↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
51/94

51 苦悩

 アノスジェンの部屋を出たディジリーナはすごいスピードでキンガース公爵の執務室へ行き、そのままの勢いでドアを開けた。

 中ではキンガース公爵と執務官が大円卓で会議中だった。ディジリーナの怒りを悟った執務官が即座に立ち上がる。


「ノックぐらいしろ」


「蹴破らなかっただけ、褒めてほしいくらいだわ」


 キンガース公爵が執務官たちに手で退室を促した。


「で? どうした?」

 

 テーブルに肘をつき上目遣いでディジリーナを見やるが、ディジリーナがそれに怯むことはない。


「私たちの婚約話。どうなっているのかしら?」


 腕を組んで鼻を上げ怒りを全面に押し出している。


「何を焦っているんだ。アノスジェン殿はここに滞在している。急がずともいい話じゃないか」


 キンガース公爵があきれ顔をして椅子の背もたれに体重を預けた。


「そのダーリンに不安を抱かせているのよっ! ダーリンが『使用人になる』って言い出しているのっ」


「は? なぜそんな話に? 我が家は十分に高待遇で迎えているはずだ」


 まさかと疑ったキンガース公爵はディジリーナの後ろにいる年配メイドに確認をとると深々と首肯されて、頭が痛いと額を押さえた。


「私たちにとってはたった1週間かもしれないけど、ダーリンにとってはすでにこの国に入国して一ヶ月半以上なのよ。婿入り確定で入国してきて、すぐその話になるはずが、バカ姫のわがままに振り回されて。留まることも帰ることも判断が許されない状況で不安にならないわけないじゃない。バカ姫のおかげで私がダーリンと知り合えたことは嬉しいけど、ダーリンが不安になるなんてダメでしょう!」


「わかった! わかったから。今、再度王家にアノスジェン殿との婚姻承諾の確認をとっているところだ。ゲイリック王子殿下が視察旅行に行っていたとかで、返信が遅れているんだよ」


 キンガース公爵はまずはゲイリック第一王子に書信を確認させたいと考えているため遅れてしまっている。


「は? 何言ってるの? アノスジェン様を蔑ろにした王家の承諾なんて、今更いらないわ。そもそもそれを前提に王都を出たんじゃないの?」

 

 まだ、ゲイリック第一王子が国王ではない現時点では、『ゲイリック第一王子とキンガース公爵の間で確約している』とはっきりというわけにはいかない。キンガース公爵がゲイリック第一王子に呼ばれて王都へ出向きアノスジェンの様子を見てきたことを知っているディジリーナもそれは感じとっている。


「王命での見合いなんだぞ。王都を出た時点ではどの家に入るか決定していないんだ。承諾確認は必要だ」


 理屈ではわかっているディジリーナは唇を噛んだ。


「それでも、キンガース公爵家として、アノスジェン様と婚姻の意思確認をお互いにすべきじゃないの? それだけで不安を無くさせることができるじゃない」


「あの王女が一悶着起こしたんだよ。王女に甘い国王陛下がゲイリック王子殿下をなだめるために、王女にこの婚姻をのませるかもしれないんだ」


 王女にだけ「殿下」をつけなかったり、「バカ姫」という言葉をスルーするキンガース公爵はわざとではなく、敬意の無さの表れである。


「バカ言わないでよ。また王家のわがままにアノスジェン様を巻き込むつもりなの?」


「ゲイリック王子殿下は元々ナティアナ王女とアノスジェン殿の婚姻は反対なんだ。だからおそらく大丈夫だとは思っている」


 国王と王妃が引退の準備に入っていることは極秘なので、どうしても建前上、国王と王妃の確認は必要になるのだが、『建前上だから心配ない』とは言えない。


「お父様にはがっかりだわ。私は私の好きにするから」


「どういうことだっ!」


「あんなに優しくて勤勉で柔らかくて、それなのに時々見せる傷ついてきた心に沈みそうになるあの子をこれ以上傷つけさせない。私は駆け落ちする覚悟は持っているから」


「おいっ! ディナ!」

 

 くるりと踵を返したディジリーナはキンガース公爵が止めるのも聞かずに部屋から出ていった。椅子に沈み込みそうになるキンガース公爵はカラカラに乾く喉から声を出した。


「あいつが無理しないよう見張ってくれ。この婚姻は何があっても成立させるから」

 

「それを言って差し上げればよかったのではありませんか?」


「晒せないこともあるんだ。それにこちらで確定させてから万が一があった時に二人が傷つく……。確定させておかなければ、アノスジェン殿の傷は浅く済むかもしれない……」


 アノスジェンの心はまだ『恋』や『愛』になっていないとキンガース公爵は判断している。口が堅い信用のあるメイドにはこぼす。


「かしこまりました。お任せください。ご当主様はなるべくお早めに解決なさることをオススメいたします」


「わかっている」


 メイドは下がり、キンガース公爵は執務机へ戻り何通目になるかわからないゲイリック第一王子及び王家への手紙を書き始めた。

お付き合いいただきありがとうございます。

毎日夜6:40更新


ブックマーク、★嬉しいです。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。