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32/38

32 貴族服

登場人物

アノスジェン・セレアン伯爵子息

『18歳・家族から虐待を受けてきた主人公』


ルートン・セレアン伯爵子息

『アノスジェンの同い年の異母兄』


クィント・セレアン伯爵

『アノスジェンとルートンの父親』


モニィシャ・セレアン元聖女見習い

『アノスジェンの母親』


モーリッシュ・セレアン伯爵夫人

『ルートンの母親』


ワディン・レムダ男爵子息

『15歳・アノスジェンの従者』


ニール、ヘリン、トビー

『マレアード王国からの護衛騎士』

 マレガード王国の王城にある騎士団事務局にニールからの手紙が届き、国王執務室秘書課に届けられた。中身を確認した総務大臣が国王に報告する。法務大臣もそこにいた。


「そうか。すでに結納金は受け取っているのだ。無事に国境さえ越えればあとはどうでもかまわん。そなたたちで判断せよ」


 つまりは、今後アノスジェンたちに何があっても国王に報告する必要はなく、国としての責任も無いとするということだ。総務大臣も法務大臣も当然というように事務的に部下へ指示され、アノスジェンの婿入りはマレガード王国にとってすでに過去のこと扱いになった。


 そして、フオジスト王国の王城に届いた手紙はフオジスト国王に報告される。家族が揃う食事の席で国王は第一王女に釘を刺した。


「例の婿があと数日で到着するようだ。ナティアナ。しっかり出迎えられるよう、準備は怠るな」


 ナティアナ第一王女は返事もせずにワインを口にした。


「聞いておるのかっ! わが国の未来が開けるかもしれない縁談なのだぞ。多額の結納金が国庫から支払われているのだ」


「顔も知らぬ方との縁談など嫌です! どうしてわたくしがそのような婚姻をしなくてはならないの。したいのならお父様がどうぞなさったらいいわ」 


 ナティアナは立ち上がり、ハーフアップにした赤金髪を振り乱しながら食堂を後にした。

 

「甘やかし過ぎたようだ……」


「陛下。無理強いができますでしょうか……」


 国王と王妃は頭を抱え、その姿を第一王子は視界に入れたくもないとカトラリーを動かし食事を黙々と続けた。


****

 

 難なく国境を越えた五人は順調に旅を続け6日後にはフオジスト王国の王都に着いた。これまでとは雰囲気の違う高級宿に入るといぶかしんだ顔をされたが、前金を渡すとお忍び旅だと判断され、にこやかに部屋へと案内された。アノスジェンはたくさんの経験をしてきたと自負していたが、高級宿の絢爛さに興奮している。その姿を四人はほのぼのと見守っていた。


 先触れとしてニールが王城へ行くとトントン拍子に話はすすみ、翌日には国王との謁見となった。

 だが、慌てたのは五人の方だった。アノスジェンにマレガード王国の王都に近い街で購入した正装を着せてみるとまるで丈が合わず着ることさえできなかったのだ。


「1ヶ月前の服が着れないとは……」


「申し訳ありません。私の服がありましたので、普段着は問題なく過ごせていました」


 ワディンが眉を下げて謝った。アノスジェンは自分の服が着れなくなるとワディンの服の袖を少しまくりあげて着ていた。アノスジェンもワディンもこのような事態は想定しておらず、普段着を共有していることをわざわざ報告することはなかったのだった。


「と、とりあえず、急いで仕立て屋へ行こう」


 アノスジェンとニールとワディンが仕立て屋へ行ってみたものの、世間知らずの十八歳と遊ぶこともなく奉公に出た十五歳と婚姻話もない騎士団生活の三十二歳の男たちでは何を選ぶこともできず、店員にお任せするしかなかった。


「まあ! 可愛らしいお坊ちゃまですこと。そうですの、隣国からの視察団様で。

 まあ! 明日が国王陛下との謁見ですの? お子様用の礼服はオーダーメイドが基本ですのよ。でも仕方ございませんね。こちらのお洋服に少々装飾を増やすのはいかがかしら?

 まあ! お色はとてもお似合いですわ! では、早速仕立て直しいたしますわね」


 まくしたてる様にしゃべるオーナーマダムに翻弄されながらやっと決まり、三人はフラフラと店を後にした。


「兄貴たちはパーティに出るたびにこの戦いをしているのか?」


「ルートン様がご自宅で楽しそうにしていらっしゃったからそういうものだと思っておりましたが、人には向き不向きがあるようですね」


「同じような洋服を10回も着替えるなんてびっくりだよ」


「お客様ぁ! お待ちになってぇ!」


 三人がギョッとして振り返るとオーナーマダムが手を振って小走りしてきた。


「お客様が何をお召しになってもお似合いになるので楽しすぎて、わたくしったら、失念しておりましたわ。お客様はお靴やマントはご用意できておりますの? クラバットは? シャボは?」


 三人が首を横に振る。


「まあ! それは大変ですわ! さ、ささ。お店へお戻りくださいませ。この国では男性のオシャレにはマントと首まわりのオシャレは欠かせませんのよぉ」


 げんなりとしつつもオーナーマダムの言う通りにしないという手段のない三人はとぼとぼと店に戻るしかなかった。

本日より『承』スタート


毎日夜6:40更新

1話ずつになります。

 

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