット。いやあ、君、すごいね。あのじゃじゃ馬をすっかり乗りこなして」


 からかっているわけでも、馬鹿にするわけでもなく真剣な表情で言っている。


「アノスジェン・セレアンです。ジェナは大人しい馬ですよ」


 アノスジェンも真面目な顔で返した。ノアニクが「ジェナはアノスジェン様の愛馬です」とすかさずエルマビンに耳打ちする。


「はっはっは! そうか、君にとってじゃじゃ馬ではないのか。まあ、あの姿を見たら納得だ。君たちの仲睦まじさに当てられて、妻にすねられてしまいそうだ。これまではうちが一番仲睦まじいと言われていたからね」


 オルストン小公爵夫妻が目を合わせた姿はそれを物語っている。


「父世代は大変に友好な関係だ。我々世代も是非そうさせてもらいたい」


 アノスジェンがノアニクに視線を向けると頷いたので「ありがとうございます。よろしくお願いします」と笑顔で答えて握手した。


 アノスジェンへの悪意に対応することにみんなが集中しており、ディジリーナを追うねっとりとした視線に気が付かなかった。

お付き合いいただきありがとうございます。

毎日夜6:40更新


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