77 部屋
ヘリンがすぐ右側にあるドアを手で指し示す。キンガース公爵の部屋から5つ目の部屋だ。
「本日より、アノスジェン様のお部屋はこちらでございます」
これまでの2階の客室より大きなドアがそこにそびえている。ヘリンは言葉を続けながら、ノックをしてドアを開けた。
「私とワディンは使用人寮へ、ニールとトビーは騎士宿舎へ移動いたしました。そして、アース様の自室はこちらになります」
アノスジェンはよくわらないままにヘリンの後ろをついていく。すでにミックが部屋を整えていた。ヘリンが頭を下げてから退室していく。
「アース様。おかえりなさいませ」
これまでよりもずっと広い部屋で、ベッドは天蓋付き、ソファも豪華な上に大きくなり、重厚な机セットに少し小さめの机セット、装飾の凝ったドレッサー、その他にも本棚やサイドテーブルやカウンターテーブルなど豪華な家具がならび、さらには部屋の中にドアが3つもあった。
「ご案内いたします。ドレッサー脇のドアは衣装室です」
恐る恐る入ってみたが、衣装が増えていないことにホッと息をつく。しかし、ミックの次の言葉に倒れそうになる。
「お約束通り、近々お衣装を作られるそうです」
ふらりとしながら「なんで?」と紡いだ
「アース様はまた大きくなられましたので」
ミックがチョイチョイと自分自身の袖口を指さしたので、アノスジェンは自分の袖口を見てみたが、何の問題もなく感じた。だが、この手のことについてはある程度の諦めを覚えていて、『当日に枚数を減らす提案を頑張ろう』と決意する。
「仕立て屋を直接呼ばれると聞いておりますので、ディナお嬢様のお気のすむようになさると思います」
にっこりとしたミックにアノスジェンは思わず1歩さがって片手を額においた。
「さっさっさ、こちらもご覧ください」
さらに隣のドアへ行くと眩しいほど真っ白な浴槽室だ。アノスジェンが四人も入れそうな大きなバスタブ、大きな鏡の前に何種類もの瓶が並んでいる。
倒れそうになるアノスジェンの後ろを支えて浴室を出る。
「では、一番メインのお部屋へご案内します!」
張り切るミックはもちろんアノスジェンの許容量がマックスに近いことはわかっているので、後ろから支えたまま、ベッドを挟んだ壁の方にあるドアへと押していく。ドアの前へ行くと停止し、アノスジェンの前へと回った。そして「お入りくださーい」という掛け声とともにドアを開けた。目の前に広がる部屋のすごさにアノスジェンは立ちすくんだ。ミックは「よいこら」と背を押していく。
アノスジェンの自室と言われた部屋よりさらに広い部屋だが、思いのほか殺風景な部屋だった。
「す……ごい広い……部屋……だねぇ?」
アノスジェンにとっては、部屋を出たのに目的のわからない殺風景なだだっ広い部屋へと続くなんて意味が理解できない。
「こちらは近い将来、アース様とディナお嬢様の共同のお部屋となります。
あちらのドアはディナお嬢様の自室とつながっておりまして、現在のアース様の自室と同じような配置になっております。
結婚式が終わりましたら、こちらへスーパーキングサイズのベッドが運ばれる手筈になっております」
ミックの言葉を理解しようと、一つ一つ頭の中で反芻していく。そうしていくと、ショーン執事長の教育の成果となんとなく一致してきた。
アノスジェンはくるりと向き直って自室へと逃げ帰った。後ろでミックが呼んでいるのが聞こえるが、自室の壁の反対側にある浴室のドアに飛び込んで扉を閉めた。
後ほどミックはショーン執事長に「急ぎすぎです!」怒られるのだが、ショーン執事長は怒りながらもアノスジェンの精神的成長を心から喜んでいた。
ライラはディジリーナの部屋を整えていた。ディジリーナも『お嬢様用の部屋』から『将来の夫婦の部屋』へとお引越しをしている。
ミックのはしゃぐ声が聞こえ、はしたないとわかってはいるが、そっとドアを開けてみた。すると真っ赤な顔をして逃げていくアノスジェンが見える。
『ディナお嬢様に追いつくのはすぐな気がするわ』とほくそ笑み、どうやってディジリーナを煽ろうかと画策するのだった。
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