43 父娘
五人が紅茶を飲みながら話し合っている間、キンガース公爵の執務室のソファでは父娘がワインを飲んでいた。
「お前なぁ。彼らはとりあえず視察と体験だって言っただろうがぁ」
執事によって味わうくらいに注がれたワインを一口で飲み干し、自分でなみなみと注ぐ。
「だって、あんなにカワイイって……聞いていたわよっ、確かにお父様から聞いていたけど、予想以上じゃないの。とてもじゃないけど我慢できなかったわ」
グラスをゆっくりと回して一口口に含め喉を潤す。にっこりとしてから一気に煽った。自分で先ほどと同じくらい注ぐ。
ゲイリック第一王子には『一旦は引き受けるが、娘の意見が優先だ』と言ったキンガース公爵であったが、実のところアノスジェンがディジリーナの好みのどストライクなのは見た瞬間にわかっていた。
だからこそ、食料調達の狩りに連れ出し疲れさせ発散させてから面会させたいと考えたのだが、興奮という火に油を注いだだけだったようだ。
「あのクリクリのお目々も、ぷにぷにのほっぺも、ぷるぷるの唇も、リスのような声も、びっくりした顔も、はにかむ笑顔も、もう全部カワイイ! サイコー!」
ディジリーナは空に向けて乾杯をするとグイッと飲み干した。
「だがな、男は成長すると体も顔も変わるぞ。二十歳前後で急に成長することもあるもんだ」
「大丈夫よ。その辺も考慮してタッチしてきたわ。あの子は成長しても、うちのモッサたちと同じには絶対にならない。もしなるとしたら、100年くらいうちのハードメニューを毎日こなさなきゃ無理だわ」
手をワキワキと動かすディジリーナはアノスジェンを抱きしめた際、背中や腕などの筋肉を確認していた。
「それにあの顔がゴッツになるわけないじゃない。カワイイオヤジになって、ずっと私のプリンスでいるはずよ!」
「モッサってなんだ?」
「もさくて、野暮ったくて、汗臭くて、とってもたくましい猛者たちのことよ。うちの連中みたいに、ね」
「なるほどな。だからお前はああいうのが好きなのか。日常の反動ってことかよ」
「あら、モッサ軍団のことも愛しているわよ。なんせ、モッサ代表はお父様なんだから」
「俺がモッサ代表だってぇ! これでも若い時はモテモテだったんだぞ」
「そりゃそうでしょう。一定数モッサ好きはいるわよ。守られたいって女性は多いもの。
でも、私は違うわ。だって、私、男に守られたくないんだもの。だからこそ、結婚相手ならプリティプリンスがいいの」
アノスジェンの姿を思い出して光悦とした顔をする。娘のそんな姿を見たくないキンガース公爵はワインを瓶ごと煽った。
「だけどよ、性格なんてわかんねぇぞ」
「よく言うわ。お父様が無神経に婿殿候補を連れてくるわけないじゃない。お姉様の時だって、王命だっていうのに、保留してさぁ。わざわざ平民の格好して評判の確認したり、意味ない交渉に行って人となりを見てきたりしてたでしょ」
ナティアナ王女の代わりに隣国の王家へ嫁いだ長女の話を出されてキンガース公爵が慌てた。
「なんで知ってるんだよっ!」
「お母様の代わりにお父様を見ていたお姉様から聞いたのよ。お姉様は私に『だから安心してね』って言って嫁いで行ったのよ」
キンガース公爵は鼻をすすりながらもう一瓶をラッパ飲みする。すでにテーブルには7本の瓶が倒れている。このうち3本はディジリーナが飲んだものだ。
「今回は王子に呼ばれて行ったんだから、性格調査は楽だったでしょう」
「まあな。だが、あちらへ行かせた偵察からの報告がいいもんじゃねえ」
キンガース公爵はアノスジェンにわざといろいろな領地で見合いをさせ時間を稼ぎ、その間にマレガード王国へ調査隊を送り込んでいた。
「そうなの?」
「努力嫌いで根暗。傲慢で不真面目。さらには生活魔法も使えないセレアン伯爵家のお荷物だそうだ」
「え? 魔力を期待しての婿入りなんじゃないの?」
「本人に魔力が無くとも次代に期待できる血統ではあるって触れ込みだ」
「魔力の話はともかく、性格については、お父様は信じてないってことね」
キンガース公爵は王宮でのアノスジェンの様子を振り返る。たった1週間であるものの、毎朝の祈祷と参拝者への笑顔、使用人たちへの対応、日中の勉強、教えてもらう時の態度。何をとっても好印象だった。
「俺は噂より自分の目を信じただけさ。あれで、『演技でした』っていうなら、俺の負けだ」
キンガース公爵は頬をほころばせる。
「あちらの国でのその噂、嘘だったら……。私のプリティプリンスに何をしてきたのか暴いてやるわ」
ディジリーナが悪魔笑いをした。
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