45 ダーリン
天然なアノスジェンをお楽しみくださいwww
ノックアウトされたディジリーナであったが横に倒れそうな寸前、アノスジェンが握りしめるフォークを見て、目を見開いた。そこから大復活の直立。
さすが、騎士家の跡取り娘、倒れそうな状態からすくっと立ち上がる体幹の素晴らしさ。その姿を直視したワディンが口をあんぐりと開けるのを自分で押さえていた。
ディジリーナはそんなワディンを目にも入れず、おもむろにアノスジェンの脇まですたすたと歩いてくる。アノスジェンの横に片膝をついた。アノスジェンは『あの勢いはお父様と似ている……怒らせてしまったんだ』とビクビクしている。
「なんで私のダーリンが合わないサイズのブラウスを着ているの?」
ディジリーナが見ていたのはフォークではなくアノスジェンの袖口だった。アノスジェンの腕を掴んで自分の目線に合わせる。
「これ、ダーリンのサイズより1.5センチ短いわ」
近くにいたメイドがギョッとした顔で見てから、袖で目をこすりまた凝視する、が、わからない。アノスジェンのブラウスはフオジスト王国王都の仕立て屋で作ったもので、袖が膨らんでいるタイプなので本当にわからない。
『僕はダーリンって名前じゃなくてアノスジェンです。やっぱり怒っているから名前を間違えたんだ……』
アノスジェンは興奮しているディジリーナを前に言いたいことを飲み込んだ。
「ダーリンのかわいい顔に夢中過ぎて見落としていたわ! ショーン! すぐに馬車の用意を! 街へ行くわっ」
全員が一斉に動き出し、アノスジェンはワディンと若い執事ミックに付き添われて部屋へ着替えに戻った。
アノスジェンが着替えながらワディンに聞く。
「これからどこへ行くの?」
「街へお出かけされるようです」
「ランチ? 僕、ケーキでお腹いっぱいなんだけど」
「アノスジェン様のお洋服をお買い物に行かれるようです」
「でもぉ……僕、たくさん持ってるよ」
ワディンと一緒に付き添っているミックがコケそうになる。ミックはアノスジェンの貴族服があまりにも少ないと感じていた。だが、主人であるキンガース公爵家がアノスジェンをどのように見ているか判断できずにいた。今日のお茶会でディジリーナがアノスジェンを気に入っている様子を見て、今夜にでもショーン執事長へ進言するつもりだったのだ。
「口を挟んで申し訳ございません。お嬢様のお気持ちでございますので、お付き合いいただけますと幸いにございます」
ミックにそう言われればアノスジェンは素直に頷くのだった。
「そうだ! あのね、僕、ダーリンって名前じゃないんだけど、ディジリーナ様にご指摘するべきかな?」
ワディンとミックが吹き出しそうになる。
「そ、それはですね」
15歳のワディンはそれらの説明に口ごもる。21歳のミックがアノスジェンを鏡越しに目を合わせて答えた。
「ダーリンとは、愛しい人という意味でございます。ディジリーナ様はアノスジェン様のことを大切に思っておられるのでそうお呼びしたのです」
「えー!! そんなぁ」
顔を真っ赤にさせてそれを隠すために手で覆うが耳までは隠しきれておらず尚々初々しい。
「でもぉ、僕、ディジリーナ様のお気持ちにお応えできるかなぁ」
ワディンはアノスジェンが『気持ちを返したいけど、好きというものがどういうものかがよくわらない』と思っているということを理解しているので、『がんばれ!』の気持ちでにこやかに頷く。
『まずいぞ! 早くショーン執事長様にお伝えしなくては! お嬢様の愛をお手伝いだ!』
ミックはアノスジェンが婚姻を断るつもりでいると勘違いをし、気合を入れるとともに頭をフル回転させていた。
着替えてはみたものの、どの服も王都で用意したのものなので、小さめといえば小さめだ。
『王都で買ってまだ一ヶ月なのにもう着れなくなるなんてことあるのかな?』
アノスジェンは袖口をなんとなくもてあそびならがら考えた。
『確かに、私とアノスジェン様のご身長は近いくらいになっている。王都では確実に私が大きかったのに』
アノスジェンの髪を梳きながらワディンも不思議に思っていた。
三人それぞれの想いをもって支度を済ませるのであった。
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