53 公爵家
キンガース公爵家は6代前の王弟の家系。王家の印の残り香で、金髪に赤みがさすピンク色の髪を持つ子孫がいて、現キンガース公爵とディジリーナがそれだ。
当時、小さな街であったものを、草原をならし森を切り開いてできた領地だ。森には野生動物の他、魔獣も生息していて、開拓は容易ではなかった。そのため独自の討伐部隊が強くなり、今の騎士団となっている。
マレガード王国とは反対側にある隣国とは、互いに領地が拡大して争っていた時代もあるが、和睦に至り、今世代ではディジリーナの姉が嫁いでさらに強固な親睦関係を築けている。
とはいえ、武力を維持することが牽制であり和睦の一因を担っていることは暗黙の事実であるので、キンガース公爵家では騎士団の鍛錬は欠かせない。
西側がマレガード王国方面に伸びるダゾル湖の東脇から広がる大きな森を抱えていて、野生動物や魔獣の定期的な間引きが必須であるためやはり武力は必要である。
ディジリーナが5歳の時に母親が流行り病で亡くなり、後妻を迎えるつもりがないキンガース公爵は養子をとることも念頭に入れながら、二人の娘に剣術を学ばせた。姉は早々に脱落したが、妹ディジリーナにはセンスがあり、姉が女主人の代行をし、ディジリーナが次期当主としての教育を受けることは自然の成り行きだった。
キンガース公爵は「嫁に行きたくなったら養子をとるから気にするな」と言い続けてきたが、当の本人であるディジリーナはこの領地を愛し武術を愛しているので、婿を迎える以外考えたことはない。
15歳の頃、4歳年上の侯爵家の次男と半年ほど婚約していたが、「俺が公爵になれないならお前と結婚する意味はないっ!」と言って平民の女性と駆け落ちした。未だになぜ思い違いをしていたのかはわからない。
3ヶ月も経たないうちに泣いて戻ってきたが、キンガース公爵たちに叩き出された。ディジリーナがその事件を知ったのは1週間後で、それを隠すほどキンガース公爵家及び騎士団のみんなから愛されている。
「あんなのが帰って来ても受け入れないし傷つかないわ。元々気に入らなかったのよ。武術の心得もないくせに騎士団を仕切りたいとか、領地のことを学ぶ気もないくせに裁量権がほしいとか。ほんとバカ男と婚約破棄できて嬉しいわ。まず、見た目が全く好みじゃないのよね」と腹を抱えて笑ったのは今では語り草になっている。
そんなディジリーナに新しい婿候補がやってきた。前例のせいで警戒心が強くなっているキンガース公爵が受け入れた人物に誰もが期待と興味が膨れていた。前婚約者を振って以来、ディジリーナの好みはディジリーナ語で『モッサ男』だと誰もが思っていたのだ。キンガース公爵と専属メイドのライラを抜かして。
そこに現れたアノスジェンの姿に啞然とした一同であったが、公爵家の者としてのプライドで、きっちりと接した。さらにはディジリーナが一目で気に入ったことから全面的に応援することになる。
アノスジェンの物腰や気遣いが後押しし、今では騎士団を含めた屋敷中でディジリーナとアノスジェンのカップルを望んでいた。
ただし、まだ婿入り契約はしていないため、アノスジェンにプレッシャーをかけるわけにはいかないと考えている「仕事のできる公爵家の面々」は、あくまでも来客として接していた。
そのあたりも空気を読んだアノスジェンたちを不安にした要因であるのだが、誰もそれに気がつくはずもない。
いよいよディジリーナが告白するのだと察した面々はあちらこちらで張り切る。昼過ぎのバスタイムでは念入りなお磨きをし、つやつやに梳かれた髪はサイドを編み込みに水色のリボンを織り交ぜたポニーテールは毛先をくるりと巻いている。新調した騎士服には糸くず1つついておらず、胸ハンカチにピンクを使い、水色とピンクの絡み合うコーディネートとなっている。馬丁も馬具を丁寧に磨き上げ「頼むぞ!」と馬のヴァニスにお願いするほどだ。
ライラは「あまりがっついてはいけませんよ」とアドバイスした。
こうして万全の体制で、二人の乗馬デートが始まった。
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