52 コーデ
夕刻近く、まだ明るい時間にディジリーナはアノスジェンを迎えに行った。騎士服をまとい、高い位置のポニーテール姿だ。ドアの前で自分の頬を叩き笑顔を作り直す。丁寧にノックをすればワディンが迎え入れた。
アノスジェンはディジリーナの入室を確認するとくるりと回ってみせる。
「とても素敵なプレゼント、ありがとうございます。すごくかっこいいのにとても動きやすいです」
ディジリーナが硬直しているので専属メイドのライラが『恋愛下手なんだから……』と後ろから突いた。
「あ、うん。すごく似合っているわ。その色を選んだのね」
アノスジェンが着ているのは上着が黄色を主体としてピンク色の刺繍が美しいデザインのものだった。他の2着は紺色ベースと黒色ベースの無難なものであったのだが、アノスジェンが選んだのは黄色だった。
「はいっ! ディジリーナ様の瞳の色に似ていてすごくキレイだったので、これにしました」
ディジリーナが崩れ落ち、男四人はあんぐりと口を開けた。
『まさか、お相手の色を纏う意味や自分の色を贈る意味も知らずにそれを選んだのか? そして知らずにそのセリフ……。男の俺でも落ちそうだ。さらにはディジリーナお嬢様の服も……』
ニールは汗を拭う。ディジリーナは女性騎士服で水色ベースの上着にシルバーのパンツ。まさにアノスジェンの色で新調したものだった。
『どこからどう見てもカップルコーディネートですが、一方が無自覚ということが奇跡ですね』
ヘリンは目を閉じてかぶりを振る。
ディジリーナはライラに促されて立ち上がった。
「とにかく、出かけましょう」
「はいっ!」
二人が並んで出ていこうとするとニールとヘリンとトビーが護衛のために付き添いをしようと後ろをついてきた。ディジリーナがアノスジェンがいる方とは反対側で険しい顔をして振り向く。
「今日は共はいらない。私が帯剣するから」
「……かしこまりました」
三人は恭しく頭を下げて二人を見送った。ライラが一礼して扉を閉めた。
「色恋のアレコレをそろそろ教えないとまずいな」
ニールは目を細めヘリンが眉間に手を当てた。政略結婚だと割り切っていたので、その手のことはアノスジェンに話してこなかった。
「婚約件が落ち着きましたら、キンガース公爵閣下に家庭教師などを相談してみますよ」
「え? 俺らが教えればいいじゃん?」
ヘリンがお気楽な回答をするトビーの額を人差し指でトントンとノックする。
「いい年をしているのに、嫁なし彼女なしの我々でどのようなことを教えるつもりですか? 実技の前に心情を学ばなければならないって話ですよ。それでなくともアノスジェン様は愛情を受けることに疎いのですから」
ニールの心に刺さる言葉を投げナイフのごとく連発され、ニールは自分自身に失笑した。
「ご本人は愛に溢れた方なのになぁ」
「それも無自覚ですよ。だから、私たちは彼に惹かれてしまうのです」
四人はもう一度二人が出ていったドアを見つめた。
「ご主人様には今日これから起こることがいいきっかけになってほしいと僕は思っています」
ワディンが優しげに微笑んだ。
玄関を出ると体格のいい真っ白な馬がすでに乗馬の準備を終えて馬丁に口をとられて待っていた。落ち着きなく足を何度も踏み鳴らしている。決しておとなしいタイプの馬ではないことが見て取れる。
「この子はヴァニス。男の子よ。私の戦友なの」
愛し気にたてがみを撫でると鼻を近付かせ甘える仕草を見せた。正面に回り首筋を撫でる。
「元気が良すぎるくらいだけど、勇気があって何度も助けられたわ」
アノスジェンが何のためらいもなくヴァニスに手を伸ばし、手が届く範囲のたてがみを撫でた。少し振り向いてアノスジェンのにおいを確かめフイッと前に向き直る。拒否したように見えなくないが、ヴァニスをよく知るディジリーナはヴァニスがアノスジェンをすんなりと受け入れたことを感じとり少し驚く。
「ふふふ。この子、勝ち気で素直に表せないけど、アノスジェン様のこと気にいったみたい」
「本当ですか! ヴァニス、ありがとう!」
アノスジェンがもう一度撫でるとチラリと振り向きまた前を向く。撫でられることを許可したことが見て取れた。
「では、行きましょう」
アノスジェンが乗るのを補助してから颯爽とまたがった。アノスジェンを抱くように手綱を握り歩みを進めた。
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