73 祈祷台
朝食を済ませるといつもの朝のお祈りへ出かけることにした。当然、ディジリーナもショーン執事長も反対したが、珍しいほどのアノスジェンの強い希望に折れるしかなかった。
ただし、怪我をしていることになっているので、ニールによる縦抱き移動付きの馬車移動である。
湖畔に続く森の入口で馬車を降り、歩いていく。
「アース様はずいぶんと体重もお増えになりましたね。とても、素晴らしいです」
「そ、そうかな。僕、重いよね」
「いえいえ、まだまだ軽いです。もっと重くなっていただかなくてはなりません。マレガード王国の川辺で抱き上げた時にはあまりの軽さに不安になったほどです」
「あの時もニールさんが運んでくれたんだね」
ニールには「さん」付けが直らないが、敬語は使わなくなっていたので、もう指摘することはなくなった。
「そうですね。あの頃はここまでご一緒できるとは想像しておりませんでした」
「本当にありがとう。騎士団のお仕事はどう?」
「基本的にはマレガード王国騎士団の時と変わりません。鍛錬と街の警備、屋敷の警備が主な仕事です。遠征警備に行っている隊もあるようですが、我々はまだ鍛錬が必要なので、そちらに参加することはしばらくなさそうです」
「新たな鍛錬なの?」
「はい。俺もフオジスト王国王城でキンガース公爵閣下に教えていただいたのですが、剣術に違いがありまして、今はこちらに合った剣術を習っています。それを体得したら、魔獣討伐にも参加できることになっているのですよ」
「魔獣討伐! それはすごいね。いつか、ニールさんが獲った魔獣のステーキを食べれるのかな」
「はい。初魔獣はアース様に献上いたしますから、楽しみになさってくださいね」
久々のニールとの時間に笑い合いながら川のほとりに到着しゆっくりと降ろされた。先に来た騎士が敷いたシートでいつものように祈りを始めた。
『アズリュー。いつも守ってくれてありがとう』
アズリューの夢やみんなとの話で、アノスジェンはこれまでのことはアズリューの力だと確信した。これまでのお礼を記憶をたどりながらしていった。
アノスジェンは立ち上がり振り向くと木々の近くにたくさんの石が積み上げられていることに気がついて、そちらを指さす。
「ヘリン、あそこにあんなのあったかな?」
「あれは、これから設置しますアース様のご祈祷台の材料ですよ」
「ご祈祷台?」
「はい。最近、ダゾル湖は水が澄み、魚も増えつつあるそうです」
「やはりそうですよね! 近頃、川辺で遊ぶ子供たちも増えましたし。俺たちが子供頃なんてヌルヌルして水に入る気にもなれなかったですから。魚も旨くなったように感じてます」
話に加わってきた騎士が口を寄せ、声を小さくした。
「それに、デートスポットにもなっているらしいですよ。特に夕日が人気らしいです」
アノスジェンはディジリーナとのデートを思い出して照れ隠しに笑い返した。
「そういう話が騎士たちだけでなく、街からも上がっており、それはアース様がご祈祷にいらっしゃってからだと公爵閣下は判断されたようです。これからもご祈祷を続けてほしいと、公爵閣下からの贈り物でございます」
『それは僕じゃなくてアズリューがやったんだと思うなぁ』
確信は持てなくても夢の中のアズリューを思い浮かべるとなんとなくそんな気がした。そして、アズリューへの感謝と自然への崇拝、そしてフオジスト王国王城の教会での祈祷が頭を巡る。
「…………僕、その設計に関わりたいな」
「それはとてもよろしいかと。では、戻りましたら早速ご相談させてください」
「ハハハ。ヘリンは執務官としての初仕事に張り切っているな」
「当たり前じゃないですか。騎士でなくともアース様のお役に立てることをきちんと見せますよ」
珍しいほどに熱くなるヘリンにアノスジェンとニールは笑い出した。
「そんなことしなくても、ヘリンが助けてくれてるってわかっているよ。あのことも一番わかってくれているのはヘリンでしょう」
他の騎士もいるのではっきりとは言わずともヘリンにはしっかりと伝わり、ヘリンは「はい」と返事をした。
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