46 服屋
三人で下へ行くとディジリーナは来てなかったが、馬車の前でショーン執事長が待っていた。オシャレ普段着のニールとトビーが馬の口を持って立っており、ミックはなぜか大きめのトランクケースを持っている。
ショーン執事長が馬車のドアを開けた。
「ディジリーナ様がまだですよ」
アノスジェンはキョロキョロするがディジリーナは見当たらない。
「申し訳ございません。ディジリーナお嬢様は先に出立されました」
カチンコチンの音がするかのごとく三人は固まった。
『僕の着替えが遅かったの?』
『私の不手際が原因ですね』
『私の支度が手間取ったばかりに』
蒼白な三人にショーン執事長は笑顔を見せた。
「アノスジェン様のお洋服選びが楽しみでたまらないとお着替えもせずに馬でおでかけになりました」
びっくり眼の二人と天を仰ぐミック。笑いをこらえるニールとトビー。ニールとトビーは走り出すディジリーナを見かけ、その時に二人と同じ表情をしたのだった。
「では参りましょう。お供いたします」
ニールの騎士らしい言葉で出立した。
街のブティックへ到着すると『貸切』の文字。ミックはそれを気にせずアノスジェンたちを案内していく。
入店するとすでに少年貴族が着そうなものがズラリと並べてられており、ディジリーナと店員が真剣な顔で話しをしていた。ミックが声をかける。
「ディジリーナお嬢様。お待たせして申し訳ありません」
振り向いたディジリーナは顔を輝かせて走ってきてギューッと抱きしめる。もちろん、アノスジェンを。
「マイダーリン! 待ってたわ! 見て、ダーリンに似合いそうな服を見繕っておいたわ」
ディジリーナが手が離れて目にした服の数にアノスジェンはびっくりした。
『これは見繕ってないよね? お店の品物全部なんじゃないの?』
「こちら様用のお洋服でございますね。お嬢様のお見立て通り、何をお召しになってもお似合いそうですわね」
「でしょう! さ、ダーリンも見て見て」
たくさんの洋服が掛けられているハンガーラックへと手を引いていく。数枚の服をあれもこれもとアノスジェンにあてがっていくが、すべてに「これもいいわね」「これも似合うわ」「わあステキ!」と何も却下しないことにアノスジェンは恐怖を感じてきた。
「ディジリーナ様。僕、お洋服持っていますので、1枚だけでいいのです」
おずおずと提案すると、違う方から声がかかった。
「ディジリーナお嬢様。アノスジェン様のお持ち物はこれで全部でございます」
ミックが持ち込んだトランクケースを開いてみせた。アノスジェンの部屋でなにやら準備をしていたと思ったら、これのようだ。
その量を見たディジリーナはもちろん、店員も驚いている。
「ワディン。どういうことなの?」
ディジリーナの目が猛禽類のそれになり、ワディンの声が震える。
「じ、実はアノスジェン様はご成長期らしくサイズが合わなくなってしまい、数枚を破棄いたしました。近々購入することを検討していたところです。ですが、先ほどのアノスジェン様のお言葉をお聞きになったように、アノスジェン様は大変に倹約家でございまして、我々としても主人に無理強いはできかねますので……。
ですから、こうしてディジリーナお嬢様にお気を配っていただき誠に感無量です」
店内警備を担当したニールがワディンをフォローするようにブンブンと首を縦に振った。お見合い旅の道すがら、本当にこの手の話を何度もしていたので、嘘ではない。ただ、従者と護衛が男だけだったので、後回しになってしまったのだ。
ディジリーナがご満悦の笑顔になった。
「そういうことなら任せておきなさい。さあ、ダーリン、どれから試着しましょうか。うふふふ」
それから5時間。アノスジェンは息絶え絶えに疲れきってソファに沈んだ。満足気のディジリーナが店員へ指示を出す。
「じゃあ、ここからここまで、家へ届けてね」
「かしこまりま……」
「待ってぇ!」
ソファから懸命に手を伸ばすアノスジェンをワディンが脇で支える。
「ぼ、僕、本当に本当に大丈夫です。だから5着だけにしてください」
片手を広げてアピールするアノスジェンも希望数を多めに申告するようになったが、ディジリーナが困り顔で返す。
「それじゃ足りないわ」
「でも、僕、もっと大きくなるようにします。頑張ってご飯食べます。だから、その時、また選んでもらえませんか?」
『『『『「また」って言った!!!』』』』
ディジリーナは感動と涙目になっているアノスジェンに負けて数を減らすことにした。
「ダーリン。もう……わかったわ……。では、そちらの社交用5着と普段着を10着。いただくわ」
ディジリーナの注文に大喜びの店員とミックの満足気な様子にアノスジェンはこれ以上は諦めた。
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