63 キス
アノスジェン・セレアン伯爵子息
『18歳・家族から虐待を受けてきた主人公』
ディジリーナ・キンガース公爵令嬢
『18歳・武道が得意、公爵家後継者』
スペンディーノ・キンガース公爵
『ディジリーナの父親、元騎士団長』
ショーン執事長
『キンガース公爵家の執事長』
ニール、ヘリン、トビー
『32歳26歳20歳・マレアード王国からの護衛騎士』
ワディン・レムダ男爵子息
『15歳・アノスジェンの従者』
ミック
『キンガース公爵家でのアノスジェンの従者』
ライラ
『ディジリーナの専属メイド』
ゲイリック・フオジスト第一王子『23歳』
ナディアナ・フオジスト第一王女『19歳』
エイブリック・フオジスト第二王子『21歳』
コンラッド・メリガン執務次官
『ゲイリック第一王子の側近』
ルートン・セレアン伯爵子息
『アノスジェンの同い年の異母兄』
クィント・セレアン伯爵
『アノスジェンとルートンの父親』
モニィシャ・セレアン元聖女見習い
『アノスジェンの母親』
モーリッシュ・セレアン伯爵夫人
『ルートンの母親』
額にキスを落とされたアノスジェンは真っ赤な顔を両手で隠しながら立ち上がった。
「僕っ! お祈りしてくるっ!」
水のほとりまで行き膝をついて手を合わせたが、心の中で神にではなくアズリューに話しかけた。
『アズリュー。この人が僕をお婿さんにしてくれる人だよ。すごく優しくて、すごくきれいで、すごく大事にしてくれるんだ……。なんだがドキドキが止まらないよぉ。アズリュー、助けてぇ』
もちろんアズリューは答えられない。そのかわりに数十メートル離れたところで大きな水しぶきがあがった。ディジリーナが駆け寄る。
「今のあれ、アンがやったの?」
「違うよ、僕じゃない」
『アズリューがやったような気がしたんだけど、あんなに大きくはないよね……』
「そ、そうよね」
『今のは少し小さめだけど上級魔法エクスプローのように見えた。まだ魔法を発動させて数回のアンができるわけないわ。それに、ショーンもまだ上級魔法の詠唱などは教えてないって言っていたし』
「きっと大きなお魚がいるんだよ。だってここはすごくきれいだもの」
「本当にきれいよね。昔はこんなに澄んでなかったのに。しばらくこないうちにきれいになっててびっくりしているの」
「ここでのお祈りはいつも気持ちがいいよ」
『アズリューのこといつか紹介したいな』
二人はいつものように互いのことを思いながら祈りを捧げた。
「さあ! 今日は残念だけど、夕日を見ている時間はないわ。ショーンと婚約式の相談をするんでしょう?」
「相談っていうより、お勉強だよ。婚約式の準備のお手伝いをしながら、結婚式の準備には関わらせてもらうんだ!」
何もできないと自分を嘆いていたアノスジェンへの配慮でそうなった。
「なら、結婚式はもっと楽しみだわ。さあ、行きましょう」
ディジリーナがアノスジェンの手を取り馬たちの方へと走り出す。アノスジェンはやっとおさまった火照りが手のひらから再発してしまったが、『走っているからだ』と自分を納得させていた。
その日の夜、ディジリーナの部屋ではご機嫌な主人を平常心で見守るメイドのライラが髪を梳きながら、主人の聞いてくれオーラを察する。
「どうかなさいましたか?」
「むふふぅ。聞きたい?」
「……大丈夫です」
「もう! ライラったら本当にいつも冷たいわ。あのね、今日、アンにキスしちゃったぁ。きゃあ!」
真っ赤になったディジリーナは頬を押さえて悶えた。
「アンったら真っ赤になっちゃって、すごくかわいいの。カチンコチンに固まって、しばらくしたら逃げちゃったのよ。逃げる姿もうさぎみたいでかわいいわ」
「……アノスジェン様に許可はおとりになりましたか?」
「いいえ」
「……とうとう我慢できずにお襲いになられたのですね……。おいたわしや」
ライラは目尻にそっと指を置いた。
「し、失礼ね。襲ったわけじゃないわ。おでこにキスするのに許可が必要なの?」
「え? おでこ……ですか……。やっぱりお嬢様は残念な方で間違いございませんでした……」
「ちょっと! さらに失礼よっ! 残念な方ってどういう意味よ」
「浮かれ加減がファーストキス並みでしたので。おでこチューでこの浮かれ様では、ファーストキスをしたらどうなることやら、はぁ」
「ファーストキスぅ!! アンとはまだそういうんじゃないからっ! ゆっくりと……そう! ゆっくりと距離を縮めたいのよ」
「わかっております。アノスジェン様の前で大人ぶってはおりますが、お嬢様は純正初心ですもの。以前の婚約者様に鉄拳でお応えしたことを考えれば大人になったと言えなくはありませんね」
「ちょっとぉ。ここであのクズを思い出させないでよ。幸せ気分が台無しだわ。あいつは見合い後のデート1回目の会った瞬間の挨拶でキスしようとしてきたのよ。それ以来躱すの大変だったんだからっ! よく半年も躱しきったわ。自分を褒めたいくらいよ」
「そうでしたね。それを考えますと、出会って1ヶ月でおでこチューなら、お嬢様もご成長なさったと言えますわ」
「もう寝るわっ」
ディジリーナがベッドへ潜り込めば、ライラはそっと出ていった。そして、一応、キンガース公爵へ報告する。
「理解はするべきなんだろうが、複雑だな。聞きたいような聞きたくないような……。長女は何もせずに嫁いだから、こんな気持ちは初めてだよ」
「婿入りをお認めになったのですから、これからはこういう報告を受け止めねばなりません」
ショーン執事長に諭されて、「はあ……」と大きなため息を吐き出した。
起承転結の『承』終了です。
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