35 戸惑い
アノスジェンたち五人は部屋に通され、着替えを済ませた。着替えたとはいえ、これまでの旅路での格好とは異なる。特にアノスジェンは仕立て屋のオーナーマダムがオススメのもので、とにかく可愛らしい。膨らんだ袖に合わせにはフリルの白いブラウス。大きめの青いリボンをつけている。
ニールはスラックスと上品な刺繍がされたシャツに胸にはハンカチーフ、ヘリンはチェックのベストとネクタイ、トビーはネッカチーフをちらりと見せている。
ワディンがお茶の乗ったワゴンを押してくるとトビーがからかった。
「おいおい、ワディン。着替えて集合って言ったろ」
「着替えました」
涼しい顔でそう言いながらすぅと手で襟元をのばしたワディンは黒の燕尾ベストと短いジャケットから濃いグレーの燕尾ベストに着替えいた。
アノスジェンを中心にソファに座った。一人用ソファにちょこんと座るアノスジェンに四人は頬を緩める。アノスジェンの強権的なおねだりでワディンもニールの隣に座った。
「なあ、さっきの謁見、なんか変だったよな」
そう言うトビーの隣に座るヘリンはあからさまに大きなため息を吐いた。
「王女殿下がご入室なさらなかったのです」
ワディンの解説にトビーはポンっと拳をたたいた。
「昨日からの待遇を見るに悪いものではない、いや、むしろ高待遇だ。にもかかわらず、お相手であるはずの王女殿下が謁見の間でコールされたのにいないというのはあるのか?」
ニールがそう言うと悪い考えが巡り五人はどんよりとした。アノスジェンはできるだけ明るく言う。
「体調を崩されたのかもしれませんよ」
「急に、か?」
遠慮ない返答のトビーの後頭部にヘリンの鉄拳が飛ぶ。
「考えてもしかたありません。それより、数日の猶予ができました。どうしますか? 私はフオジスト王家の許しがあれば図書室へ行きたいです。なにぶんにも旅路だったので、調べ物もしっかりとはできていませんので」
「僕もヘリンと図書室へ行きたいです! この国をもっと知りたい」
アノスジェンが元気に手を挙げた。
「私は執事様にこの国での作法などをご教授いただくことになっています」
「ワディン……。いつの間に……」
トビーは負けたのような気持ちになって情けない顔をする。
「そうか。なら、俺とトビーは騎士団へ行ってみよう。夜には互いに報告だな」
その場で解散した。
アノスジェンは図書室でふと集中が切れた時点で隣で本を読むヘリンに話しかけた。
「ヘリンたちはいつまで一緒にいられるの?」
ヘリンはびっくりした顔を上げ、アノスジェンも何かを察して視線を落とした。
「隠しても意味はないのでお話します。私たちはお二人をフオジスト王国の王城へ入城なさるまでが義務となっております」
予想していたアノスジェンはさらに頭を下げてしまう。
「ですが、これはあくまで最低義務の話です。これからは任意で職務を遂行いたします。ニールさんが報告書を騎士団長へ提出している間は騎士団所属であり、騎士団より給与も出ております」
「本当に? 僕、迷惑かけてない?」
上目遣いで不安そうなアノスジェンに対して、ヘリンは笑顔でゆっくりと左右に首を振った。
「私たちはアノスジェン様との生活を楽しんでおります。今後はお守りする立場を我々の判断で決められない時が来るかもしれません。ですが、それまではしっかりとお守りさせていただきます。これは、ニールさんとトビーと話し合ったことです」
「ヘリンたちの判断で決められない時って?」
「…………つまり、マレガード王国またはフオジスト王国から王命により護衛を外された時です」
「そうだね。その時はしょうがない……。でも、それまでは一緒にいてくれるの?」
「アノスジェン様が望んでくださるのなら」
アノスジェンがヘリンに抱きつくとヘリンも優しく抱き返した。
「ですから、ご不便があれば言ってください。これからはアノスジェン様が経験なさっていないことがたくさん起こります。アノスジェン様の遠慮が悪い方向へ行ってしまうこともあります」
アノスジェンを離して目を見た。
「我々を信じてくださっているのなら、遠慮は無用です。よろしいですか?」
「うん! ありがとう」
アノスジェンの頭にそっと触れた。
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