61 発動
キンガース公爵は仕切り直しと息を一つ吐く。
「アースの力を俺たちに教えたってことは俺たちを信用してくれたってことでいいな?」
四人は戸惑うことなく首肯する。
「そこでだ、さっきも言ったが、この話をされてお前たちをマレガード王国へ何もなく帰すわけにはいかない。どうしても帰りたければ他言しないという魔法契約を結ぶくらいの案件だ。
ワディンはすでにショーンを通して雇用契約を結んだ。三人はどうする?」
「「「お願いします!」」」
「わかった。こちらとしても快く迎え入れる。キンガース騎士団でいいのか?」
「「はいっ!」」
二人は返事をしたが、ヘリンは手をあげた。
「私はできましたら、執務官として務めさせていただきたく思います」
「そうだな。執事や護衛では入れぬところある。執務官として従事するのがアースのためになるだろう。実は長女が嫁ぎ、執務について俺もどうするべきかと思っていたところ、どうやらアースは天才肌らしいのだ」
ショーン執事長が満面の笑みを見せる中、ワディンはそっと涙を拭った。
『やっぱり、アース様は天才なんだっ! 私が旅の始めの頃に感じたあれは間違いなかった。アース様。本当によかった』
「まったく……学んでこれなかったことが残念でならないよ。いつかアースに引き継ぎたいと考えているから、それまで俺付きになって他の執務官から学んでくれ」
「ありがたきお言葉、感謝いたします」
「2週間後の婚約式の後、部屋を移動するように。後はショーンに聞いてくれ」
「「「「かしこまりました」」」」
「よし、では、話を戻すぞ。アースの力については後日、本人とともに確認するとして、その魔法でない力については当分の間秘匿とする。魔法についてはできるだけ早く公表したいと思っているが、方法についてはまた考えて話し合おう」
しかし、そのきっかけはすぐに訪れた。
気分が優れず自室で夕食を食べることになったアノスジェンだが、食欲が沸かずほとんど口をつけなかった。食堂の面々もまるでお通夜のような食事となり早々に解散した。
だが、翌朝、「みんなに心配かけたくない」という気持ちが優先するアノスジェンは努めて明るくし、朝のお祈りや朝食を済ませた。
大泣きしたときに付き添ってくれたディジリーナに会って謝りたかったし、ニールとトビーが正式にキンガース騎士団へ入団したと聞いたので、演習の様子を見に行くことにした。時々訓練をしているヘリンが案内をする。
厳しい顔で指示を飛ばしていたディジリーナだったが、アノスジェンを見た瞬間表情を変える。
「アーン!! 来てくれたの!」
手を振って走ってくるディジリーナに演習で弾き飛ばされた剣が飛んできた。
「「「危ないっ!」」」「「「ディナお嬢様!」」」
「ウォルボー!」
周りの騎士たちが叫ぶ中、アノスジェンは掌をディジリーナに向けて呪文を唱えた。ディジリーナは頭を抱えて座り込むが、衝撃はこなかった。頭を上げると右側に上半身を越えるほどの水球が浮かんでいる。
いきなり現れた水球に剣がぶつかるとぽよーんと弾かれて地面へと落ちたのをディジリーナ以外の騎士たちが目撃した。
アノスジェンの後ろにいたヘリンは驚いた。基本の魔法は教えたがその応用となる『ボール』にする魔法も、20メートル先にそれを作り出すことも教えていない。
ディジリーナはそのままアノスジェンに駆け寄る。
「アン。今のは魔法?」
「え? あれ? そうみたい。僕……。それより、ペギーは大丈夫? 怪我はない?」
「ありがとう。私は無傷よ。アンのおかげね。
ヘリン! 例の集合よっ!」
様子を目撃していたニールとトビーもすでにこちらへ走り出していた。10分後、いつもの執務室大円卓に例の七人とアノスジェンが集ることになった。
何も知らないアノスジェンは青い顔でカタカタと震えていた。自分に魔法が使えることはわかっていたが、使う習慣がないためこれまで使う機会がなく、自分自身もすっかり忘れていた。
『どうしよう。魔法は使っちゃいけないって言われてたのに……。できるって忘れてた……。ペギーにも閣下にも秘密にしちゃってたし……』
「大丈夫よ。アン。何があっても私たちは貴方の味方よ」
肩に手を置いたディジリーナに促され顔を上げるとアノスジェンに向かう視線はどれも優しさや信頼に満ちていた。
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