31 練習
順番間違えました。すみません。
トビーは宿に戻るとヘリンが戻っていたことを見留て二人に今日の出来事を話した。そしてこの日の力も秘密にすべきことだと確認した。
「で、ヘリンの方は何か進展はあったか?」
「まだ確実ではないのですが、アノスジェン様のお力は【魔法】というより【祈り】に近いのかなと考えています。セレアン伯爵家は司祭系の家柄ですし、母上のモニィシャ様は聖女候補の方でしたから、十分にありえると」
ヘリンは一人行動で教会に聞き込みに行ったり図書館で調べたりして至った考えを報告した。
「なるほど、つまり祈祷力か。俺たちには理解できない事由であることにもつながるな」
「だけど今日みたいなものは? アノスジェン様は祈った様子ないし」
「祈祷力は自己防衛が優れているのかもしれないですね。自然との交流力や治癒力もあるとよく聞きます」
「とにかく、これは内密だ。あちらの国へ行って、もし信頼できる方に出会えれば教会で診断してもらう等考えよう」
三人はアノスジェンの様子やワディンからの情報などでアノスジェンをセレアン伯爵家へ戻すことになりそうなことは避けたいと考え、それを共有していた。
翌朝、アノスジェンがどれくらいの魔法ができるのかを確認することにした五人は弁当を持って街からほど近い森へ出向いた。少し開けた場所を見つけ荷物を置いた。トビーはワディンに攻撃魔法を教えると言って少し離れた場所へ移動していく。
ヘリンが解説をしながら実演してみせていく。
「基本的な魔法は火【フィア】水【ウォル】土【アスル】風【ウィア】です。魔力量によって多少異なりますが、1点に魔力を集中させて詠唱し魔法発動です。出力魔力で大きさが変わるのでその調整が大切です」
ヘリンが腕を伸ばし人差し指を立て「フィア」と唱えると指先からほど近いところに頭大の炎が出現した。
「おおお!」
アノスジェンは他の人が何気なく生活魔法を使用しているところは何度も見たが、解説付きで見ると驚きが増す。
「安全性を考えてまずは水を出してみましょう」
ヘリンが同じように「ウォル」と唱えると拳大の水球が現れた。アノスジェンも真似をしてみる。頭大の水球が現れる。
「一旦解除して、もう少し出力を抑えたものを発動してみてください」
今度は拳大の水球になった。
「では解除して、今と同じ出力で火を出してみましょう」
アノスジェンが試してみると指先にマッチの火ほどの炎が出現し、アノスジェンは啞然とする。
「アノスジェン様は火よりも水との相性がいいようです。私は火との相性がいいため水球より炎の方が大きいものになったのです」
アノスジェンが同じように風魔法も試すと水魔法と同じくらいの大きさの風塵が指先に舞う。土魔法ではもぐらの頭ほどの膨らみが足元にできた。
アノスジェンが一つ一つに感動して喜んでいる姿をニールは目を細めて見守っていた。
「生活魔法としてはこのくらいで困ることはないでしょう。魔力を一度にもっとたくさん出力したいときは掌に集中させます」
ヘリンが腕を伸ばし掌を外へ向け「ウォル」と唱えると両手を広げたほどの水球が現れ、手を握るとその場で水球が割れた。
「ここまでのものはあまり使うことはありません」
ヘリンは『戦闘でもないかぎり』という言葉を出さなかった。
「では、次です。アノスジェン様はお祈りをしていらっしゃいますね。『お水をください』とお祈りしてみてください」
アノスジェンはこれまで神に『見守ってほしい』とか『みんなへ恵みを』と願ったことはあれど、具体的に『水』と願ったことはなかった。
草原の広がりにひざまずき心でつぶやく。
『水の恵みをお与えください』
「「アノスジェン様!!!」」
ヘリンがアノスジェンへ覆いかぶさるのとニールが走り出すは同時だった。キョトンとするアノスジェンがヘリンの肩越しに見たものは浴槽2つ分ほどの水球。
「ありがとうございます」
啞然とした顔のままのアノスジェンが水球に礼を言うと水球が霧散し、三人の上に霧シャワーが注がれる。ホッとしたニールが思わず膝をついた。
「今度はもっと具体的な量を想像してお祈りしなくてはなりませんね」
苦笑いのニールにアノスジェンはどんぐり眼で頷いた。




