69 風の霧
キンガース公爵のひと言でパーティは即解散となり、ワディンの行方を探すことになった。騎士団が情報集めに奔走する。
アノスジェンはカタカタと震え、また自分の責任にして悔いていた。
「僕についてきてしまったからだ。彼は男爵家で4男だけど、頼れる兄さんで、弟妹に恥ずかしくない人でいるって。きっと家族に愛されてた。そんな彼が僕なんかのためにこんなにも遠くに来て、こんなことに巻き込まれて……。僕がいなければ……僕が」
ディジリーナは涙を流しながらアノスジェンの背中を擦る。1時間しても何の情報も入ってこなかった。すでに夜は暮れはじめている。
「よし、あれをする」
キンガース公爵が立ち上がる。
「しかし、旦那様、お体へのご負担が!」
ショーン執事長が心配の声を上げる。
「大丈夫だ。とにかく準備だ」
「お父様。ありがとう」
涙を拭ったディジリーナが騎士団に指示を出す。10分後には、邸の前に皮の胸あてをした軽装の騎馬隊が松明を持って準備を終えていた。
「よいか。ではいくぞ」
キンガース公爵が掌に魔力を集めて一気に空へと放った。
「ウィアミス! 風の霧、かの者の痕跡を届けよ」
すでにワディンのにおいを覚えさせたヴァニスがブルルンと反応した。
「よし! まだ近くにいるわっ! 行くわよ!」
勢いよくヴァニスに跨ると、ショーン執事長の隣からアノスジェンが飛び出した。
「僕も行く!」
一瞬戸惑ったディジリーナだが、アノスジェンの目を見ると断れないと思い、馬上から手を差し伸べた。アノスジェンがディジリーナの後ろに乗る。
「ついてきて!」
ヴァニスを先頭に騎馬隊が動き出した。
「旦那様! 大丈夫でございますか!?」
ショーン執事長がアノスジェンに見えないように倒れていたキンガース公爵に寄り添う。油汗をかき、息が荒く、熱も出てきたようだ。キンガース公爵は魔力切れを起こしていた。
「旦那様をお部屋へ!」
ベッドに運ぶと魔力切れ用の薬を吸い飲みでゆっくりと飲ませていく。この薬は副作用が強く記憶障害などにもなるので、飲む量は厳重管理が必要だ。体が衰弱しない程度に薬で回復させ、あとは自然治癒しかない。
「回復を待ちましょう。ディナお嬢様たちが戻ってきたときのための準備を整えなさい。騎士宿舎の方もぬかりなく」
ショーン執事長は厳しい顔つきで次々に指示を出していった。
走りだした騎士団はヴァニスを信じてついていく。スピードに慣れないアノスジェンはディジリーナに必死にしがみついた。
30分飛ばして着いたのは街外れの集落だった。キンガース公爵邸からおおよそ10キロメートル。
「お父様の魔法でも、ギリギリの距離だったわね」
森に馬をつなぐと松明を消してチームを組んで家の様子を探りに行く。地域の特定はできたがアジトの特定まではできていない。
ディジリーナとアノスジェンはヴァニスを労いながら待つ。ディジリーナはキンガース公爵の魔法について説明をした。
風魔法の一つウィアミス(風の霧)は婚約式でディジリーナが見せた魔法でキンガース公爵が発動させたのはそれを応用したもの。霧が届いた範囲のにおいを運んできて探索する。探索距離が魔力量によって異なり、半径10キロの広範囲探索は魔力量だけでなくにおいを辿れる霧の薄さを調整が必要である。
魔力が多いと言われているキンガース公爵の魔法でなんとか辿れる距離の場所にいた。
「なら、公爵閣下は今は?」
「魔力切れを起こして、ショーンに治療されているところよ。そのあたりはぬかりないから安心してちょうだい」
ディジリーナはアノスジェンの心配を増やさないため、あえて魔力切れ用の薬についてはここでは説明しなかった。
「僕のために……ごめんなさい」
「アン! それは言いっこ無しよ。私たち家族なのよ。貴方が大切に思う人は私たちにも大切なの。だから気にするのも無し。謝るのも無し。貴方だって私のためにやったこともない魔法を発動させたじゃない」
「うん……ありがとう」
二人は手をギュッと握った。しばらくして一軒の家に絞り込んだ騎士たちが戻ってきた。全員でそこへと向かう。
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