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7 茶会

 マナーもおぼつかないままにアノスジェンは子どもたちが中心のお茶会やパーティに無理やり連れていかれる。痩せてきて貧相になったアノスジェンはルートンの服を着せられても似合わないのだが、それをよしとしてルートンと一緒に参加する。

 八歳頃から始まる子どもたちの交流。すでに美しさを醸し出しているルートンは穏やかな笑顔で人気者だった。


「これまではマナーができていないから参加させていなかったんだけど、癇癪を起こしてしかたなく連れてくることにしたんだ。弟の行動を見逃してやってほしい」


 ルートンが悲しげな顔をすると子どもたちはアノスジェンを敵と見なしていく。他の子どもたちにおもちゃとして手を引かれていくアノスジェンをさらにかばうようにつぶやくのだ。


「どうしても僕の真似をしたいって言うんだ。どうかからかわないでやって。兄として僕がいたらないから……」


「ルートン様と同等なわけがないじゃないですか。わがままばかりでしかたなく乳母に育てられたような人は自分を知るべきですわ」


「そうだよ、ルートン君。兄だからって庇う必要はないんだよ。ルートン君はなんて優しいんだ」


 ルートンは心の中でほくそ笑んでいた。


 遠くで子どもたちの様子を見ているような見ていないような状態でお茶会という社交(戦い)をしている夫人たちは新人アノスジェンに注目している。


 モーリッシュ・セレアン伯爵夫人は普段からセレアン伯爵夫人としてパーティなどに参加していたのだ。モニィシャは元聖女見習いであったとき、顔にはいつも大きめのベールをしていたため顔は知られていない。髪色はモニィシャがきらめく銀色、モーリッシュは黒に近い銀色で、そんな些末なことに気がつく人はいない。モーリッシュ自身も貧乏子爵家の次女だったので、社交の場に出ていなかったことも幸いしている。

 クィント・セレアン伯爵は外では「モリー」と呼び、モニィシャと名前が似ているので人々はモーリッシュを伯爵夫人だと思っていた。事情を知る少数の高位貴族たちは他家の色恋に口出しなどしない。

 多くのご婦人はモーリッシュを『没落男爵家ながら教会でしっかりと教養を身に着け、そのような努力ができる伯爵夫人』だと思っていた。


「セレアン伯爵夫人。彼が心配なさっていた次男ですの? 確かにマナーと気品が……残念なようですわね」


 モーリッシュは何も言わず笑顔でかわしていく。アノスジェンに関すること、セレアン伯爵夫人のこと、すべてはモーリッシュが言った内容ではなく、あくまでも噂話がまるで真実のように話されていて、モーリッシュはそれを否定も肯定もせずに笑顔を浮かべているだけなのだ。たとえ、噂を流している者がモーリッシュの関係者だとしても、モーリッシュ自身は何も言っていない。


「わがままでどうしようもなく、結局教養もない乳母にしか懐かなかったのでしょう。しかたありませんわ。セレアン伯爵夫人は伯爵夫人としてのお付き合いやお仕事をしながら、ご長男をしっかりと育ててらっしゃるのですから素晴らしいわ」


 教会の中でも聖なる泉を管理する役職を持つセレアン伯爵家に反感を買って教会からの印象を悪くしたくない夫人たちはセレアン伯爵夫人をおだてていく。


「魔法もままならないというのは問題ではなくって?  そろそろ魔法学を習わせるべきでしょう」


「ですわね。教会の水守のお仕事もご長男だけに無理をさせるわけにはいかないのではなくて?」


 嫌味を言う夫人は自身の子息が水魔法に素質があると思っていて、子息を水守にさせて教会での地位の向上を企てている。十歳になればたいていの貴族子女は生活魔法一つはできるようになっていて、それは得意魔法であることが多い。


「確かにルートンの水魔法は十歳とは思えないほどですけど、それでもまだ十歳です。アノスジェンのことは、何も慌ててはおりませんわ。二人共セレアン伯爵家の子供であることは、かわりませんもの。教会の判断に任せますわ」


 扇の向こうの微笑みが余裕にも見え、皮肉にも見え、言葉少なく場を支配していた。


 帰宅したアノスジェンは『セレアン伯爵夫人にも兄様にも恥をかかせてしまった……。僕はダメなヤツなんだ……』と泣いた。セレアン伯爵夫人は「反省させるためよ」と言って、部屋を子息部屋から客室に移した。食事も一人ですることになり、食事を運ぶのはセレアン伯爵夫人付きのメイド。

 さらに数回の茶会参加の末、アノスジェンの部屋は屋根裏部屋になった。セレアン伯爵夫人はほくそ笑む。セレアン伯爵夫人付きではない使用人たちは「奥様があんなにも心を砕いているのに反抗してマナーを覚えないなんて愚息にもほどがある」とアノスジェンを蔑む。セレアン伯爵夫人付きのメイド以外がアノスジェンの配膳をすることになっても、指示がなくとも貧相な食事へと変わっていった。


 セレアン伯爵夫人からのマナー指導が全く進んでいないことに、アノスジェンは気が付かない。『僕ができないからだ……』と萎縮していった。

10話まで毎日2話ずつ投稿


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