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78 顛末

 アノスジェンは翌日からお祈りの後に温室へ通うことにした。水魔法で張り切って散水する。それから1階に設えられたアノスジェン用の執務室へ行くことが日課になっている。

 勉強時間だったり執務の手伝いだったりという時間を過ごしていると、あっという間に1ヶ月が過ぎた。

 執務室でヘリンと二人になり、アノスジェンは勉強の手を止めずに内緒話の声量で話し始めた。


「僕の不思議な力についての検証っていつやるのかな? 僕も僕のことが気になるんだよね」


「それは、もうそろそろだと思いますよ。慌てずとも公爵閣下もディナお嬢様もアース様のことを優先的に考えてくれておりますよ」


 ヘリンの顔を盗み見ると、以前キンガース公爵に婚約の話を後回しにされていた時とはまったく違う穏やかな顔をしていた。


「うん、わかった」とアノスジェンも笑顔がこぼれた。


「1週間後に王城のパーティですね。それが終われば時間もとれるのではないかと思います。そろそろダンスレッスンの時間です」


「行ってくるね。パーティでペギーに恥をかかせないようにしなくちゃ」


 その日の夜、食堂での給仕にワディンが1ヶ月ぶりに入っていた。


「ワディン! 本邸の担当になったの?」


「はい。まだ研修は続きますが、アース様の専属としてショーン執事長に認めてもらえるよう頑張ります」


「待ってるよ」


 アノスジェンはワディンの手をしっかりと握った。


 夕食後、キンガース公爵の執務室に集まったのは、キンガース公爵、ディジリーナ、ニール、ヘリン、トビー、ノアニク・リガード騎士隊長、外部調査部員である。


「今日は、ワディンの事件が本意でない形ではあるが、決着がついたから|ニール、ヘリン、トビー《お前たち》に報告だ」


 ノアニク騎士隊長と外部調査部員から1か月前までの説明がされた。


 ガドリグ伯爵領で死体が流れ着いたというのも埋葬したというも偽情報で流したのはキンガース公爵騎士団の外部調査部だ。それはワディンにガドリグ伯爵の狙いが向かぬようにするための作戦だ。ワディンが騎士舎勤務になったのも、表に出して、万が一でもガドリグ伯爵の関係者に見られることがないようにするために最奥での仕事を与えたからだ。


「だが、この国での爵位がないワディンの誘拐を企てたとしても、ガドリグ伯爵には罰は与えられない。せいぜい我が家への損害賠償程度だ。我々はそれでは赦すことはない」


 そこで、キンガース公爵の権力を最大限に使って、ゲイリック第一王子から、ガドリグ伯爵家の納税情報を聞き出した。そして、運ばれてきた奴隷の管理をさせられていたローランドがいつかの保身のために残しておいた拉致名簿と照らし合わせて、巨額の脱税が発覚したのだった。

 そもそも、この国では奴隷制度が認められているが、奴隷の権利もある程度認められている。いくら奴隷でも理不尽なことはできず、衣食住は保証されていて格安な使用人ぐらいの扱いである。性奴隷や嗜虐趣味用の奴隷は法律違反だ。

 情報をまとめたディジリーナはキンガース公爵を通じてゲイリック第一王子に渡した。奴隷制度の闇を嫌うゲイリック王子は奴隷売買の当日に踏み込み、裏帳簿と特別室名簿を手に入れ、その日特別室を利用していた者たちも含めて捕縛した。


「ゲイリック王子(あいつ)は俺に貸しだと言ったが、追徴税と罰金刑で儲けたはずだ」


 ガドリグ伯爵は多額の追徴税と違反奴隷の罰金刑で伯爵位を返上し、まだまだ足りないので加担していた長男とともに借金奴隷の炭鉱へと送られた。出られる見込みはない。違反奴隷を購入していた貴族たちもそれぞれ罰を受けた。


「我々から直接手出しができなかったことは残念だが、理解してほしい。ワディンの誘拐に加担した者たちは片足を切り走れない身体にした上で、領地内最北の農村に奴隷として送った」


「わかりました。丁寧なご説明ありがとうございます」


「いや、お前たちの真摯な警備のおかげでアースがここまでたどり着けたのだ。ガドリグ伯爵の本性も見抜いてくれて助かったよ。我々も感謝している。これからもアースの目となり耳となり味方でいてやってくれ」

 

「「「かしこまりました」」」


 三人が退室すると、ディジリーナが外部調査員に目を向けた。


「彼女はどうなったの?」


「息子の行いにとても心を痛めて、息子とは離れた場所でシスターになることを希望しておりましたので、そのようにいたしました。日々祈りを捧げ、子供たちの世話をして過ごしています」


 あの日、火事を起こしたのも川に石を投げ入れ偽装したのも外部調査部だ。ディジリーナは火事から助け出されてディジリーナの前に連れてこられ、ローランドの行いを聞かされると泣き崩れた女性を思い出していた。しばらくは領都の教会で生活させていたが、本人の希望でキンガース公爵領で一番貧しい街の教会へと移った。

 ローランドは母親が生きていることは知らず、母親への懺悔も背負って片足で生きている。

お付き合いいただきありがとうございます。

毎日夜6:40更新


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