30 食材
この旅でお互いの好みを把握しつつある三人は悩むことなく品物を選び両手に持って広場に備え付けられたガーデンテーブルへ運んだ。
「おっと忘れてた。二人に食べさせたいものがあったんだ。ちょっともう1店行ってくる。先に食べててくれ」
両手の料理をテーブルに置いたトビーが踵を返して走って行った。トビーが自分たちより食べるのが早いことを知っている二人は遠慮なく食べ始めた。どれもこれもとても美味しい。
トビーはすぐに戻ってきた。スープ皿を持っている。
「これがうまいんだよ」
トビーが嬉しそうにテーブルに置くとアノスジェンの眉がピクリと動いた。
「これ、食べちゃダメ……」
冷静な声に二人は耳を傾ける。
「なんでだ?」
「わからないけど、ダメって思う」
「そうか。これは俺たちにとってダメなのか? 誰にとってもダメなのか?」
アレルギーや苦手な食材でダメだということも考えられる。
「みんなにダメだよ」
「それはまずいな。アノスジェン様。俺とこの屋台へ行ってくれるか? ワディン、一人で悪いけどここで待っていてくれ」
二人はトビーの指示に頷いて行動に移った。店の前に立つとトビーは人懐っこい顔で店主に声をかけた。
「おお! さっきの気前のいいお兄さん。おかわりかい?」
「いや、ちょっと聞きたいことがあって」
いきなり因縁めいたことも言えずトビーは口ごもる。
「トビーさん、たぶんあれです」
アノスジェンはトビーの耳元で囁きながらカウンター奥の食材を指さした。トビーは全面的にアノスジェンを信じることにした。
「店主。食材に何かやましいことないか?」
トビーは店主に顔を寄せると小さいが凄みのある声で尋ねた。店主の肩がビクリと動く。
「とにかく、今すぐに店閉いしな」
ブンブンと縦に首を振ると【売り切れ】札を前に出して鍋を下げた。
「アース。ワディンのところに戻っていてくれ。俺は少し店主と話すから」
「アース」と呼ばれたアノスジェンは頷くと走り出した。トビーは店の奥で店主の肩を抱いて座り込んだ。
「で? 何をやらかしたんだ?」
「き、昨日、仕入れ先の八百屋が閉まっていてキノコの調達ができなかったんだ」
「だからって、キノコは販売に許可が必要なほど難しい食材なはずだ」
「あんなの森でいくらでも採れるじゃないか。俺も何度も食べている。それなのに買ったキノコしか使えないんじゃ、割高になっちまうんだよ」
森での採取と摂取は自己責任だが、販売するには資格が必要で、販売する食品にはそれらを使う義務があった。とはいえ、管理は杜撰で、違反している者はたくさんいるし、見て見ぬふりは暗黙の了解となっている。
「とにかく、今回はハズレだ。俺はこの街の管理局じゃないからよ、うるさくは言わねぇが。おっさんのスープ、味はいいんだからキノコでかさ増しとかやめとけよ。おかげで弟たちに美味いスープ飲ませられなかったじゃねえか」
「わ、わかった……」
「あのぉ」
小さな声がして二人は頭をあげた。アノスジェンが手に薬草を握っていた。
「これをかじれば悪いところはおさまります。もし、誰かが来たら葉っぱを2枚くらいあげてください」
「アース。それどうしたんだ?」
「? 薬草のお店で買ってきましたよ」
「だそうだ」
トビーは店主に手を出した。店主も納得してお金を払った。テッドは過不足無く受け取った。
二人は店を後にしてワディンの元へと戻ると、ワディンも先ほど以上は食べておらずやっと昼食になった。
「それにしてもアノスジェン様はよくわかりましたね。スープを見るかぎりではキノコが入っているかなんてわからないでしょう」
「だって、なんかザワザワするでしょう?」
アノスジェンの言葉に二人はキョトンとする。
「食べちゃいけないものって近くにいくと手の指がザワザワっていうかくすぐったくなるんだよ。あのお店では何かあるんだなって思ってジィーって見てたら、キノコを見た時に目がザワザワしたんだ」
「そんなこともできるんですねぇ」
トビーは食べる手を止めることなく感心していた。アノスジェンは『これも言ってはいけないことなんだな』と心に停めた。
「それもお屋敷での食事に役立っていたんですか?」
ワディンはシュンとしてスプーンを置き、アノスジェンが慌てる。トビーはワディンの頭をくしゃくしゃと撫でて、皿をすすめる。
トビーの気遣いでアノスジェンの様子に気がついたワディンは急いでスプーンを手にして皿を引き寄せた。
「これからは安全で美味しいものをたくさん食べましょうね」
「うん!」
アノスジェンも皿に顔を埋めるように笑顔でそれらを食べた。
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