29 夢の中
朝早く目が覚めたアノスジェンは宿の裏にある井戸へ向かった。胸のポケットをポンポンと軽くノックすると薄い水色のトカゲもどきがスルスルと出てきてアノスジェンの掌に乗った。
「アズリュー! おはよう! 昨夜久しぶりに君の夢を見たよ。おかげで気持ちがすっきりしたんだ。不思議だよね。お屋敷にいたときには夢にちょくちょく出てきたのに、本当に久しぶりだったよ」
アズリューを肩に乗せると井戸の水を部屋から持ってきた皿に移してアズリューに差し出す。アズリューは待ってましたとばかりに飛び込んだ。アノスジェンは井戸を確認できた宿ではこうしてアズリューと交流している。
「僕はセレアン伯爵家のお屋敷でのことしか知らないから世間との違いがわからない。でも、ワディンやニールさんたちを信じていこうと思っているんだ」
アズリューは皿の中をクルクルとまわり、アノスジェンは微笑んだ。
「そっか。アズリューも賛成してくれるんだね。みんないい人でよかったよ。これからいろいろなことを知ることができそうだよ」
「アノスジェン様。眠れなかったのですか?」
振り返ると心配そうな瞳のニールが立っていた。
「ううん! ゆっくり休めたよ。心配かけちゃった。ごめ……」
アノスジェンは「この旅では要人として一番の貴人である」と教わったことを思い出し、「ごめんなさい」という言葉を止めた。ふっと小さく息を吐く。
「僕、わからないことがたくさんあって迷惑かけるかもしれないけど、よろしくね」
「とんでもございません。俺たちも焦り過ぎました。すみません。アノスジェン様ならゆっくりと話せばわかってくださるのに……」
「ニールさん。ありがとう。大丈夫。みんなの心遣いはわかっているから」
いつの間にかニールの後にいたワディンは袖口で涙を拭いた。
その日からヘリンと魔法について講義やアノスジェンの現状確認などを馬車の中で行った。
王都を出立して12日、昼前に国境の街へ到着した。
「すごく人がいっぱいだね!」
「ええ、格好もいろいろですね」
これまでの街と比べても賑わった通りにアノスジェンもワディンも窓にしがみついて興奮していた。両国へ現状報告などをするため2泊滞在することになる。ニールはそれらの仕事をすると言って宿屋の部屋へ入って行った。ヘリンは調べ物があるからと、馬をかって出かけて行った。
「では、三人で買い出しだっ! ニールさんは昼飯を宿で済ませるって言ってるんで、俺たちは屋台でもいいっすね」
やる気いっぱいのトビーは二人を連れ出してショッピングへ向かう。二人も足取り軽く付いて行った。
これまでの旅で露店を体験してきたアノスジェンだが、これほどまでにたくさんの露店が並んでいるのは見たことがない。ワディンは王都の露店街を知っているので慌てることも興奮し過ぎることもなく、アノスジェンを守るように最後尾で歩いた。
「国境街なんで、どちらの国の料理も並んでいるんだけど、これから先はフオジスト王国料理が増えるからね、今日はマレガード王国料理を楽しもう!」
この街の経験者であるはずのトビーが一番興奮しているように見えて、アノスジェンのウキウキも増していく。昼食にはまだ早いからと小物が並ぶ露店を見ていく。
「フオジスト王国は綿花が盛んで、織物も多い。気候もマレガード王国より暑いから、ハンカチやバンダナでオシャレと実用も兼ねているんだ。ほら、よく見たらフオジスト王国人とみてとれる人がわかるだろう」
確かに額にバンダナを巻いたり、胸ポケットからハンカチを出したり、ベルトループにバンダナを結びつけたりと、持っていることを強調するような使い方をしている人がそこここにいた。
二人はそれを確認すると尊敬の眼差しでトビーを見た。鼻高々にしたトビーだったが、年下の二人の純粋な瞳がおもがゆくなってきた。
「と、いうのがヘリンさんからの情報だ。だからそれぞれの分を3枚ずつ買うぞ。それが任務だ」
三人でたいそう笑ってから品物を選んでいった。ワイワイと色や柄などを話し合いながら買い物していたらあっという間に昼が過ぎていた。
買い物を終えた三人は飲食の露店へ向かう。
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少したまったのでしばらく2話更新しまーす。
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