34 混乱
謁見の間を後にした王家の面々は大騒ぎだった。まずは元凶であるナティアナ第一王女の元へと走る。いや、王家の教育を受けているので、このくらいでは走らないが、それに近いスピードで歩く。後に付き従うメイドたちは小走りでついていく。騎士たちは大股で余裕がまだありそう。
廊下の遠くからすごい勢いで突進してくる王家の面々を見たナティアナ第一王女付きメイドは、すぐにノックをして返事を待つと扉を開けた。と、同時に国王たちも到着し、まさにメイドのナイスプレー。
「ナティアナ!」
部屋の前で大きな声を出す国王をついてきたメイドたちはさりげなく前へと押し、部屋の中へと詰め込んだ。これもどこに目や耳があるかわからぬ廊下でのやりとりを避けるためのナイスプレー。知っている者は少ない方がいいに決まっている。
国王が入室したにもかかわらず、優雅に紅茶を嗜んでいるナティアナ第一王女にさらに怒りがわく。
王妃も数分前の出来事に頭痛がし、右手を額に当てた。ゲイリック第一王子は腕を組んであきれ顔で妹を見ていた。
数分前、アノスジェンたちが謁見の間に到着したことを聞いた四人は王家用扉の前に立った。
「国王陛下、王妃殿下、王子殿下、王女殿下、ご入室です」
いつものように呼び声が聞こえ、いつものようなタイミングで入室する。
1番目に国王。礼をとる五人を見てギョッとするがすぐに立て直し大玉座に座る。目を見開いてマジマジと真ん中に立ち礼をとるアノスジェンを見る。
2番目に王妃。顔を扇で隠してそそと小玉座に座ると、ギョッとして顔を前に出してアノスジェンを凝視。
3番目にゲイリック第一王子。王妃と反対側に立つと一瞬ポカンと口を開け、ヤレヤレというジェスチャーをした。
そして、ナティアナ第一王女は、扇を広げて王妃の脇へ立ちアノスジェンへ視線を向けると「イヤっ!」とひと言漏らして踵を返した。それをメイドが追いかけ、ゲイリック第一王子が追いかけ、すったもんだやった挙句にナティアナ第一王女は謁見しないということになった。
なんとか誤魔化せたと思いたい王家の面々が問題王女の部屋へとやってきたのだ。
「謁見を直前にボイコットとは、どうゆうつもりだ!」
ズカズカと歩み寄りドカリとソファに座りながら国王は声をあげた。
「直前ではありません。行った上でのボイコットです。お父様たちの顔をたてて、わたくしなりの誠意は見せましたわっ」
カチャンと音をたててカップ置くナティアナ第一王は父である国王を睨んだ。国王の隣に腰をかけた王妃はオロオロとするばかりで、国王の後に立ったゲイリック第一王子はあきれ顔をしかめ顔に変えた。
「あれはまだ子供ではありませんかっ! わたくしのお相手は十八歳との盟約だったはずですわ。わたくしは子供との婚姻などいたしませんっ!」
「でもね、昨日の書状でも、アノスジェン殿は十八歳だと確認しているわ。貴女、お顔は見てないじゃない。なかなかに素敵な殿方だったわ。少しばかり体格がお小さいだけなのだと思うわよ」
『いやいや、顔つきも、発声も子供だったろう。この件に関して、彼の容貌など関係ない。そこを争っていることがすでに間違いなんだよ』
謁見に同行していたゲイリック第一王子は誤魔化そうとする王妃に心の中で呆れていた。
「だったら尚更嫌よっ! 一生、わたくしの方が背が高いなんて格好が悪すぎるわっ。あれをパートナーにしたらパーティにも行けやしないわっ」
国王は怒りで目をギラつかせているが、怒り過ぎて何も発することができなかった。
「父上、母上。こいつに何を言っても無駄ですよ。ことごとく婚姻願いを拒否されていることに気が付かないのですから。とにかく、執務室へ戻り対策を練りましょう」
メイドが水を国王に届けると国王はそれを一気飲みしてガチャンとテーブルに置いた。
「彼らが落ち着くまで謹慎だっ!」
「えー! 明日にはお茶会へお呼ばれしてますのよ」
国王がすごい勢いで立ち上がった。
「彼の婚姻が済まなければ謹慎は解かぬっ! そなたらも心得よっ! 王女が破った時点で関係者は全員解雇っ! 力づくで止めてももかまわん」
メイドや執事や護衛や深々と頭を下げる。三人は足早にナティアナ第一王女の部屋を出ていった。扉が閉まると金切声や何かが割れる音がしたが三人は振り返ることはなかった。
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