67 婚約式
今日のために大広間に用意された会場はカラフルな色の花々で彩られ、サイドの窓から差し込む明るい日の光を浴びて生き生きとしている。真っ赤な布と真っ白な布で豪華に飾られていた。
招待客が来場し、最前列の真ん中の席にはキンガース公爵とゲイリック第一王子が着席している。爵位に合わせて席につき、主役の登場をいまかいまかと待ちわびる。
「たいへんお待たせいたしました。本日めでたく婚約式を迎えることになりましたお二人のご入場でございます」
赤い絨毯の先にある大扉が開かれた。そこに立つ二人に後ろから明るい日差しが照らし、さしも神々しく感嘆のため息がそこここから漏れ出た。二人は1歩目のタイミングを合わせようと目を合わせてにっこりと笑う。招待客はまるでステージに釘付けの観客となり、息をのんだ。
美しいレディはピンクブロンドをハーフアップにして銀と白のレースの大きな髪飾りの紐が揺れるたびにキラキラと輝く。肩を見せたマーメイドドレスは銀色のベースに黄色のレースが斜めに走り刺繍によってグラデーションで彩られている。歩をすすめると色が変化し、目が離せない。
レディの肩口ほどの身長の少年はレディと腕を組んで歩き、頻繁にレディと目を合わせて笑顔を交わしあう。レディとお揃いの燕尾スーツは黄色のレースの襟元がかわいらしく少年に似合っている。襟元のピンクのシャボには黄色のブローチが付けられており、まさにパートナーの色を纏っていた。
二人が祭壇の前に立ち向き合うと、演壇に立つ司祭が祝詞を紡ぐ。
「本日、お二人は神の前で婚約をいたします。これからお二人で、互いを理解し合い、互いを尊重し、互いを助け合い、互いを思いやり、来たる婚姻式にて誓い合うための歩みをすすめますか」
「「はい。二人で歩んでまいります」」
「では、誓いのキスを」
練習通りディジリーナが膝をつきアノスジェンより少し低くなる。ディジリーナがアノスジェンの手を取ろうとしたが、その手を避けてディジリーナの両肩先に触れた。不思議そうな顔で見上げるディジリーナにアノスジェンの方から近づく。
額にそっと唇が触れた。
「アン……」
感極まったディジリーナの目から涙が一粒流れ、アノスジェンは真っ赤な顔で頭をかいた。
「これからもよろしくね。ペギー」
「うん!」
ディジリーナがそのままアノスジェンに抱きついた。ディジリーナの頭を優しく撫でる。その優しさにうっとりとして目を閉じて恍惚の笑顔になった。
キンガース公爵だけでなく、ワディンやニールたちも泣いていた。トビーの泣き声が漏れすぎて、ヘリンに首をつかまれ脇の扉から追い出された。
司祭が「ん、ん、こほん」とわざとな咳払いをし、二人は額をつけ合い目を合わせてくすりと笑った。アノスジェンが手を差し伸べてディジリーナは立ち上がると、二人で招待客の方へ顔見せする。会場に頭を下げると大拍手が二人を包んだ。
頭をあげてからすぅと息を大きく吸ったディジリーナが銀色の長手袋をした両手を上にあげた。
「みなさまに、祝福を。ウィアミス」
程よい風のミストが会場を埋め尽くし、広間をぐるりと取り巻く2階の回廊からメイドたちが花びらを撒くとその風にのってユラユラとゆっくり会場を回転しながら花びらが落ちてくる。誰もが見上げ幻想な世界に酔う。
それに目を奪われていると少年の声が響いた。
「みなさまに、祝福を。ウォルミス」
触っても濡れないほどと細かい水の霧が会場を包み、花びらに付着して輝きを増す。少し暑かった会場が涼しくなり、美しさと心地よさで静寂に包まれた。
「これは素晴らしい二人の共演だ!」
拍手とともに立ち上がったのはゲイリック第一王子だった。みなもその拍手にならい再び大拍手の渦となった。
その拍手に同調せずギリギリと唇を噛む男がいた。男は使用人列の前列辺りに立ちハンカチで涙を拭う少年を睨みつける。
『あいつが邪魔さえしなければ、これは俺の栄光だったのに……』
男は拍手が止まらぬ中、早々に会場を後にした。
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