70 救出
集落から少し離れた場所にそれはあった。調査隊は話し声や足音から五人ほどの犯人と予測。こちらは30人の騎馬隊なので制圧には問題なし。ただし、ワディンの生死の確認やいる場所の特定などはできていない。
ノアニク・リガード騎士隊長の指での暗号指示で騎士たちが家を取り囲む。2階にワディンがいるかもしれないので、隣の古びた厩舎から屋根にのぼり、1階と2階の同時襲撃作戦となった。
扉の前に立った騎士が大きな鉄ハンマーを振り上げた。ドッコーンという音とともに1階のドアが破壊され、2階の窓が割れる音もした。
早々に1階の四人が取り押さえられ、2階から二人の犯人が腕を取られて捕まり引きずり降ろされてきた。手を前にして足とつなげるように拘束した。
ワディンが部屋の隅で目隠しをして縛られ転がされているのが見え、アノスジェンはホッとしてワディンに近づこうとする。その時、犯人の一人が風呪文を唱え、ワディンにむかって棒がクルクルと回転しながら飛んでいく。アノスジェンは走ってワディンに覆いかぶさった。アノスジェンの背中に直撃してゴツっという音がした。
呪文を唱えた犯人を騎士が躊躇なくその場で殴り気絶させ、他の者もできるかもしれないので全員が殴り気絶させられた。
「アン!」
「……アースさ……ま」
ディジリーナが駆け寄る。アノスジェンの重さで目覚めたワディンは目隠しがずれて覆いかぶさる顔を見て驚き、かすれた声で名を呼んだ。ディジリーナが抱き寄せて名を呼んでも反応がない。呼吸も細く顔が青白くなっている。
騎士たちがワディンのロープを外す頃、外に馬の蹄の音がして、別部隊で呼んでおいた馬車と荷馬車が到着した。
ノアニク騎士隊長が無理やりディジリーナを引き剥がし、ニールがアノスジェンの背中に触れないように尻の下に腕を入れ前抱えし、トビーがワディンを横抱きした。ニールの背中に向かってずっとアノスジェンの名前を叫ぶ。
馬車にアノスジェンを乗せた姿を目視するとノアニク騎士隊長はディジリーナの手を離した。ディジリーナは馬車の中へと駆け出していく。ニールが馬車から降りるとトビーは再び気絶したワディンを抱えて馬車に乗り、帰路についた。
邸に戻ってきてからアノスジェンのベッドサイドから離れようとしないディジリーナにライラがカーディガンを肩からかけた。
「ディナお嬢様。そろそろおやすみになってください」
「私が甘かった。犯人を取り押さえれば終わりだと安心しきってしまった。まさか平民があんなに重い棒を風魔法で動かせるなんて予想できなかったの。アン、守るって誓ったのにごめんね」
ホロホロと涙をこぼしながらアノスジェンの布団を撫でる。アノスジェンの肩から背中には真っ青に打撲痕があり薬を塗って包帯を巻いていた。うつぶせになりディジリーナの方を向く顔はまだ白く唇は紫色だ。
ノックの音がしてノアニク騎士隊長が顔を出した。
「ほとんどの者が何も知らないようです。街のならず者たちで、1週間前に声をかけられたと同じ供述をしております。その者たちは平民で、使える魔法は小さな生活魔法のみのようです。魔法を使ったヤツはロンと呼ばれています。ロンがあれほどの魔法を使えることも知らなかったとか。ロンは何も吐きません」
「忌々しい。そいつを眠らせるな。交代で尋問を続けろ。そのためにも騎士たちは交代で休め。他の犯人は牢獄だ。黒幕の顔くらい見てるかもしれないからとりあえず生かしておけ。今日はご苦労だった。みなにも礼を伝えてくれ」
副団長としてのディジリーナが指示を出した。
「はっ! かしこまりました! 副団長殿も明日からの調査に支障なきようお願い申し上げます」
敬礼をしてノアニク騎士隊長は出ていった。40を越えているノアニクはディジリーナが生まれた時から見ているので苦言を呈することも、少しばかり乱暴なことをすることもできる関係である。
「ノアニク騎士隊長様のおっしゃる通りですよ。まさかディナお嬢様はアース様の仇を他の者にやらせるおつもりですか?」
「でも……」
「このお部屋にベッドを用意いたしました。容態が変わればすぐにお知らせいたしますので、まずはおやすみになってください」
「わかったわ。くれぐれもよろしくね」
ディジリーナはベッドに入ってからもアノスジェンから視線を外せなかったが、朝から婚約式の準備などで忙しかったため、体力の限界が訪れて気絶するように眠りについた。
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