28 未知
次の街への道、ヘリンは森でのことを報告するためにニールとともに御者台へ座った。馬にはトビーが乗っている。
馬車の中で二人きりになったので、ワディンはアノスジェンに疑問を投げた。
「アノスジェン様は魔法がお使いになれたのですね」
「え? 魔法なんて使ってないよ?」
「ですが、風魔法で果実を手元に」
「あれはナゴンの木にお願いしたんだよ」
当然とばかりに笑顔のアノスジェン。だが、ワディンは戸惑いを隠せない。
「お願い? ですか……? 確かに詠唱していませんでしたから魔法ではないのかもしれませんね。
もしや、屋敷の森でもそのように食料を調達していたのですか?」
「うん。あの森は果実は少ないけど木ノ実は少しあったから。高いところのやつは木にお願いしていたよ。バーニの実は本当によくもらっていた」
なんでもないことのように「木からもらっていた」と言うアノスジェンにワディンは不安になった。
「これはニールさんに相談してみますが、とりあえずは誰かの前でやってみせたり、誰かに話したりしない方がいいことだと思います」
心配そうなワディンの顔にアノスジェンは驚いた。
「どうして? みんな森の恵みはもらうでしょう?」
「確かにいただきますが……。普通は、ヘリンさんがやろうとしたように木に登るとか、はしごを使うとか、棒で叩き落とすとか……。あとは風魔法です。でも、風の加減が難しくて、木ノ実や果実を全部落としてしまったり、葉も落としてしまったり、最悪な場合、枝を落としてしまったりするのです。アノスジェン様のように必要分を過不足無く手にするなど……奇跡です」
アノスジェンはびっくりしていた。屋敷の森でもお願いすればその日に必要な分だけが手に落ちてきた。今日も五人で旅をしていると頭で考えたら5個の果実が手に入った。
その日の夕食の後、ニールたちの部屋に五人で集まった。トビーにもすでに経緯は説明済みだ。
「アノスジェン様。率直に言いますが、今日起きたことは他言無用で、他の者の前ではやらないでください」
ワディンと同じことを言うニールのまっすぐな目にアノスジェンはしょんぼりした。その姿にヘリンが慌てる。
「我々は怒っているわけではありません。ただ、心配しているのです。我々にとって、アノスジェン様のお力は未知なるものです。未知なるものは敬意にもなりますが恐怖や忌避にもなります」
ワディンがヘリンを止めた。ヘリンは必死になりすぎてついつい難しく説明していた。勉強を初めてまだ数週間のアノスジェンには雰囲気は伝わるが正確には伝わらないとワディンは感じとる。
「アノスジェン様。不思議な力は相手にお慕いする気持ちにも怖がる気持ちにもさせるということです。怖がる気持ちが膨れると攻撃することにもつながることがあります」
攻撃されるという恐怖が屋敷での生活を思い出させ、アノスジェンが小さく震えた。
「大丈夫です! 大丈夫です! 私たちはアノスジェン様を殴ったり、食事を抜いたりしませんよ。ただ心配しているだけです」
ワディンがアノスジェンを慰めるために発した言葉に騎士三人は頬を引きつらせたが『今はそれでない』と思い直し、ニールが眉尻を下げて懇願するようにアノスジェンを見つめた。
「俺たちはアノスジェン様に攻撃が向くことは避けたいのです」
アノスジェンはコクリと頷く。
「しばらくはヘリンを馬車詰めにします。ヘリンは我々三人の中で一番魔法に詳しいのです。アノスジェン様がどういうことができるのか話をしてみてください。何かヒントが見つかるかもしれません」
アノスジェンがさらに小さくなった。
「ごめんなさい……」
ワディンは屋敷にいた頃のアノスジェンに戻ってしまうこではとの不安と支えたいという気持ちでグッと込み上げるものを飲み込んだ。
トビーがアノスジェンの後にまわり両肩に手を添えた。
「とにかく! 今はこれ以上心配しても始まらないよ! みんなで考えていこう! いざとなったら五人で逃げよう!」
トビーの明るい冗談で、その場は解散することになった。
その日のアノスジェンのベッドでは、誰にも気が付かれずに、トカゲもどきのアズリューが慰めるようにアノスジェンの涙をチロチロと舐めていた。
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少したまったのでしばらく2話更新しまーす。
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