66 出迎え
二人の新しい門出を祝うように空は快晴で、6月中旬にしては少し暑いほど。式は昼からだというのにキンガース公爵家の庭園に用意された出迎えの茶席には多くの貴族が集まり歓談していた。来客は昼近くだと予想していたため、キッチンも忙しくなり、庭園もテントを追加で張ったり、グラスを出したりと大忙しだ。ショーン執事長の指示でテキパキと追加されていく。
当の本人たちは式の準備のためこの茶席には出席していないため、スペンディーノ・キンガース公爵が対応していた。
本日何回目かわからないほど話しているのはディジリーナの一目惚れとアノスジェンの魔法発動だ。
「うちの娘が一目惚れしまして、アノスジェン殿を引き止めて交流を深めたのです。いやあ、まさかアノスジェン殿が魔力持ちだとは。王家からの書信にはそのようなことは書かれていなかったので、びっくりです。うちの娘を大切に思ってくれているのだと感激しましたよ」
ディジリーナのお花畑作戦は功を奏している。各家に届いた書信は同じ物で、アノスジェンたちの滞在期間は各家任せてであり、アノスジェンに好意を持ち引き留める家がなかっただけである。引き留めなかった家にはもちろん理由がある。水魔法の家系の者とはいえ魔法が使えないと聞いていたアノスジェンとの縁談を決断することはできなかったのだ。「見合いは我が家だけではない。断っても王家から反感を買うことはない」との気持ちも、受け入れないことの後押しになっていた。
ある者は事件を目撃した騎士に聞き込みをする。
「警護中ですので詳しくはお答えしかねますが、ディジリーナお嬢様を守るように水球が現れたのは驚きました。それが初の魔法発動と聞いてさらに驚きです。水の大家のお血筋の方とは聞いておりましたが、いやはや素晴らしい」
現主人からアノスジェンの魔法に関しては見たまま感じたままを話していいと言われているため、『新しい主人』の話を饒舌に説明する。
特にキンガース公爵にしつこく付きまとってことの成り行きを聞こうとしたのは、唯一アノスジェンたちを引き止めようとしたガドリグ伯爵だ。
「公爵閣下、まさに驚きです。公爵家の権力があると国の貴賓でも無理がきくようですなぁ」
『力を使って無理やり引き留めたに違いない。うちの娘だって好意は全面に出させた。夜の寝酒の酌まで行かせたのに。忌々しい執事が邪魔をしなければうまくいっていたはずだ。子供の分際で生意気な執事だった。きっともうクビにされているに違いない』
「確かに我が家では、お迎えするにあたりいろいろと準備はいたしましたな。アノスジェン殿を長旅の中守っていた護衛たちも随分と疲れていたので、そのあたりも。到着当日などは特に、ご本人を含めてゆっくりとしてもらいましたよ」
ガドリグ伯爵家では使用人を大切にしない傾向にあり、ニールたちへの対応もあまりよくなく、さらには使用人たちを怒鳴りつける伯爵の姿なども見受けられた。それとは対照にアノスジェンにはゴマをすりながら近づこうとしていたので「ガドリグ伯爵は裏表がある人物、初日の夜に令嬢一人で酌に向かわせるのは不適切」とニールたちが判断したのだった。令嬢の酌を門前払いしたのはもちろんワディンである。
昼近くになった頃、一段と会場がざわついた。キンガース公爵が振り返ると人垣が割れたところからゲイリック第一王子が優雅に手を振ってこちらへと歩いてきていた。
「まさか、ゲイリック第一王子殿下にまでご立席いただけるとは。ありがとうございます」
「王家からの縁談なのだ。見届けて当然だ。手紙を読んだが、まさか婿殿が魔力持ちだったとは」
「はい。我々も、そして、アノスジェン殿ご本人も驚きでした」
「魔法を使えないと思われていた者が何かしらのきっかけによって発動させることはある。まさかそのきっかけが『愛』とはなぁ。素晴らしい縁談となりそうだ」
「大変ありがたく、感謝の念にたえません」
「王家としても是非婿殿には幸せになってもらいたい。頼んだぞ」
「かしこまりました」
みなの前で王家から認められた縁談となり、誰も口出しできなくなった。苦虫を噛み潰した顔のガドリグ伯爵は眼の前の酒をあおることしかできなかった。
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