80 恩恵
背もたれに触れる音がして「頭をあげてすわってくれ」と声がかけられた。ゲイリック第一王子が先ほどよりラフな雰囲気でこちらを見ていた。アノスジェンとディジリーナはキンガース公爵の様子を見ながらそれにならって腰を下ろした。ゲイリック第一王子はコンラッド執務次官をはじめとした側近を残して下がらせる。コンラッド執務次官の他に二人の執務官がいる。コンラッド執務次官がお茶を淹れ直していた。
「まだ、国の顔であることは間違いないからね、挨拶くらい受けてやってくれ」
ニヤつくゲイリック第一王子にアノスジェンとディジリーナはギョッとするが、キンガース公爵は眉間に皺を寄せた。
「え? 二人にもまだ話してなかったのか?」
「当然でしょう。私からしたら、確定ではない殿下の戯言ですよ」
「やだなぁ、スペンディーノおじさん。俺の本気を感じてよ」
「本気なら爵位か、名を呼んでいただきたい」
まだ「スペンディーノ」と呼び捨てすることはさすがに礼を欠くと感じ「わかったよ、キンガース公爵」と素直に訂正した。
「改めて言おう。俺はなるべく早く王位を継承したいと考えている。これは国王陛下にも王妃殿下にもご納得いただいている。それを踏まえて、君たちキンガース公爵家には今後も協力してほしい」
「かしこまりました」「「かしこまりました」」
二人はキンガース公爵の言葉に続けた。
「では、本題だが、今日のパーティでアノスジェン殿を大々的に紹介する」
「まだ婚姻もしておりません。何のためにでございましょうか?」
キンガース公爵家としてはガドリグ伯爵のような者が増えることは望んでいない。ゲイリック第一王子が視線を飛ばして側近に説明させる。
最近、雨量が増えたと報告が各地から上がっている。作物農家の作業効率が格段にあがり、楽になりながらも生産がふえている。酪農農家は適度な雨が降るため牧草の生育がよく、家畜が健康だ。その他、河川の透明度が増したとか、そのおかげか魚が増えたとか。
アノスジェンはダゾル湖の様子を思い出し、ドキドキしてきた。
『もしかして、アズリューに関係あるのかな? でもまだキンガース公爵家のみんなに相談していないんだ。絶対にアズリューのことは言えない』
不思議なことに個々の水魔法の威力が上がっているとの報告も1つや2つではないという。
「王城騎士団でも検証したのですが、ほとんどの者がその傾向にありました」
コンラッド執務次官が資料をキンガース公爵の前に置き、キンガース公爵がそれを確かめた。
「なるほど、これは喜ばしい」
それからも側近の報告は数値化されているものもいないものも多方面に渡り何かしらの恩恵があったという喜ぶべき内容ばかりだった。
「我が国が好転しているのは間違いないようですね。これらの報告につきましては、我が領地でも似たような事例を確認しております。
ですが、それがなぜアノスジェンの紹介につながるのですか?」
「時期が重なるからだよ。報告をまとめてみると早ければ2ヶ月ほど前から変化があったようなんだ。ちょうど、アノスジェン殿がキンガース公爵家へ入った頃だ」
『やっぱりアズリューかも……』
アノスジェンはギュッと握り拳を強めたのだが、キンガース公爵はそれを『あまり目立ちたくはないのだろう』と判断した。
「先日の婚約式でもご覧いただいたように、確かにアノスジェンには水魔法の才能があります。あの魔法を見て、魔法発動1ヶ月とは驚きにたえません。だからといって、国全体の好転を1人の肩に負わせるのは問題だと思います」
良くなっている時にもてはやされた者は悪くなった時には標的にされやすいのだ。
「もちろんだ。だからこそ、これは国が認めた婚姻なのだと発表する」
「なるほど、アノスジェンへの偏る見解を制御しつつ、王家の手柄としますか」
「そうだ。彼を守ることもでき、王家も求心力を増せる」
「わかりました。ですが、それだけでなく、うちの娘との婚姻についてもしっかりと発表していただきたい。王家のお墨付きだからと手を出してくるヤカラは遠慮したいのでね」
「わかった。では、小女公爵にも壇上に上がってもらおう。二人が並ぶ姿を見たら、普通は手を出そうとは思わないだろう。あの婚約式の時のように……」
ゲイリック第一王子のからかうような笑顔にアノスジェンとディジリーナが顔を赤くした。
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